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職業:白銀の乙女  作者: 紀美野ねこ
翔子とチョコと時々ダンジョン
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11. 翔子と業務委託契約

「えーっと『私が』です?」


 チョコがそう答えると美琴さんは大きく頷く。

 うん、まあ、チョコになった魔導人形が本当に『白銀の乙女』であるなら、あのラノベのように悪い魔物を倒すことができるんだろう。

 でも……


「ちょ、ちょっと待って。自衛隊員がちゃんと敵がいる前提で行動すれば、チョコの出番なんてないと思うんですけど?」


「それがいつのことになるのか、翔子さんも想像はつくと思いますが」


「「あー……」」


 災害派遣という名目で酷使される自衛隊だけど、交戦する可能性が出てくると途端に及び腰になるもんね。PKOだって行くまでに随分揉めたって聞いたことあるし。


「でも、それって許可されるようなことなの?」


「そこは六条の力があればなんとでも。既にあの土地に関しては買収済みですし、私有地をどう扱っても問題はありません」


 大手ゼネコン怖っ!

 都内の一等地、しかもスタジアムが作れるサイズだったと思うんだけど、そこは天下の六条グループってことなんだろう。

 現在進行形で問題がある土地って売買していいものなの? まあ、そこは六条の圧で通しちゃったんだろうけど……

 と、チョコがちらっと私を見てから答える。


「えーっと、とりあえず翔子と相談したいし、しばらく考えさせてもらっていいですか?」


「はい。実際にダンジョンに潜るとしても、もうしばらく先のことになると思います。それまでに考えてもらえればと」


 良かった。オッケーしたら「じゃ、すぐ行きましょう」とか言われるかと思った。

 行くにしても、もっと魔導人形について詳しくなっておかないとって思うし、チョコも当然そう思ったからだよね。


「じゃあ、今日はこれくらいです?」


「あ、もう一ついいですか? 翔子さん、白銀の館と業務委託契約を結びませんか?」


「え? 業務委託契約って……」


「今、お仕事がないということですし、本当なら白銀の館の社員になって欲しいところですが、そこはすぐにというわけにはいかなくて」


 そう申し訳なさそうに話す美琴さんだけど、いきなり六条グループの社員になるのは、私にもハードルが高すぎる。


「業務委託はいいんだけど仕事の内容って?」


「魔導人形の、チョコさんの性能調査を向こうにレポートとして提出してもらえればと」


 美琴さんは続けて細かい内容について話してくれる。

 とは言っても、業務委託だし、在宅で勤務時間も指定なし。定期的に美琴さんとメールで連絡を取り合えばいいらしい。

 ダイクロの新人研修で習ったような勤怠やらの面倒くさい手続きは一切なし。ちゃんとレポートさえ送ってればいいとのこと。そんなのでいいのかな?

 で、提示されたのが月五〇万!?


「高校卒業したばかりの女の子には多すぎな気が。もちろん嬉しいんだけど、それを盾にチョコがダンジョンに潜らないととかないですよね?」


「ないです! ないです!」


 慌てて否定してくれる美琴さん。


「高いように思うかもですが、業務委託で仕事をするとなると経費も全て自前ですし、個人事業主になるので、ご自身で各種税金や保険料を払わないといけないわけで」


「うわー、面倒くさそう……」


 これって町子さんとかに聞かないとダメかな。喫茶店経営って個人事業主だよね? 確定申告とかしないとダメになるのかな?


「まあまあ、うちで源泉徴収はしますし、私の方でもサポートしますから」


「このこと、町子さんに話しておいた方が良くない? もちろん、表の話だけだけど」


「えーっと、町子さんというのは?」


 美琴さんの疑問ももっともなので軽く説明を。伯母で今のところ私の保護者?

 親戚はそれなりにいるけど、今この村にいるのは町子さんだけ。もし大陥没のダンジョンに潜ることになるんなら、私も東京に行かないとだろうし。


「なるほど。それは挨拶しておかないとですね」


「いいけど、なんて説明するの?」


「ダイクロの新卒研修が終わったら、うちのお仕事を手伝ってもらう予定だったのでと伝えますよ」


 美琴さんニッコリ。

 まあ、放り出されたのを救ってくれる感じで行くのかな?


「でも、自宅作業でオッケーっていうの不思議じゃない?」


「六条といっても建設で現場に出ない部門では在宅ワークが進んでますから。翔子さんのお仕事は白銀の館の目録整理という名目になりますし」


 とのこと。これは前もってそのつもりだった感じかな。

 まあ、ダイクロの社員だったとしても、派遣先ではデータ打ち込みとかスクリプティングって呼ばれるような仕事がメインになる予定だったから不自然ではないか。


「翔子、今の時間ならお客さん少ないし、今のうちに行ってくれば?」


「んー、それがいいかな。チョコごめん、留守番になっちゃうけど」


「うん、いってら。夕飯の支度しとくね」


 自分で自分に雑用を押し付ける形になるから、別に気を使う必要もないんだろうけど慣れない。

 美琴さんも申し訳なさそうな顔をするが、チョコは全然平気というか当然みたいな感じ。この辺が魔導人形っぽさなのかな?


「ほら。考え込んでないで行ってきなよ」


「うん。じゃ、よろしく」


 挨拶だけだし、さっと行ってさっと帰ってきましょ。


***


「では失礼します」


「翔子ちゃんのこと、よろしくお願いしますね」


 というわけで挨拶はあっさり終わった。

 町子さんは娘婿の直也くんが六条系列の建設会社に勤めてるのもあって、あっさりと「良かったわ!」と歓迎してくれた。

 業務委託だからそこまで喜ばなくてもと思ったんだけど、美琴さんから「いずれは正社員に」っていう話も出て、完全に外堀を埋められた感じ。

 待遇も金銭面も全然問題ないんだけど「秘密を知られたからには」感があって、ちょっとだけモヤっとする。


「ただいま、チョコ」


「ん、おかえりー」


 家に戻ってきて、ただいまの時にチョコの名前を呼ぶのは「チョコを知ってる私しかいないよ」っていう合図。

 今日は美琴さんもいるけど、チョコを知ってるから問題なし。


「もう少しで晩御飯できるから、居間でゆっくりしてて」


「わかった。ありがと」


「ありがとうございます」


 今日はチャーハンかな? お客様に出すような夕飯じゃない気がするけど、気にしたら負けだと思っておこう。美琴さんも文句は言わないと思うし。

 と、美琴さんが座卓に置いてあった本に目を留める。


「あの、この本って向こうの?」


「ええ、『白銀の乙女たち』っていうラノベですね。ファンタジー小説って言った方がいいかな。蔵書部屋で見つけたんだけど、チョコと関係ありそうだから」


 ん? 向こうの世界にゴブリンとかがいるんだったら、ファンタジーじゃなくてノンフィクションなのかな?


「私にも読めますか?」


「中身が向こうの言語だから難しいかな。なんなら私とチョコで翻訳しますけど?」


「是非お願いします!」


 ということで、この翻訳も私の業務委託の作業内容に加わりました……


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