39. 翔子とディアナとヨミ
「ワフッ!」
白い何か、白い毛玉、白ワンコ。
かわいい! ふわふわ! もふもふ!
「ああ! 翔子ずるい!」
「チョコ君、それを預かろう」
智沙さんにタブレットを預けたチョコがもふもふ、もとい、白ワンコを抱き上げる。
まだ成犬じゃないのかな? 体に比べて足が大きい気がする。
「ワフン」
「はいはい、翔子もほら」
「うん」
渡されてだっこすると、うるうるとした目で見つめられて……くっころ。
いやいや、待って待って。向こうから来たんでしょ、この子。
「よいしょっと。どうやらヨミは二人を気に入ったらしいな」
そう声が聞こえた先、樹洞を潜ってきたディアナさんが笑顔で話しかけてきた。って、四つん這いのままなんだけど?
「お、お疲れ様です?」
チョコが手を引いてやっと立ち上がると、改めてニッコリと笑って自己紹介。
「ディアナだ。よろしく頼む」
「私はチョコです。えっと、翔子と智沙さんです」
それぞれと握手をするディアナさん。
エルフ、やっぱり美人だけど……エルフの胸は控え目な世界っぽいね。
「ワフッ!」
「ああ、この子の名前はヨミ。ルナウルフで一歳と少しだな」
へー…… へ?
「この子、狼なんですか!?」
「ん、ああ、そうだが。狼を見るのは初めてなのか?」
「ディアナ殿。この国は狼が絶滅して久しいのだ」
智沙さんがフォローを入れてくれる。ニホンオオカミって確か近代に入ってから絶滅したんだっけ? 江戸時代とかにはいたんだよね?
「む、そうだったのか。ヨミがいれば君たちも神聖魔法を使えると思うのだがな」
ディアナさん、私たちが神聖魔法を使えてないのを知ってるってことは、やっぱりカスタマーサポートさん? あ、いや、狼が絶滅してることを知らなかったし? んんん?
「すいません。ディアナさんは白銀の館のグランドマスターなんですよね? 私とチョコがお世話になってるカスタマーサポートさんですか?」
「あ、いや、君たちと手紙をやり取りしていたのは……空の賢者と呼ばれる人だ。本当なら彼女がグランドマスターをやるべきだが、まあいろいろとな」
と苦笑い。
カスタマーサポートさん、すごい人なんだろうと思ってたけど、やっぱりゼルムさんが言った通り賢者だったのね。それにしても『空の賢者』って……なんで空なの?
「それで、その賢者殿がこの子を?」
「ああ、翔子にチョコの二人に預けるので大切にして欲しいと」
「「やった!」」
思わずチョコとハモってしまう。
神聖魔法がどうこうはともかく、この白くてもふもふのワンコ、もといルナウルフの子を預けてくれるっていうのは嬉しい!
小さい頃からずっとワンコ飼いたかったけど、うまくタイミングが合わなかったりでダメだったんだよね。
「よろしくね、ヨミ!」
「ワフン」
チョコが前足を両手で握ると嬉しそうにそう答えるヨミ。うう、かわいすぎる……
「さて、そちらで保護している人たちの話をいいだろうか?」
「あ、すいません!」
ディアナさんの話では、この神樹のトンネルは多少無理をしてお願いしているらしいので、いったん戻るとのこと。
私たちと手紙でやりとりはできるわけで、改めて保護している人たちの帰還の日時を決めて伝えるという話に。
ちなみにゼルムさんたちドワーフは今日は第一階層で作業中。最初に籠ってた部屋の扉を外す作業をしてもらっている。それが終われば、第二階層への階段手前に扉を設置する作業をやってもらう予定だ。
「ふむ。その作業はいつ頃終わる予定だ?」
「今日は扉を外す方で、明日はつける方って言ってましたね」
扉を外す方の作業に関しては当初予定になかったんだけど、例の動画の件もあって、残しておくよりは外したほうがいいのではという話でそうなった。
扉なんてなかったって話になれば、あの動画もフェイクじゃんって……なるといいなあ、ぐらい?
「わかった。その作業の進捗も鑑みて帰還日程を決めよう」
「わかりました」
「おっと、そろそろ戻った方が良さそうだな」
ディアナさんが神樹に向き直ってそう告げる。
あんまり長い時間持たない感じかな? 体感で十五分ぐらい? まあ、急げば一度で全員帰れるとは思うけど。
「では、よろしく頼む」
四つん這いになったところでそう告げ、わっせわっせと前進して樹洞へと消えていくディアナさん。
「ねえ」
「ディアナさん、できる人っぽいのに残念なんだけど」
「いや、できる人なのは間違いないけど……残念だね」
***
「ゼルムさん、終わりました?」
「おう、終わったぞ!」
神樹の樹洞が元に戻ったのを確認した私たちは、ゆっくりとあちこちを確認しつつ第一階層まで戻ってきた。
しばらく見に行ってなかった第二・第三階層の部屋を見て回ったが、魔物も居なかったし、おかしなこともなさそうで一安心。
ヨミも「おさんぽ!」って感じでしっぽをふりふりしながら、私とチョコについてくる。かわいすぎてつらい。
「ワフワフ」
「ぬお! なんじゃ、このワンコは?」
あ、やっぱ普通はワンコって認識されるよね。
それはそれとして、神樹を経由して向こうの世界に帰れることになったのを説明すると、ゼルムさんたちは嬉しいような嬉しくないような微妙な表情に。
「あれ? もうちょっと喜んでもらえるかと思ったんですけど」
「ん、まあ、嬉しいがな。こっちの世界の酒と料理が美味すぎてな……」
そう言って目線を逸らされる。
あー、なんとなくわかる気がする。料理は向こうがどういうレベルなのかはわからないけど、カロリーバーを美味しいって言ってたし、お酒は絶対にこっちの方が上だろうなーと。
「ゼルム殿。御前には私から話しておくので、酒を対価に何かしら頼み事をという可能性も」
「おお! 遠慮なく言うてくれ!」
智沙さん、そんな提案しちゃっていいのかな? いや、別にいいのか。向こうから来るオーバーテクノロジーは魔導具ぐらいだし、ゼルムさんに作ってもらうとして工芸品とかそういうの?
「フィギュアとか作ってもらったらめっちゃ出来良さそう」
「それいいね。というか、こっちのプラモとか見せたらどうなるんだろ。負けじと頑張ってくれたりしないかな?」
「なるほど。ドワーフ脅威のメカニズム……」
向こうの世界にも静岡っぽいところあるのかな……




