50. 翔子とスケジュール
「さて、いろいろと慌ただしくて申し訳ないが、これからのことについて説明させていただく」
場所を智沙さんの部屋に移し、今後のざっくりとした予定について認識合わせということに。
椅子は四つしかないので、私とチョコは智沙さんのベッドに座らせてもらっている。なお、膝上はヨミが丸まって占拠中。
さっき同期したチョコの記憶だと、マルリーさんはチョコを鍛えにも来たらしい。第七階層に行くまでの間はすることもないので、全然良いんだけど……がんばれ。
「明後日は自衛隊……この国の軍隊がダンジョンの第一階層の安全を確認する。ゼルム殿が設置してくれた隠し扉で無事騙し通せればいいのだがな」
智沙さんが心配してるけど、あれはなかなか見破れるものでもないと思うし大丈夫なんじゃないかなあ。
今日、「あれ? ここだったよね?」ってなったし……
「その翌日は撤収の確認を私や六条建設の方で行うので、翌々日が第七階層にという予定だ」
つまり、明日は休み。明後日は自衛隊調査。明々後日が自衛隊撤収確認。で、その次の日にようやく第七階層アタックということになる。
私とチョコ、ディアナさん、マルリーさんは、第七階層アタックまですることがないことになる。さっきの話だと、その間にチョコが特訓されそうな感じだけど。
「はいー、一つお願いいいですかー?」
「ええ、どうぞ」
「いきなり第七階層に挑むのは不安がありますのでー、翔子さん、チョコさん、智沙さんの技量を確認する日が欲しいですねー。ここでもできると思いますが、できれば魔素の制限がないダンジョンでやっておきたいですー」
なんとも緊張感のない語り口だけど、マルリーさんが言ってることには納得が行った。
ずっと『白銀の乙女たち』でメイン盾をやってきたからには、メンバーの特性を知っておきたいところなんだと思うし。
「なるほど、確かに」
智沙さんも納得の模様。で、私たちに視線を。
「賛成です。特にチョコがどう動くかは合わせておいた方がいいかと」
私は主にヒーラーだろうし、その前にはバフかけたりとか神聖魔法に専念するはず。
チョコは今まではメイン盾だったけど、本物の『永遠の白銀』というメイン盾がいるんだし、攻撃役に回った方が効率は良さそう。
「では、丸一日調整日を取って、その翌日に第七階層ということでどうだろう?」
「いいと思いますー」
「了解した」
そのあとは、美琴さんの方からざっくりとここに滞在してる間のお願いなんかを。
とはいえ、この屋敷の外には出ないで欲しいぐらい? 他の使用人さんたちも訓練された使用人さんたちなので、ディアナさんの耳とか驚いても口外はしないよね。
で、この後、夕食時に館長さんに紹介という運びらしい。けど、まだ午後五時前ということで、しばらくは時間がある。
「訓練ができる場所があるそうですがー、ちょっと見させてもらっていいですかー?」
「ええ、もちろん。案内しましょう」
マルリーさんはチョコを鍛える気まんまんっぽいし、智沙さんはそもそもトレーニング好き。
これは確実に「せっかくだし少し運動しましょう」パターンだよね。とチョコを見ると、遠い目をしていた……
***
「はぁはぁ……。そろそろ、終わりでいいだろうか。シャワーを浴びた方が、いいだろう……」
みっちりと一時間、マルリーさんに鍛えられたのは、チョコだけでなく智沙さんもだった。
マルリーさんが、ポリカーボネートの小さい盾に興味を持ち、どういう感じなのかあーだこーだ話し始めてからはもうあっという間に。
「マルリーさんって意外と熱血なんですか? 白銀の乙女たちの中だと、割とお姉さん的なポジションだったと思うんですが」
「そうだな。私や周りに対しても年……姉のような存在なのは確かだが、こういう感じで指導をすることも多いように思う」
「なるほど」
まあ『白銀の乙女たち』として活躍してた時期と、そこから後では変わってくるのかな。支部のギルドマスターって言ってたから、もう後進の育成とかがメインなのかも。
「お、お疲れ、様でし、た……」
「はいー、お疲れ様でしたー」
チョコも智沙さんもぜいぜい言ってるのに、マルリーさんはちょっと汗かきましたねーって感じ。智沙さんもかなり本気っぽかったんだけど、フェンシングって盾持ち相手には辛いよね、多分……
それにしても、マルリーさんはすごかった。私の素人目でも「盾っていろんな使い方あるんだなー」と思わずにいられない。
受ける・いなすの使い分けがすごいというか、どちらをどうしたほうが相手を崩せるのかまで考えてる感じ……
「どうだった?」
「いや、もう、なんていうか無理ゲー。攻撃するたびに不利な体勢になるんだもん……」
だよねえ。打ち込むたびによろめかされるの見てると「時代劇の殺陣かな?」みたいな。
と、そこでトレーニング室の扉がバンっと開く。
「おう、やってんな!」
うん、まあ、この口調は館長さんだよね。
その後ろにはおでこを押さえている美琴さん。さっき「少し外します」って館長さんが来たからだったのね。
「あ、えーっと、ディアナさん、マルリーさん。この方がこちらの世界の白銀の館のギルドマスターでいいのかな? 六条絵理香さんです。あ、名前が絵理香で、苗字が六条です」
呼び捨ては不敬かなと思ったけど、向こうの言語で話せば大丈夫だよね? 変な誤解を招くよりは、きちんと説明した方が……って、あれ?
「ど、どうしました?」
二人とも顔がぽかーんなんだけど一体?
「あ、いや、すまん。我々がよく知っている方に非常に似ていてな」
そうなんだ。驚くぐらい似てるってことは歳も同じぐらいなのかな?
「どうした、翔子ちゃん?」
「あ、いや、お二人の知り合いに館長さんにそっくりな人がいるらしくて」
「あー、向こうのエリカのことだな。ま、気にすんな。世の中、自分にそっくりな人間が三人いるらしいぜ。違う世界も合わせたら六人ってこったな」
そう言って豪快に笑う。
館長さん「向こうのエリカ」って言ってたけど、そのそっくりな人のこと知ってるんだよね。
どういう関係なのか気になるけど……聞いたからってどうなるものでもないか。
「えーっと、似てるだけですからね?」
「あ、ああ、理解している。みっともないところを見せたな。改めて紹介していただけるだろうか」
冷静さを取り戻したディアナさん、そして、汗を拭いたマルリーさんを紹介すると、館長さんはそれぞれと嬉しそうに握手した。
「じゃ、飯にしよーぜ。あたし、もう腹ペコなんだよ」
言葉は通じてないけど、人懐っこい笑顔は世界が違っても共通なのかな。
ディアナさんもマルリーさんも、それに釣られたように笑顔になっていた。




