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偽りの聖女、真の聖女

 処刑される前の私は、ロズワンド王国の王太子妃候補として、修道会で過ごしながら王妃教育も受けていた。


 この世界に存在する二大陸のうちの一つ、ドールドラン大陸は、通称“星の大陸”と呼ばれている。


 その星の大陸内の6ヶ国連合に、ロズワンド王国は名を連ねていた。


 6ヶ国連合の中で聖女を囲うことにより、発言力を誇示したいが為の婚姻だった。


 それは国にとっての利益が優先されるだけで、私の意思など関係なく苦痛にしかならないものだった。


 そもそも聖女と呼びながらも、私のことを人間扱いしていなかったのだ。


 生まれた場所、もしくは発見された場所でどの国が聖女を“保護”するか決まる。


 私にとって、ロズワンドは良い所ではなかった。


 バージル王太子からは蔑んだ視線しか向けられず、王都の修道会に連れてこられてから、言葉を交わしたことはほとんどない。


 お飾りの妃。


 彼からはすぐに側妃を娶ると宣言されていたから、本当に道具としか扱われない、無意味な結婚になる予定だった。


 虚しい日々の中、ある女性の噂を耳にしていた。


 各地を転々としながら人々を癒し、その姿はまるで聖女のようだと。


 私は何を言われようとも自分の責務を果たすだけで、強制された、祈りを捧げ続ける星篭りの20日間を迎え、でもそれが終わった時に状況が一変していた。


 隔離されていた場所から外に出ると、その時にはすでに王太子の隣には見知らぬ女性が立っていた。


 二人の仲睦まじい様子に、新たな王太子妃候補が擁立されたのなら、それはそれで良かったと思っていた。


 私の事は放っておいてくれればよかったのに。


 それなのに……


 彼女とは、言葉を交わしたことがない。


 何を思っていたのか聞いたこともない。


 私を排除しようと積極的に動いたのかも、知る機会はなかった。


 そもそもが聖職者であり、自由もなく、政局に疎い私が不利な状況に陥っている事に気付いた時には、何もかもが手遅れだった。


 周囲の人間の話では、彼女には聖女の力があり、星を瞬かせて見せたのだそうだ。


 私が使うことのできない強力な神聖魔法が使え、それを使用するたびにキラキラと光が瞬くのだと。


 いわゆる、人を癒す力。


 歴代の聖女と認定された人達の中で、唯一、私だけが神聖魔法が使えなかった。


 主神様の声を聞き、名を授かったのだとしても、神聖魔法が使えないだけで猜疑の目を向けられていた。


 拷問されている最中、聖女なら自分の傷を癒せるだろうと散々罵られ、嘲笑を向けられ、笑いながら痛めつけられていた。


 私は本当に無力で、無能だった。


 修練を重ねた聖職者の中にも神聖魔法を使える者はいるのに、私には全くその傾向がなかった。


 どれだけ疑いの目を向けられても両親がすでに他界している今、帰るところがないから聖女として祈りを捧げることしかできなかった。


 それに、母を救ってもらう代わりに、そういう()()だったから。


 まだここに来る前、両親が私を連れて転々としていたある日、生活費を稼ぐために無理をしたのか父が病で倒れた。


 そして、あっという間に還らぬ人となり、残された母は女手一つで私を育てていた。


 でも、今度は母も病気になり、5歳となっていた私は修道会に名乗り出て、母を救って欲しいと頼み込んだ。


 そもそも私が神聖魔法を使えていれば、父も母も死なすことはなかったのに、私が無力なばかりに……


 そうして、私と母は王都に行き、母の穏やかな最期を迎える時までは一緒に過ごす事ができた。


 それはほんの半年の間のことだったけど、温かいスープを口にでき、温かいベッドで休む母の姿は私を安心させた。


 母が亡くなって一人になってからは、聖殿で過ごすことが多かった。


 親しくしてくれる者もなく、唯一の話し相手は、星読みの神官であるヨハンさんだった。


 ヨハンさんは、私達親子にとても良くしてくれた、唯一心許せる人だった。


 でも、彼も、私の処刑が決まってから一足早く処刑されてしまっている。


 ニセモノの聖女()と共謀した罪で……


 ヨハンさんを投獄したのは、新たな星読みの神官となったマーレン・コールダーで、彼の方こそ星読みが何かも分からないような人だった。


 適当な事を言い、星読みと言いながらあの人は精霊を見ることができずに、いつも背を向けているような人だった。


 いくら説明しても、精霊の存在自体を認識できない人に何を言っても無駄なのだ。


 精霊がちゃんと見えるヨハンさんだけは、最後まで私が聖女だと訴え続けていた。


 世界の終わりを招くと説いていたのに。


 でも、彼も平民出身だったから……


 彼は最期のその時まで私に謝っていた。


 私を王都には連れてくるべきではなかったと。


 こんな所に閉じ込めてしまい、申し訳なかったと。
















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