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職業:白銀の乙女  作者: 紀美野ねこ
翔子とチョコと時々ダンジョン
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7. 翔子と美琴

 結局、会う話のメールにも速攻で返事が来て、明日の午後二時にということになった。

 場所はこっちが指定した駅ビルホテルのラウンジ。お昼は一杯千円とかのお高いコーヒーとか飲める感じ。

 ちなみに向こうは東京から出てくるらしい。田舎に住んでてごめんなさい。


「運転免許証があれば身分証明としては問題ないよね。あとは筆記用具とスマホとハンコも一応持って行くかな」


「変な書類にハンコ押さないようにね?」


「少なくとも、チョコがドナドナされるような書類にハンコは押さないから」


「車の運転もね? 免許取り立てなんだし、アウトなランとかニードがフォーでスピードなのはダメだよ?」


「はいはい」


 お昼ご飯にそんなやりとりをしてから出発。

 チョコには今日も蔵書部屋で本を読むことに専念してもらう予定。どんな本から読むかはチョコにおまかせにした。私が気になる本からになるはずだし。


 あとタイプ設定の件は保留中。チョコを返す必要もなくなったので、慌てることもないよねと。

 今日、その『白銀の館』の人と会って話をしてからということになった。


「ま、なんならタイプ設定するときには来てもらってもいいかもね」


 そんな独り言を呟きつつ車に乗る。この軽トラはお母さんが使ってたやつ。

 お父さんが使ってたのは……ね……


「はあ、運転したくないけど、運転しないと生きていけないのが田舎なんだよね」


 ため息ひとつ、エンジンをかける。

 安全運転で行かないとね……


***


 駅近くの駐車場に車を置き、駅ビルに入る。

 一階は改札、二階がホーム、三階に商業施設と目的のホテルのフロントがある。

 待ち合わせはフロントの正面でということにした。

 時間はちょっと早いかな? まだ十五分前だしと思ってたら、


「すいません。雑賀翔子さんですか?」


「え? あ、はい、そうです」


 突然話しかけられた相手を見ると、私より小柄で若そうな女性がきっちりとしたスーツ姿で立っていた。

 あー、カジュアルな格好で来るんじゃなかったと後悔していると、その女性が名刺を取り出して私へと差し出す。


「改めて初めまして。白銀の館、館長秘書をしています、佐藤美琴と申します」


「あ、どうもご丁寧に。すいません、名刺とか持ってなくて……」


「いえいえ、気になさらずに。では、入りましょうか」


 佐藤さん、慣れてる感じだなー。歳は私より下っぽいけど、そう見えるだけだよね? だって、私より下だと高校生になっちゃうし。

 ウエイトレスに案内されるままに席に着く私たち。隣の席とは随分と距離が空いているので、普通に喋っても漏れ聞こえたりはしないかな?

 佐藤さんに先にと促され、私はアイスコーヒーを頼む。佐藤さんも同じものをと続ける。


「えっと、雑賀翔子です。いきなりメールしてすいませんでした」


「いえいえ、こちらも探していたものなので助かりました」


 そこまで話したところでアイスコーヒーが来たので、それが置かれるまでしばし待つ。

 そして、一礼したウエイトレスが遠ざかったのを確認し、


「それで、その……アレってなんですか?」


 その問いに佐藤さんはニッコリ……目がちょっと怖い。

 そしてサイドバッグから何やら書類を取り出すと、


「これは昨日送らせていただいたNDA書類です。こちらのハンコは押してありますので、お願いできますか? すいませんが、館長がそこはきっちりと言ってまして」


「あ、はい。了解です」


 書類を手に取って一応再確認。

 昨日のドラフトはチョコとじっくり確認して『問題なし』という結論に。

 一般的な「お互いだけが知ってること、これから仕事上で知ることは、第三者には言わないでね」っていう感じだったので。


「こことここに押印お願いします」


「はい」


 ハンコ持って来ておいて正解だった。

 で、もう話して良いのかなと目線を送ると……


「ありがとうございます。これで雑賀様と例の事についてしっかりお話できます」


「あ、えっと、その前にですね。私まだ十八なので、敬語はなしでお願いできますか?」


 自分より年下に見える女の子にバリバリの敬語を使われると辛い。まるで自分が老けたような気がして辛い。


「では、遠慮なく翔子さんでいいです? 翔子さんも敬語は不要ですからね。まだ二十歳ですし、私のことは美琴と呼んでください」


「あ、じゃ、美琴さんで」


 二十歳って年上に見えない件。まあ、そうだよね。

 六条グループ関連企業に勤めてて、大卒でないのが不思議なくらいだけど。いや、短大なら二十歳なんだっけ?


「例の話の前に少し翔子さんのことについて聞いても良いです?」


「あ、はい、どうぞ」


「今春にダイクロシステムズに入社、試用期間終了と同時に解雇というのは事実ですか?」


 あいたたたた……

 そりゃ、私のこと調べてから来るよね。どこから漏れたんだろう、ってダイクロだよねえ。


「うっ、その通りです……」


「ああ、ごめんなさい。でも、それに関しては正直良かったと思いますよ。詳しいことは後ほど話しますが、あそこはかなりブラックなので……」


「え? そうなんです?」


「試用期間中は普通らしいですけど、派遣先に時間外労働を申告しなくても良いような話が裏で通ってることが多いらしくて」


 えー、それってバレたらヤバいどころの話じゃないのでは……


「本社ビルが陥没に落ちたのは、病んで辞めた人の恨みが溜まったからじゃないですかね」


 またニッコリの美琴さん。やっぱり怖い。

 でも、そういうことなら辞めさせられたのも良かったってことなのかな。ついてないなって思ってたけど助かったと思うべき?


「それで、その前は私立で県内一の進学校を卒業とのことですが、なぜ大学に行かなかったんでしょう?」


「えーっと、なんでそんなことまで知ってるんでしょ?」


「ああ、ごめんなさい。ダイクロの人材派遣の営業資料って、ポストに突っ込まれるチラシぐらい頻繁にメールで来るんですよ」


「それって、普通は名前がわからないんじゃ?」


「あの会社、聞けば答えますよ」


 ……

 まあ、天下の六条グループから聞かれたら答えるよね。

 ということは、例の大陥没がなかったら、派遣先が見つかってた可能性もあるんだ。


「はあ。まあ、その通りです。実は……」


 私が高一の時に両親を交通事故で失ったことを話すと、


「ご、ごめんなさい」


 美琴さんは思い切り頭を下げて謝り始める。

 履歴書には家族構成までは書かれていないし、そんなことに気づけるはずもない。

 彼女だって悪気があって聞いたわけじゃないんだし、私はまあまあと続きを話す。


「そんなわけで、早く働いてお金稼がないとなって」


「すごいです」


 すいません。すごくないです。

 早く自分で稼いだお金でオタク趣味を満喫したかっただけです。それで安直にお給金良さそうな会社を選んだせいでこのざまなわけです。


「えーっと、それはそれとして、私からも『白銀の館』のことを聞いても?」


「あ、えーっとですね。まずは場所を変えませんか?」


 え? 秘密保持契約した上で、この場所でもダメな話になるの!?


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