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唯一となった聖女を巡って

「俺はここの周辺にいる。また後で様子を見に来るから、十分に気をつけて」


「ご迷惑をお掛けしました」


 余計な仕事を増やしてしまったと、レオンに頭を下げる。


 でもやっぱりレオンは嫌な顔をしなかった。


「そんな風には思わないで。じゃあ、また後で」


 調理場を後にするその背中を見送り、私も仕事に戻る。


 調理場の中に篭ってさえいれば、何かに巻き込まれることはないはずで、だからジーナさんと黙々と昼食作りに励んでいた。


 正午に近づくにつれ、徐々に食堂の方に騎士達が集まり始める。


「シャーロット、配膳を頼んでいいかい?鍋の方は若いのがよそうから」


「はい」


 パンが入ったカゴを持ってカウンターに立つと、列を成した騎士達が待ち構えていた。


「よぉ、シャーロット。ナンパされていたって?」


 その中の一人、レインさんのトレーにトングを使ってパンを置くと、いつものニヤニヤとした笑いを向けられた。


「レオンの奴がソワソワしてて、あいつの休憩時間はまだ後だから、俺が様子を見に来てやったって訳だ」


 聞いてもいない事を、ペラペラと喋っている。


 ただ単に、休憩時間になったからお昼を食べに来ただけですよね?


 そう思っていても言葉にはしない。


 答えたらそれだけレインさんの話が長くなるからだ。


 レインさんへの配膳が終わっても、横に立って私が他の人にパンを配る間も喋り続けていた。


 食事が冷めるのはいいのだろうか。


「向こうの大陸に戻れなくなった奴らもいるから、俺達の仕事は増える一方だ。商人連中は商魂逞しいから、まだどうにかするだろうがな」


「レイン、お前が仕事が増えると嘆くな。まず、仕事をしてから言え」


 騎士の誰かから言われようとも、レインさんのニヤニヤ笑いは止まらない。


「食う前に働け!」


「弟を見習え!」


 さらに他の騎士が追随し、食堂は賑やかさを増して、


「あんた達、それ以上騒ぐんじゃないよ!」


 ジーナさんが包丁を振りかざして怒鳴りつけたところで、静かになっていた。


 そんな騒ぎを横目に思っていた事は、ここの大陸の人達は民間人の心配をしている場合ではないといったものだった。


 商人や民間人のことよりも、騎士達が心配すべきは他にある。


 今はまだ向こうの大陸の連合国同士で争っているかもしれないけど、海を渡って聖女を拐いにくるなんてことも有り得る話だ。


 海を渡って大軍を動かす力は、あの大陸の国にはない。


 でも、少数精鋭で動くのなら分からない。


 特殊な能力を持つ者達も、まだ生き残っているはずだ。


 月華騎士団の脅威となるのは、間違いなくあの影と呼ばれている人達だ。


 それはどれも、私には関係のないことだけど。


 月の聖女が星の大陸に行って、加護が与えられるものなのか、そもそも聖女を処刑したこと自体が歴史上なかったことだから、誰にも分からないはず。


 でも、追い詰められた者達が何をしでかすかは、それこそ分からない。


「レイン……まだ喋っていたのか……」


 私がそんな事を考えている間、結局どれだけ窘められてもレインさんの話はレオンが来るまで続けられて、兄弟仲良く食事の席に着いていた。


 レインさんは確実にサボりの時間に入っていたと思うけど、あの人を叱る事ができるのは、レオン以外にはいなかった。














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