140. チョコと能登
「はあ、疲れました。いろいろと……」
「大丈夫です?」
美琴さんを心配する翔子だけど、体の疲れっていうよりは気の疲れだよね。
菊媛お姉様が注意して欲しいっていう点は単純で、勾玉を祀ったあとしばらくは神樹を通っての行き来もできなくなるかもって点。
混沌空間がきっちりと整理されるまでに時間がかかるかもってことだった。
そのあと、お供物を渡して終了かなと思ったら、そのままお菓子をあけてお茶会に突入。
私と翔子はすぐ慣れたけど、美琴さんたちはそうでもなかったようで。
私たちも最初はもちろん「神様だ!」って感じだったんだけど、話しているうちに「昔お世話になった近所のお姉さん」って感じにですね……
「翔子君は度胸が座っているな」
「いや、ルルさんだって平気だったじゃないですか」
菊媛お姉様と普通に話してたのは私たちだけじゃなくてルルさんも。話題は向こうの世界の女神様についてなんだけど、なんか親戚っぽい?
ミシャ様の笑いが引き攣っていたような気がしなくもなく……
「ルルは誰に対してもああだからな」
「えー、だって普通でいいって言ってくれてたじゃん!」
ディアナさんとルルさんが楽しそうに話す。そいやエルフとドワーフって仲悪かったりしないの? あれは日本のラノベの世界だけの話?
「ワフ」
「うん、じゃ、帰りましょうか。……ミシャ様?」
「え、あ、うん、そうだね。ホテルに戻りましょ」
ぼーっと菊媛お姉様がいた山の方を見て考え事をしてたのか、うわの空だったミシャ様がSUVに乗り込む。
想定してた神様とのご対面とはだいぶイメージが違ったからショックだったのかな……
***
「じゃ、帰るのは明後日に?」
「はい。さすがに空港のフライトスケジュールに無理矢理割り込むわけにもいきませんし、一日観光してからで問題ないかと」
夕食前、美琴さんから帰京スケジュールが伝えられた。プライベートジェットって言っても、滑走路の利用には順番待ちもありますよねってことでしょうがないかな。
「観光って……兼六園?」
「私たちにはいいかもだけど、ルルさんやディアナさんにはつまらないんじゃない?」
そんなことを話していると、智沙さんから有力なご提案が。
「能登の方まで足を伸ばして、海の幸を食べに行かないか?」
「「海の幸!」」
日本海で取れた新鮮なお魚で海鮮丼とか食べたい! 干物とか買って帰って町子さんのおみやげにしようかな。あ、宅急便で送ればいいのか。
「おーい、ご飯食べに行こ!」
ミシャ様たちが夕飯を待ちきれずにやってきた。ちょうどいいし、先に話しておくべきかなと美琴さんを見ると、
「飛行機の関係で帰りが明後日になるので、明日どうするか話してたんです」
「なるほど。ルル、ちょっとだけ待って」
「オッケー」
ということで、ざっくりと。
能登の方まで足を伸ばして、海の幸を食べにいきませんかって話。美琴さんが能登島に水族館があるらしいので行ってみたいとか。
「水族館に行く途中にある洋食屋は、海の幸に加えて能登牛も絶品らしい」
「「おおー!」」
智沙さんも結構グルメ好きだよね。
「という感じなんですが、いいでしょうか?」
「はい。ここに来た用は済んでますし、明日すぐ帰るほど急がなくてもいいかと」
ミシャ様に異論なしなら決定かな? そう思ってたら、スッと手を挙げたのはディアナさん。
「聞いていいだろうか?」
「はい、何でしょう?」
「その『すいぞくかん』とは一体?」
ああ、確かに……
***
翌日はゆっくりと午前十時にホテルを出発。能登島までは二時間弱。
海岸線をいい感じに走っていくんだけど、SUVの車窓から見える日本海がすごい綺麗。
ヨミとクロスケさんは行き先の都合上、お留守番になっちゃったけど、あの二人も家族水入らずがあってもいいよねということで。
能登半島に入ってしばらくしてから北東へと。目的の能登島に着く頃にはお昼前になってて、ちょうどいい感じに昼食の時間。
「このハンバーグすっごくおいしい!」
「この貝が入ったグラタンも絶品だ……」
ルルさんも大満足のハンバーグと、ディアナさん絶賛の海の幸グラタン。私はハンバーグにし、翔子は海の幸グラタンを頼むことで、後で両方を堪能できるっていう高度な作戦です。
そこから十分も走らずに水族館到着。やっぱり親子連れが多くて、女子ばっかりの私たちは多少浮き気味?
でも、水族館なんて随分と久しぶりな気がする。両親が亡くなる前に連れて行ってもらった記憶があるくらいかな。
「おおー、これが!」
「これが『すいぞくかん』か……」
向こうでは水族館は当然として、動物園とかもないらしい。
もちろん、希少な動物っていうのはいて、ヨミのルナウルフ、クロスケさんのウィナーウルフもそれにあたるとのこと。
ちなみにルナウルフは、ウィナーウルフが月白神様の加護を受けた個体だそうです。なんていうか、SSRでかつ限定衣装みたいなの……
………
……
…
「すごいすごい!」
「素晴らしい!」
「はいはい。二人ともはしゃがない」
イルカ・アシカショーに大興奮のルルさんとディアナさん。なんというか、すっごい子供っぽい反応だけど、初めて見たらそうなるよね。
そしてそれに母親のように対応しているミシャ様。なんか手間がかかる場所に連れてきちゃってごめんなさい。
もちろん、二人は水族館は初めてなわけで、水槽で泳ぐ大量のイワシやらでっかいサメやらに興味津々。
その後はペンギンみたり、アザラシやら、カワウソやら。カワウソは見たことあるそうです。やっぱり向こうでもダムを作ったり……それはビーバーだった。
「なんかすいません」
なんかやっぱり心ここに在らずって感じのミシャ様に謝っておく。
「え? ああ、二人がこうなるのは、こっち来る時に覚悟してたので気にしないでください。それより、東京に戻ってからちょっと絵理香と相談しなきゃいけないことができたので……」
「そうなんです?」
「ええ、ちょっとね」
そう言ってじっくりと見つめられると居心地がこう……
「えっと、どうしました?」
「あ、ああ、ごめんなさい」
なんだろ。気になる……
***
「ふむ……」
水族館を後にする前に、ミシャ様が二人をお手洗いに連れて行った。ちょっとさっきのが気になってたのを翔子に共有。
「気になるでしょ?」
「気になる」
「この気なんの気」
「気になる気」
思わず小ネタをやってしまって、美琴さんの白い目が! 翔子の方にだけど。
「コホン。ミシャ様が館長さんに何か相談することができたそうで、それでちょっと悩んでる感じですね」
「なるほど。館長にお伝えしておきます?」
「うーん、余計な気を回さない方がいいかも」
そんな話をしてると三人が戻ってくる。
「お待たせしました」
「では、ホテルに戻ります」
そろそろ戻らないと、ヨミとクロスケさんが寂しがってそうだしね。




