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自警団〜異能サスペンスミステリー・荒木団員の事件簿〜  作者: いるか
優しさは誰のために
85/121

美談

投稿頻度が遅く申し訳ありません。

2日に1回くらいのペースに戻せるよう頑張ります。

「あらめいちゃん、いらっしゃい」

 3人が店に入ると、30代くらいの女性がニコニコとしながら前に現れた。

「あら、今日はお客さん連れてきてくれたの?」

「はい、えっと……」

 愛と呼ばれた女性がチラチラと暁と斎藤を見る。

暁がそれに軽く礼をすると、手帳を取り出して見せた。

「自警団の暁です、隣にいるのは同じく自警団の斎藤です」

「はじめまして、斎藤です」

「え……自警団さん……?」

 2人が自警団である事を話すと、30代くらいの女性は怪訝な顔で2人を見る。

「……真衣まいさん?」

 それが気になったのか愛という女性が話しかけると、ハッとした後すぐに席への案内を始めた。

「ごめんなさいね立ち話させちゃって、洒落た場所じゃないですがどうぞどうぞ」

「ありがとうございます」

 しかし暁は明らかにおかしい反応も特に対応せず、そのまま案内された席のほうへと向かう。

 愛の紹介で向かった店は、所謂大衆食堂というもので真衣のいう通り決して洒落た店ではなかった。

積み重ねられたであろう歴史を物語る机の傷、背もたれが小さくお世辞にも座りやすいとは言えない椅子。

 悪い言い方をすればボロボロな店であるが、しかしそれはただ手入れが杜撰ずさんなわけでは無い。

何十年もの時間を経てこうなったのだ。

 故に斎藤も暁もこの店をボロボロな店とは一切思わなかった。

これもまた1つの進化なのである。

「いやぁ、いい店ですね」

 斎藤が座ると、辺りを見回してそう呟く。

それに暁は何か物思いにふけるように答えた。

「そうだね、最近はこういった店が少なくなってきてるから、なんだがちょっと嬉しくなるよ」

「ここは真衣さんの、恒山つねやま家の人達が代々継いでる店でかなりの老舗なんですよ、で、さっきの人が恒山真衣さん、確か3代目……? だったかなぁ」

「随分と詳しいんですね、えっと……」

「あぁ、私の名前は音部愛おとべめい、愛でいいですよ」

「では愛さん、今回は捜査の手伝いありがとうございます」

「いえ捜査の手伝いなんてそんな……」

 2人が話していると、ちょうど会話が切れたタイミングで真衣が水を持ってきた。

「すみません飲み物が遅くなってしまって、それで自警団さんはなぜうちに?」

 真衣がそう聞くと、暁が軽く礼をして答える。

「いえ大した事ではなくて……えっとこの写真の方に見覚えはありますか?」

 暁が被害者である伊谷昇の写真を見せると、真衣は少し不安になりながら頷く。

「はい、うちの従業員がお世話になってますから……」

「お呼びしていただく事は可能でしょうか?」

「わ、わかりました……」

 真衣はそう言うと、奥の立ち入り禁止と書かれた部屋へと入ると数分足らずで30代くらいの男性を連れて戻ってきた。

「あの、何か御用でしょうか?」

 真衣と一緒に出てきた男性は、恐る恐る暁達にそう質問する。

「この人です、この人が私が歌ってた場所でいつも歌ってる人です」

 愛はその男性を見て暁にぼそりと呟く。

「なるほどね……はじめまして自警団の暁です、隣は同じく自警団の斎藤です、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

 暁の質問に対して、30代くらいの男性は不安そうに答える。

「……笹村航平です、路上シンガーをやってます」

「では笹村さん、早速ですがこの人について何か知っていますでしょうか?」

 暁が伊谷の写真を見せると、笹村は徐に答える。

「……伊谷さんですよね、知ってます」

「この人が3日前、何者かによって殺されました、なので3日前のスケジュールについて、詳しく教えていただきたいのですが」

「え、俺疑われているんですか?」

「いえ、皆さんに聞いてる事なので」

「そうですか……3日前は休みだったので外でギターの練習をしてました」

「……それを証明できる人は?」

「いませんけど……」

「そうですか……」

 暁と笹村は3日前の事について淡々と話を進めている。

それがまるで他人事のように思えた斎藤は、愛に聞いたマネージャーについて質問する事にした。

「あの笹村さん、聞いた話によると伊谷さんはマネージャーをしていらしたらしいですけど、驚いたりはしないんですか?」

 突然の斎藤の質問に、笹村は軽く笑って答えた。

「まさか、この人は勝手に俺にお金を渡してくる人でマネージャーなんかじゃないですよ……あ、でも俺だけじゃないです、この人いろんな路上シンガーに金渡してましたから」

「……え?」

 斎藤と暁がキョトンとすると、笹村はため息を吐いて言葉を続けた。

「この人、よく分からないのですが路上シンガーに金を渡しては夢を叶えるサポートをさせてくれって言って……そのせいで結構金銭面でトラブル抱えていたみたいですよ」

「路上シンガーに金を渡していた……?」

 暁も斎藤もその話をにわかに信じられず、首を傾げていた。

それもそうだろう、伊谷の金銭面の事情はかなり困窮していた。

そのせいで闇金に手を出すほどだ。

 しかし伊谷はそんな状態でも、いやそんな状態になってでも金を路上シンガーに渡していたと言う。

単純に聞けば美談だが、しかし闇金に手を出してまで金を渡す、しかも1人だけではなく複数にとなれば、それは美談を通り越している。

「あの、何か食べられますか?」

 暁と斎藤がその言葉に悩んでいると、笹村はメニューを渡した。

「あ、これはすみません、じゃあ……このおすすめ定食を1つ」

「俺もそれで」

「私もそれでお願いします」

「はい、おすすめ定食3つですね、ありがとうございます」

 笹村は伝票にスラスラと注文を書くと、そのまま奥の部屋へと入ってしまった。

「どういう事だ? なぜ伊谷はそこまでして路上シンガーに金を……?」

「あの……何か変な所があったんですか?」

 斎藤と暁が悩んでいると、愛が興味本位で2人にそう質問をした。

「聞くだけだとなんだか美談に聞こえますけど……」

「それは……」

「それはその話の裏には借金が絡んでいるからですよ」

 暁がどう答えて良いか悩んでいると、愛の空になったコップに水を注ぎながら1人の男性が答えた。

「あなたは……?」

 暁が質問すると、暁のコップに水を注ぎながら答える。

「私の名前は恒山健史つねやまたけし、ここの店主である恒山真衣の弟です」

 水を注ぎ終わった健史は次に、斎藤のコップに水を注ぐ。

「えっと健史さん、どうして借金について知っているんですか?」

「……普通に分かりますよ、服装も靴も身につけてるもの全てが安物で固められてる、そんな男があんな大金払える筈がない、だとすれば金の入手経路なんて簡単に想像がつきますよ、でもね……」

 健史はそこまで話すと、口を止めて水の入ったピッチャーを置く。

「でも、そう言った話を店内でされるのは迷惑なんです、やめてもらえますか?」

「ああこれは失礼しました、気が利かずに……」

「いいえ、別に、では」

 健史は無愛想にそう答えると、ピッチャーを持ってそのまま奥へと帰っていった。

「大金……ね、ふーん……」

「なんだが複雑になってきましたね……」

 斎藤は水をひと口飲むとそう呟いた。



「ここまでの情報をまとめよう」

 店で食事し愛と別れた後、暁と斎藤は1度自警団に戻って情報の整理を始めた。

「はい、まずは被害者の伊谷昇さんからですね」

 斎藤は伊谷の名前を紙に書いた。

「うん、伊谷は複数の闇金から多額の借金をしており金銭面では余裕のない生活をしていた、その理由は複数の路上シンガーに金を渡していたからだね」

「はい、借用書からみるに総額およそ1000万ロークの大金を渡していた事になります」

 斎藤がその情報をメモすると、暁はそこに情報を付け足す。

「次に伊谷昇が殺された日にギターが置かれていた」

「結局このギターが伊谷さんのものか分からなかったですね……」

「このギターは闇金の嫌がらせではなく別の人間の行動、だからこの人間がわかれば犯人にかなり近づく……はずなんだけどね……」

「伊谷さんと音楽関係で関係があるのは把握し切れないほどいるようですからね、その全ての路上シンガーを探すとなると……」

「うん、音楽関係でギターの持ち主に迫るのは難しそうだね……そしたら次行こうか」

 そう言うと、暁は次に笹村航平の名前を書いた。

「伊谷昇と音楽関係で知り合っている中で分かっている人間は現状この人のみ」

「はい、話によれば金銭の受け取りも行っているようですし、トラブルはあったと思われます、その日のアリバイもないですし、容疑者候補にあがるかと」

「うん、でもそれはもう1人いる」

「もう1人……?」

 斎藤が首を傾げると、暁がもう1人の名前を書いた。

「恒山健史、この人物も容疑者として数えられるね」

「え、何故です?」

「話を思い出してごらん、僕達は何も言ってないのに健史さんは大金を貰ったと話していた、それはつまり……」

「金額を知っていた……つまり貰った事がある!」

「そういう事、だから……」

 暁はそう言うと、伊谷の名前から恒山健史と笹村航平に線を引く。

「この2人は、伊谷昇と金銭関係で何かしらの繋がりがあったと言う事になるね、ただ……」

「ただ?」

「……うん、2人が働いている店の店主である真衣さん、この人、多分だけど僕達に何かを隠しているんだよね……」

「え、じゃあ……」

 暁の言葉を受けて、斎藤は紙に新たな情報を追加する。

「店主である真衣さんも、伊谷さんに関係かもしくは別の何かに関係している……って事ですか?」

「そうなるね、とりあえず今日はここまでだ、続きは明日にしよう」

「え、明日って……まだ時間はありますよ」

「うん、でもこれ以上はきっと何も見つからない、でも明日になれば……?」

「あっ、そうか!」

 斎藤はそこで思い出した。

帰り際に愛が話していた事。

『明日はあの場所で笹村さんが歌うみたいですから、聞きに行ってみてはどうですか?』

 その言葉を思い出し斎藤は手を叩く。

「そ、明日になれば笹村さんに色々質問できる、それに……今日は時間も時間だしね」

「そうですね、分かりました! あ、今日も戦闘訓練お願いしてもいいですか?」

 斎藤は力加減の練習と鍛錬として、暁とほぼ毎日戦闘訓練を行なっている。

故に斎藤は今日もできるだろうと思っていた。

しかし……。

「あーごめんね、今日この後予定があるんだ、戦闘訓練はまた今度でいいかな? もしくは荒木くんや沙羅さんに頼んでみて」

「そうですかー、あ、もしかしてまた新しい彼女ですか?」

 斎藤がニヤニヤしながら質問すると暁はニコッと笑って答える。

「どうだろうねー、じゃあまたね」

 暁はそう言うと上着を羽織り足早に自警団を後にした。



「さて、捜査を開始しますかね……」

 暁は薄暗い夜に静かな夜風が鳴く3階建のビル屋上に立っていた。

周りに誰もいないことを確認すると、スマホで井浦からもらった資料をまとめた画像を確認する。

「相田正人……簡単に尻尾を掴めればいいのだけど……」

 暁はそう呟くと、ビル屋上から近くの家の屋根へと飛び移る。

まるで猫のような俊敏な移動で、その後も屋根から屋根へと移動していく。

 薄暗い夜、暁の捜査を見るものは空に輝く星と月以外誰もいなかった。

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