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職業:白銀の乙女  作者: 紀美野ねこ
翔子とチョコと時々ダンジョン

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22. チョコと仮設長屋

 助け出したドワーフさんたちを運ぶ輸送車両は、ぱっと見は普通の中型トラック。六条のマークが入っていて、資材搬入用みたいな使われ方をするやつだと思う。

 けど、後ろを開けると、向かい合ったシートが配置されていて……兵員輸送車両っぽい感じになっている。すごい。

 智沙さんが運転するので、翔子と私はドワーフさんたちと話すために、一緒にそっちに乗ろうとしたんだけど……


「では、美琴はハンヴィーで先に行って報告を頼む」


「はい」


「「えっ!?」」


「じゃ、翔子さんもお願いしますね」


「え、ちょっ……」


 翔子は美琴さんにガッチリと腕を組まれて連れて行かれてしまった。

 ハンヴィー、置いていって後で回収かと思ってたんだけど、美琴さんが運転できるならそうなるよね。というか、あの部屋を見る限り……

 翔子、頑張って。クレイジーハンヴィーでないことを祈ってるよ……


「心配しなくても美琴は運転が上手い。それに何かに衝突しても、被害が出るのは向こうだ」


「はは……」


「チョコ君は同席してゼルム殿に色々と聞いておいてくれ」


 私がうなずいてそちらに乗り込むと、ゼルムさんは待ってたと言わんばかりに話しかけてきた。


「嬢ちゃんのいる国はなんなんだ?」


「なんなんだって……」


「この乗り物にしても、やたら高い建物にしても、ともかく目に映るもの全てが見たことないものばかりだぞ……」


 そうでしょうとも。とはいえ、今ここで私から「実は違う世界なんですよ」とバラすのもどうかなという気になる。

 それを決めるのは館長さんだろうし、伝えるのは翔子か美琴さんあたりの仕事だろう。


「違う国なので」


 とりあえずそう答えるしかない。

 それよりも翔子から頼まれていたことがあるので、そちらを聞いておかないと。


「で、この国には魔素がありません。それで皆さんの健康に害が出るようなら、またダンジョンに戻ってもらうかもしれないんです。あそこには魔素があったので」


 それを伝えると、ゼルムさんだけでなくドワーフたち全員が驚いた顔になった。


「皆さん、気分が悪くなったりはしてません?」


「ワシはないが、皆はどうだ?」


 ゼルムさんの問いかけに、他のドワーフさんたちも大丈夫だと返ってくるので一安心。

 けど、しばらくの間、注意してもらわないといけないことがある。


「今はまだ体内の魔素を使っていないので問題ないと思うんですが、魔法や身体強化でそれを使ってしまうと、魔素欠乏で具合が悪くなったりするかもしれません」


「つまり、そういったことはしない方がいいということだな?」


「です。この国の人は全く魔素が無いのが普通です。つまり、魔法も身体強化もない国なんです」


 また驚くドワーフさんたち。

 それくらい、向こうの世界では魔法が一般的なのかな?


『チョコ君、出発する』


 スピーカー越しにそう聞こえて車が発進すると、ドワーフさんたちが「おおお……」と声をあげる。

 うーん、どこまで話すんだろ?


***


『チョコ君、もうすぐ到着だ』


 屋敷に戻ってくるまでの間、私はゼルムさんにダンジョンに来ていた理由を聞いていた。

 特に隠すこともない理由ということで話してくれたんだけど、ダンジョンの各部屋に扉をつける依頼を受けたからだそうで。

 で、避難していた部屋の扉をつけたところで、大地震からの戻れない、出口埋まってるコンボを食らったとのこと。

 つまり、あの部屋の扉はゼルムさんたちが設置したらしい。確かに他の部屋には扉なかったもんね。


 向こうの世界、アイリスフィアでのこのダンジョンの入り口は不便な場所にあるらしく、もともと一週間ほど中での泊まり込みを想定していたのが幸いしたらしい。

 生き埋め状態になってからは、水も食料の消費も最低限で済ませていたそうだ。聞いていると、よくそんな冷静な対応が取れたなーと思う。

 っと車が完全に止まったので、到着したっぽい。


『降りてくれ。翔子君と美琴が来ている』


「はーい」


 後ろの扉を開けると、そこにはもう翔子と美琴さんが待っていた。

 翔子の顔色が若干良くないのは気にしない方向……


「チョコ」


「デスヨネー」


 右手を出してくる翔子に左手を合わせると。うん、スリルなドライブだったんだね。

 でもまあ、美琴さんの運転が上手いのはわかったよ……


「チョコさん、通訳お願いできますか?」


「はいはい」


 美琴さんの誘導を翻訳しつつ、別邸の方へと進む。

 本邸や別邸を見たゼルムさんが、


「嬢ちゃんたちの雇い主は大貴族なのか?」


 と呆れたように聞いてきた。

 まあ、公家から華族でセレブだから間違いではないのかも?


「この国に貴族はいないんですけど、まあ、元貴族の大商人って感じですね」


「ふーむ。まあ、若い衆に粗相があるかもしれんが、大目に見てくれと伝えてくれ」


 館長さん自体がああいう人だから、ちょっとぐらいの粗相は気にしないと思うけど頷いておく。

 そのまま別邸の裏に周って更に進むと、裏庭となっている雑木林の中に仮設住宅……仮設長屋が見えてきた。


「え、これ、いつ作ったの?」


「ダンジョンで遭難している人がいるという話が来た日に着工して、昨日、完成した感じですね」


「建設会社すごい……」


「まあ、基礎とかない大きな物置みたいなものだという話ですし」


「ぶつ森?」


「ビルダーじゃない?」


 そんなことを話しているうちに長屋の玄関に到着。

 向こうの生活様式は靴とか脱がないらしいけど、ここでは靴を脱ぐようにドワーフさんたちに伝えた。


「ほう、靴を脱ぐのか」


「すいませんが慣れてください」


「いや、かまわん。二階へは靴を脱いで上がるような家も最近流行っとるらしいからのう」


 とのこと。うちの実家も建て替えるまでは土間があったし、そういう感じなのかな?

 美琴さんに案内され、大人数用の食堂、大浴場、調理場、トイレなどを説明。二階へ上がって個室を案内。

 六畳もないスペースに二段ベッドがあり、二人一部屋でお願いしますとのこと。まあ、これからまだ人増えるかもしれないもんね。


「とりあえず、皆さん、お風呂に入っていただいてから、夕食をお出しするとお伝えください。あ、着替えはこちらで用意してありますので」


 手回しは色々と終わっているらしい。ただ、気になるのは……


「この仮設長屋での面倒って誰が見るの?」


「別邸と同じくメイドさんたちが見てくれますよ」


「それって大丈夫なの?」


「ええ、翔子さんと同じですよ」


 そんなやりとりを聞いて安心する。

 まあ、異世界がどうとかは知らないわけだし、なんか変なおじさんたちが急に来たぐらいだよね。

 これがエルフだったらもっと驚いたのかもだけど。


「じゃ『本日の営業は終了しました』かな?」


「だね。疲れたよ……」


 翔子の疲れの原因は帰り道だった件。


「あ、翔子さん、チョコさん。館長が戻られたそうなので報告に行きましょう!」


「「アッハイ……」」


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