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自警団〜異能サスペンスミステリー・荒木団員の事件簿〜  作者: いるか
愛に隠されしは禁断の魔法
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上司

「き、君はさっきの……」

 俺が医務室にくると、顔を青くし気怠げな様子の三澤さんが話しかけてきた。

「……あなたに毒を盛った犯人が分かりました」

「そうか……まあ私も薄々気づいてはいたがな……」

「……」

 三澤さんはそう言うと顔を上にあげる。

「私は古い方法しか知らない……だからあの3人には、いや今まで辞めさせてしまった人達も含めて皆に恨まれているのは当然だろう……」

「……」

 確かに三澤さんの方法は時代遅れだ。

当人達がどう思っていようと、あの方法が良い方法では無いのは確かだ。

でも……でも……。

「お願いだ、君は警察の人間なのだろう? 私は恨んでなどいない、だからどうかあの3人を逮捕するのは……」

「大丈夫、大丈夫ですよ三澤さん」

 でも違うんだ。

沙羅さんだってよくパワハラをする。

破茶滅茶な訓練をさせられるし、暴力で訴えてくる時もある。

 でも俺はそれをされて嫌だとか、嫌いだとか思った事は一度もない。

何故ならその行動全て沙羅さんが俺を想ってくれているから故の行動だからと知っているからだ。

だから、きっと三澤さんの想いは少なくとも1人には伝わっている。

「呼んできたわよ」

 沙羅さんは3人を引き連れて医務室に入ってきた。

「三澤さん!? もう起きて大丈夫なんですか!?」

 櫻井さんはよほど心配していたのか、三澤さんの容態を見た瞬間涙を流していた。

「あ、ああ……心配をかけたな」

 しかし三澤さんはそんな彼女の顔を見ようとしない。

きっと彼女が犯人だと思っているのだろう。

顔を見ればそれは違うと分かるのに、それをしようとしないからすれ違いの溝は深まってしまう。

 だがら、今から俺達はそんな悲しい溝を埋めるんだ。

その溝を埋める方法が、辛い真相を知る事だったとしても……。

「ありがとうございます沙羅さん……この新幹線はあと10分程度で止まります、なので要件は手短に済まさせてもらいます」

 そう言うと、3人は俺の言葉に緊張感を示した。

そんな3人に俺は指をさす。

「この毒殺未遂の犯人は……相馬さん、そして菅野さん、あなた達2人だ」

 俺の言葉の後、少しの静寂が医務室を支配する。

永遠とも思えるような静寂、そんな静寂を最初に破ったのは相馬さんの笑い声だった。

「は、ははは、ははははは……何かと思えば、僕が犯人ですって? ははは……冗談でもそれはキツいですよ、僕のどこに三澤さんを殺す動機があるんですか」

 確かに表面上の関係では相馬さんに殺す動機はない。

そう、()()()()はないんだ。

「あなたには殺す動機は無いでしょう、ですが懲らしめる動機なら……あるんじゃないですか?」

 俺は相馬さんにそう言った後、目線を櫻井さんに向けた。

それに気づいた相馬さんの顔からは、少しの焦りが出ていた。

「あの時あなたはこう言いました、犯人は菅野さんだと」

「そ、それは思ったからつい……」

「……これから取引を一緒にする仲間を、つい犯人だと指名しますか? 普通なら菅野さんと同じように分からないと答えると思うのですが」

 俺の引っかかっていた点、それは相馬さんの行動だった。

彼はこれからも働いていくであろう仲間を犯人として名指しした。

 動揺していたなら分かる、しかし彼は一度考えた後にその言葉を出した。

ならばそこには必ず理由がある。

「じ、事件解決のために意見を出すのは当たり前だろ? 犯人は僕を含めた3人しかいないんだから!」

「事件解決のために意見をだす、確かにその選択肢もあったでしょう、でも本当にそうでしょうか」

「な、何が言いたい!」

「……本当は自分のせいである人に疑いの目をいくのを避けたかったんじゃないですか? その人のためにやった行動で、その人が疑われたら本末転倒ですからね」

「なんの……事かな?」

「相馬さん、あなたは櫻井さんにパワハラを続ける三澤さんの行動を見かねて毒を仕込んだ、今の方法を続けていればいずれ殺されるぞ、と警告するために、違いますか?」

 恐らく相馬さんは毒殺なんて最初からする気は無かった。

ただ警告したかったんだ、今の方法ではダメだと、今の方法では恨みを買うだけだと。

そう思わせる事で櫻井さんを三澤さんのパワハラから解放しようとした。

 そして俺達から櫻井さんを守るために、疑いの目を菅野さんに向かせたのだろう。

「ち、違う、それに僕がやった証拠がどこにあるって言うんだ!」

 相馬さんのその言葉を聞いて、沙羅さんが隣に来て俺に箸袋を渡してくれた。

「ありがとうございます……この箸袋には微量ですが白い粉がついています、これを鑑識に見せれば一発で正体が分かります、その結果が証拠になると思いますがどうでしょうか」

「……っ!」

「あなたは事前にこの箸袋に青酸カリを仕込んだ、そうすれば一緒に入っている金箔箸の金箔に青酸カリが付着する、あとはそれを1つのおかず中心に目掛けて落とせば、誰にもバレずに毒を盛ることが出来ます」

 この方法なら青酸カリを誰にもバレずに食べ物に混入させる事が出来る。

しかしその方法を取ったとしても致死量には程遠い。

だが、相馬さんにとってはむしろそれで良かったんだ。

「当然この方法では殺害なんて出来ません、しかしあなたの目的である懲らしめる、という目的であればこの程度の量で十分でしょう」

 青酸カリが何故致死量に至ってなかったのか。

それは相馬さんの目的が懲らしめるためだったからだ。

この箸袋を使ったトリックがそれを物語っている。

「ち、違う……そ、それは誰かにはめられたんだ!」

 まだ相馬さんは抵抗を続ける。

仕方ない、本当はこんな追い詰めるような真似をしたくは無かったが、このまま抵抗を続けるようなら……。

「いい加減にして!!」

 俺は決定的な証拠、青酸カリの購入履歴について話をしだそうとした時、もう1人の犯人である菅野さんが叫んだ。

「私達の負けよ、もう認めなさい」

「ふ、ふざけるな! お前が僕をはめたんだろ!?」

「……彼女の顔を見てなんとも思わないの?」

 菅野さんはそう言って櫻井さんの方に視線を向ける。

そこには悲しそうに、辛そうにしている櫻井さんの姿があった。

「そうか、お前は分かってくれていたんだな……すまなかった……」

 そんな姿を見て三澤さんは涙を流して櫻井さんに頭を下げる。

「俺は、こんな方法しか知らない……お前を立派に育てる方法が、これ以外、思いつかないんだ……」

 三澤さんは震える声で必死にそう告げる。

そんな彼を櫻井さんは包み込むように抱きしめた。

「分かってます、三澤さんの想いは伝わっています……だから私ここまでやって来れたんですから……」

「……っ! うう……すまない……すまない……!」

 そんな2人の様子を見て、相馬さんは膝から崩れ落ちた。

「……くそ、そういう事か……はは……馬鹿みたいだ、俺は君を想ってやったのに……」

 相馬さんは誰にも聞こえないような小さな声でそう呟く。

きっと彼は今やっと気づいたのだろう、三澤さんの真意を。

そしてそれを櫻井さんは理解していると……。

「……菅野さん、あなたの犯行の証拠を示す必要はありますか?」

 俺がもう1人の犯人である菅野さんに声をかけると、両手をあげて答えた。

「ないわ、どうせバレてるんでしょ、この瓶が」

 そう言う菅野さんの右手には、白い粉が入った瓶が握られていた。

その瓶を沙羅さんが回収する。

「いやだったのよ……私達人事部が必死に精査した新人達を辞めさせていくあの人が……そのせいで上と下からの板挟み……だから思い知らせてやりたかったのよ、あんたのやり方を続けていけば毒殺されるし、会社も潰れていくってね……」

 菅野さんは独り言のようにそう言うと、ため息をつきながら近くのベットに座る。

「はぁ、喫煙所の灰皿に捨てようと思ったけど、まさか止められるとは思わなかったわ……警察関係者の人間がいるなんて、しかも同じ目的を持つ人間がいたなんて……本当についてないわ」

 きっと菅野さんも三澤さんの想いを理解している。

だからこそ全てを諦めて自分から自供したのだろう。

自嘲のような笑みがそれを物語っていた。

でも俺はそんな彼女の言葉を聞き流すことは出来ない。

 確かに彼女の言う通り確かに俺達がいなければ2人の犯行は同じ目的を持つ人間がいたことを除いて計画通りに進んでいた。

でも、俺にはその結果の方がついているとは思えない。

「……そんな事ないと思いますよ」

「え?」

「今の結果は、お2人がたまたま同じ目的を持ってしまったがためにちょっとした警告が大惨事になってしまったで済んでますが、それは自分達が応急処置をしたからです、もしあの場に自分達のような人間がいなければきっと三澤さんは死んでいましたよ、そうなれば大惨事なんてもんじゃない、きっと取り返しのつかない事になってました」

 確かに青酸カリは致死量には至ってない。

しかし苦しみ出した三澤さんを誰も応急処置しなければ、ガスが身体中を充満し窒息死していた。

 そうなってしまったら、もう2度と三澤さんの真意を知る事なんて出来なかっただろう。

それに……。

「青酸カリは昔と違って入手経路は限られているわ、だからもし三澤さんがあの場で死んでいたら、あなた達の犯行はすぐにバレて今以上の罪を背負うことになるわよ」

 俺が言おうか言うまいか悩んでいると沙羅さんが俺の前に出て、俺の代わりにイラついた様子でそう2人に話してくれた。

「私は荒木くん程優しくないからハッキリ言うわ、あなた達がした事は立派な殺人につながる方法だったの、毒の量が多いとか少ないとかじゃない、運が有るとか無いかとかじゃない、人として1番やってはいけないことをやったのよ、それを少しは自覚しているのかしら」

 沙羅さんの言葉に2人は何も答えず、ただ黙って下を向いていた。

『まもなくF3ステイションです』

 そんな2人に選択肢を与えるアナウンスが鳴る。

「……もう次の駅に到着です、決めてください、三澤さんはあなた達を罪には問わないと言っています、あなた達はどうしますか?」

 俺の言葉に2人は静かに答えた。



「本当に良かったのかしら、私はまったくもって納得できないわ」

「まああれも1つの解決……じゃないですかね」

 俺は三澤さんを支えながら歩く3人の背中を見ながら、不機嫌な沙羅さんに答えた。

「それに、被害者にああ言われちゃどうしようもないですよ」

『自首します』

 2人は俺の質問にそうキッパリと答えた。

しかしその言葉に、被害者である三澤さんが首を横に振って応えた。

『俺を毒殺しようとしてまで会社を変えたいと思ったんだろ、ならいいじゃないか……お互いやり方を間違えたんだ、これからは間違えないように新しいやり方を皆で見つけていこう』

 その言葉を言われてしまえば、もう俺達からは何も言うことは出来ない。

何故なら、今の俺達はただの一般人だからだ。

そして自警団はこういった真相を見つけるため、1人の人間として寄り添うためにあるのだから。

「あーあ、もうなんか疲れちゃったわ、宿着いたら温泉入って寝よっと」

 沙羅さんは仕事モードから一気に休日モードに戻る。

沙羅さんもそれは十分に分かっているはずだ。

でも沙羅さんはこの結末に何か思う所があるのだろう。

 しかし沙羅さんは俺の意見を尊重してくれている。

だからこうやって休日モードに入っているのだろう。

俺は沙羅さんのこういう所がたまらなく好きだ。

「沙羅さん、肩揉みましょうか?」

「あら、気が利くわね、でも変な所触らないでよ」

「……」

 ……そしてこういう所がたまらなく嫌いだ。



「安藤沙羅と荒木剛太……ふーん……」

 女性は1人、荒木達と同じ車両で本を読むフリをしてそう呟く。

「……利用、出来そうね」

 そう呟いた女性は、バックから一枚のチケットを取り出した。

「せっかく掴んだこのチャンス、絶対にものにして見せる」

 女性は取り出したチケットを強く、強く握りしめる。

そこには荒木達が泊まる旅館と同じ旅館の名前が書いてあった。

「必ず見つけてみせる……絶対に……待っててね、あきら

 そう呟く女性の顔は、不気味なほどに笑っていた。

この話はパワハラを肯定するものではありません。

三澤のような理由があったとしても、パワハラは絶対にあってはいけないと思います。

 ですが、パワハラをする人にはそれ相応の理由があるはずです。

その理由を受け止めて、新しいやり方を探していく。

そういった未来もあるのかもしれない、という話です。


さて慣れない後語りはここまでにして、この章について話します。

この章は長編予定で、ここまでは序章くらいです。

かなりの長期戦となりますが、皆様を飽きさせないように頑張りたいと思います。


あとこの話と同時に誰得設定集を投稿します。

裏設定を詰めたので、暇つぶし程度に見てくださると幸いです。

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