流出(荒木バディサイド)
投稿遅くなり申し訳ありません。
次以降の投稿頻度はいつも通りになります。
謝罪から始まりましたが、新章突入です。
※題名に(荒木バディサイド)を付け加えました。
「たぁぁぁ、そりゃっ!」
早朝、いつものように俺は訓練をこなす。
今は戦闘訓練をしている途中だ。
俺は沙羅さんから教わった回し蹴りを全力で当てる。
「踏み込みが……甘いわよ!」
「くっ、うわぁぁぁ!」
しかしその攻撃も、沙羅さんの前ではごっこ遊びだ。
片腕で受け止められて、そのまま体勢を崩された。
「はい、これであなた5回は死んだわよ」
沙羅さんは俺の心臓部分に拳をちょんと当ててそう言う。
「沙羅さんが言うと現実味があって怖いです……」
「どういう……意味かしらぁぁ?」
「いたたたたっ!? すみません、すみません!」
「ふんっ、これで今日の訓練は終わりよ、さっさと着替えて来なさい」
「は、はーい……」
沙羅さんからの活をもらったところで今日も着替えて出動だ。
さっさとシャワーを浴びてこよう。
「おはようございます!」
俺はいつも通り待機部屋に到着して、壁にかけてある自分の名札を表にする。
「よーっす、荒木」
「うーっす、斎藤」
そしていつも通り、斎藤と雑な挨拶を交わして沙羅さんの隣に座ろうとした時、斎藤の隣にいるはずの人間がいないことに気づいた。
「あれ、暁さんは?」
俺が質問すると、斎藤は首を傾げる。
「んー、なんか家の事情とかで遅れてくるらしいんだよね」
「ほーん……」
いつも決まった時間に出勤する暁さんがいないのは少し違和感があるが、家の事情なら仕方ない。
「おはよう、何、どうしたの?」
暁さんについて斎藤と話していると、沙羅さんが後ろから話しかけてきた。
「いや、なんか暁さん家の事情で遅れるみたいなんですよね、それが珍しいなーって話してた所です」
「家の事情……? ふーん……」
沙羅さんはそう言うと、ジッと暁さんのデスクを見てる。
その顔は事件で何か違和感を感じた時の顔だ。
「どうしたんですか、沙羅さん」
それが気になり質問すると、沙羅さんは首を振って答える。
「別に何でもないわ、それよりあなたの制服の腕ほどけてるわよ」
「えっ?」
沙羅さんにそう言われて確認すると、確かにあんなに丈夫な制服の袖が少しほどけていた。
「あちゃぁぁ……また怒られますよ……」
入団してからアビリティの戦闘、マルムドラゴの戦闘と実行部署びっくりの戦闘続きで、制服の新調はもう数えきれないくらいしている。
しかもこの制服、頑丈すぎて普通の針では縫えないため新調は基本的に新品を貰うことになる。
そのため毎回予算が予算がと怒られるのだ。
「なに、毎回怒られてるの?」
「そうなんですよ、開発部署の人達は何というかこう……ちょっと怖いっていうか……」
「それなっ!」
俺の言葉に斎藤はそう言って指を向ける。
開発部署とは、俺達のいる捜査部署、篠崎さんのいる実行部署と、自警団にある数々の部署の内の1つだ。
活動内容は主に依頼を管理するアプリの開発と、自警団の装備の開発がメインだ。
常に忙しい部署で毎回ピリピリしており、制服の新調を頼むといつも怒られる。
それは皆も同じなようで、あの部署は色々と評判が悪いそうだ。
「まあまあ、なら私も一緒に謝るからあまり恨まないで、あの人達も忙しいんだから」
「……? はぁ、沙羅さんが言うなら分かりました、でも1人で大丈夫ですよ、行ってきます」
失礼だが沙羅さんがここまで優しいのは珍しい。
普段は人に厳しく自分にはもっと厳しくの人だ。
何かあるのだろうか……。
まあいいか、それよりさっさと新調してもらおう。
「それじゃあ行ってくるよ、じゃあね」
「おう、またなー」
斎藤に俺はそう言って開発部署に怒られに行った。
※
ここは警視庁の会議室。
本会議が終わった後、井浦は少しの時間だけその場所を借りていた。
パイプ椅子が2つと適当な机が1つ。
そこに井浦と、そして暁が座っていた。
珍しい組み合わせだが面識が無いわけではなく、2人はそこそこの緊張感を持ちながらパイプ椅子に座った。
「珍しいですね、どうしたんですか? 僕に相談なんて」
暁は不思議そうに質問をすると、井浦が口を開いた。
「……実はあなたに極秘で頼みたい依頼があるんです」
井浦はそう言うと、例の自警団の拘束縄と類似した縄と、そして1つのカセットテープを机に置く。
「これって、荒木くんから報告があった拘束縄に良く似た物ですよね、なんでこれが極秘に?」
暁は声では不思議そうに言うが、そこまで察しの悪い男ではない。
もう既にある程度の想定は済んでいた。
そして井浦も暁がそういう男だと知っていたため、それに答えず黙ってカセットテープの録音を流す。
『ヴェニット……パラディスス……』
カセットテープの内容は、井浦が取調べをした時の内容だ。
流石の暁もこれは想定外のようで、カセットテープから聞こえた奇妙な聴き慣れない単語に首を傾げている。
そして次に聞こえたある単語で、暁の表情は一気に変わる事になる。
『楽園に……幸あれ……ああ相田正人様!』
暁はその相田正人という単語を聞いた瞬間、普段見せない深刻な表情を浮かべ固唾を飲んだ。
「相田正人……そんな……」
「残念ながら、この拘束縄といい珍しい名前といい、おそらく本人で間違いないでしょうね」
相田正人、それは安藤沙羅の初めての正式なバディであり、そして初めての教育係でもあった。
だがその男は沙羅の過去を知った後、自警団を去りそれからは何処で何をしているかは分からない状態だった。
しかし暁はその後に沙羅とバディを組んだため、多少の因縁はあるが、それだけならここまで深刻な顔をする程のことでもない。
つまり、相田正人にはそれだけでは無い何かがあるということだ。
「何故この状況で黙っているんです? 彼は非常に危ない人間です、今すぐにでも共有して捜査をするべきでは?」
危ない人間、それは比喩でも何でもない。
本当の意味で危ない人間なのだ。
何故なら相田正人、彼の元々の部署は開発部署だったからである。
その結果がもたらしたのは拘束縄の流出、これが意味するのは他の能力者との戦闘道具も作られている可能性があるという事だ。
しかし危険なのはそれだけでは無い。
むしろ危ないのは彼の技術では無く、その心の方だ。
「ええ……ですがそれだけに、こちらとしても動くに動けない状態なのですよ」
「そう……ですよね、すみません……彼は下手に刺激すれば何をするか分かったもんじゃないですからね」
相田正人は正義感を強く持つ男だった。
いや、強いという次元ではない。
もはや異常と言うほどの正義を抱く男だった。
正義のためなら何でもする。
そういえば聞こえはいただろう。
しかしこう言えばどうだろうか。
正義のためならばどんな事もできる。
例えば自警団の拘束縄。
能力者でも千切る事のできないこの縄、言えば単純だが果たして作れるのだろうか。
それを可能にしたのが相田正人という人間だった。
その行動力の源は、正義。
「ええ、しかも彼は安藤沙羅を異常なまでに敵視している、そして彼女自身も相田正人に対して罪悪感を持っている……こんな状態で安藤沙羅に知られるわけにはいかないのですよ」
井浦の言葉に暁は頷く。
その事は暁自身が1番分かっていた。
「分かりました、沙羅さんには十分警戒しておきます」
「お願いしますね」
「大丈夫です、伊達に5年以上もバディしてませんよ」
そう言って暁はその場から立ち去った。
「伊達に5年以上もバディしてない……か」
暁は帰る途中、立ち止まり空を見上げる。
暁は自分で言った言葉の本当の意味を分かっていた。
「……沙羅さん、許してください」
伊達に5年もバディをしていない。
それは言い換えれば、彼女の強い姿も、彼女の悩む姿も、彼女の泣く姿も、彼女の弱い姿も……彼女のいろんな顔を5年も見てきたことになる。
だからこそ彼女がどれだけ相田正人に対して罪悪感を抱いているか知っていた。
「はぁ、井浦さんも人が悪いよなぁ」
暁はそう呟きながら止めた歩みを進めた。
※
今回の章は斎藤らがメインの回です。
主人公の荒木は今回少しお休みです。




