拉致
「さて……あなた達は何者でしょうか」
俺達は体を縛られ、屋敷のような場所に運ばれた。
今はその屋敷の中の壺などが置かれている、いかにもな部屋に運ばれている。
どうやら俺達の制服を見ても自警団と分からない辺り、自警団については知らない人間のようだ。
しかし気になるのは俺達を縛ってる縄だ。
これを解こうと力を入れるも、かなり強靭な素材でできているのか中々解けない。
「抵抗しても無駄ですよ、その縄は能力者でも解けない縄ですからね」
「……っ! なんでこれをお前が持ってる!」
材質的にこれは自警団の拘束縄だ。
こんなものを何故こいつが持っているのだろうか。
「それはどうでも良いでしょう、それよりも質問に答えてください、あなた達は何者ですか? いい加減答えてくれないと……」
そう言うと男はテーブルに置いてある拳銃を持ち、銃口をこちらに向ける。
「……撃っちゃいますよ?」
男はそう言ってニヤリと笑みを浮かべながら、安全装置を解除する。
まずい、これはマジなやつだ。
「まって、私達には言えない事情があるの」
そう言うと沙羅さんは、ここにきて初めて口を開いた。
「ほう、言えない事情とはなんでしょうか」
男は銃口を沙羅さんに向ける。
「私達が事情を全て話せばあなたはきっと私達を殺す、それは損でしかない、だから話せないわ」
「ほう……ではこうしましょう、あなた達の素性を全て話せば2人とも殺しません、どうですか?」
「信じられないわね、別に私達は殺されてもいいもの、そんな口約束をする必要はないわ」
えっ、ちょっ、沙羅さん!?
殺されちゃ困るんですけど……。
「そうですか、なら死んでください」
ほら、そんな事言うから本気になっちゃいましたよ、どうするんですか。
チラッチラッと沙羅さんを見ると、俺に向かって小さくウインクをした。
何か考えがあるのだろうか……。
それなら俺はやる事をやろう。
「そう、でも困るのはあなた達じゃないかしら? 総長の居場所、知りたくないの?」
沙羅さんがそう言うと、男は怪訝な顔を浮かべる。
「まさか……知っているのですか?」
「ええそのまさかよ、そこであなたに相談があるわ、私と取り引きしないかしら?」
「取り引き……?」
「簡単な話よ、私の質問に1つ答えるの」
「……それで、君は何をしてくれるのですか?」
「あなたの質問全てに答えるわ、なんならあなたの元で働いても良い、どうかしら?」
「はっ、それこそ信用できませんね」
どうやら目の前の男は相当頭のキレるようで、沙羅さんの取り引きにかなりの警戒を示している。
その時、沙羅さんのスマホから着信音が鳴った。
まずい、もし留守電が流れれば俺達の正体がバレる……。
しかし沙羅さんはそれをものともせず、むしろニヤリと笑って男を見つめた。
「今からあなたを信頼させてあげる」
そう言うと沙羅さんはそのスマホを握りつぶした。
「荒木くんもスマホ壊しなさい」
「……はい、分かりました」
俺も言われた通りスマホを破壊する。
「……これで信頼してくれるかしら? 通信手段を自分から捨てたのよ、裏切ろうともこれで仲間を呼べない、もし私達が裏切ればあなたの好きなようにすればいいわ」
沙羅さんの言葉にまだ男は警戒している。
というより困惑しているようだった。
「あら警戒しすぎじゃないかしら? 別に良いのよここで自殺しても、死ねる方法なんてこの状態でも複数あるわ、例えば……こうやって舌を噛み切るとかね」
沙羅さんは舌を出して噛むジェスチャーをする。
その言葉にかなりの焦りを感じたようで、すぐにそれを止めた。
「分かりました、君の取り引きに乗りましょう……それで質問はなんですか?」
男は銃口を下げ、沙羅さんを見つめる。
それにニヤリと笑って沙羅さんは口を開いた。
「あなたはどうしてあそこを訪れたの?」
その言葉に暫く男は悩んだ後、溜息を1つ吐いて淡々と喋り始めた。
「津上にもう一度夜の翼を始めて欲しかった、そのために訪れた、これで良いですか?」
「なるほど……あなた達に津上を殺す動機はないって事ね、ありがとうそれで十分だわ」
そう言うと沙羅さんは俺を見る。
それに頷いて応えた。
沙羅さんの時間稼ぎはバッチリなタイミングだ。
「なら私達の素性も明かすわ、私達は……」
「自警団よ!」
「自警団だ!」
同時のタイミングで立ち上がり、そう言って腕を開いて縄を解く。
既に俺の空間制御の異能で、腕と空間をリンクさせて縄を解いていた。
自分達が使う道具を1番理解してるのは自分達だ。
いざと言う時のシミュレーションは既にしていた。
……いや、やらされていた……。
まさかあの拷問……じゃなくて訓練が役立つ時が来るとは。
「騙しましたね!!」
男はそう叫んで俺達に銃口を向けるが既に遅い。
一度下げた時点で、俺達の勝利は確定している。
「させるか!」
空間制御で腕をリンクさせ、拳銃を掴んで投げ飛ばす。
「くっ、能力者か!?」
「もう遅い!」
「アガッ……!」
既に男の首周りに腕をリンクさせ、そのまま首を掴む。
「そーーーーらっ!」
そのまま回転をつけて、部屋の外へ投げ飛ばした。
屋敷の一部がガラガラと音を立てて崩れる。
「荒木くん、拳銃を頂戴」
「はいっ!」
沙羅さんの言葉を聞いて、すぐに投げ飛ばした拳銃を掴み投げ渡す。
「耳を塞いでなさい」
俺が言葉通り耳を塞ぐと、上に向かって2発銃を撃った。
1発は天井を、2発目は屋根の瓦を穿つ音だ。
「出口を作ったわ、あそこから脱出して」
「了解です!」
俺はすぐに返事をして沙羅さんの腰を掴み、飛躍を安全な範囲で最大出力を出し飛び上がる。
伸ばした腕によって、天井と屋根を壊し脱出に成功した。
「いってぇぇぇ、ふーっふーっ」
これが本当の瓦割りだ。
飛躍の勢いも相まって俺の拳は赤く腫れていた。
飛躍と硬化を同時に使えれば良いと、こういう時に常々思う。
「とりあえず脱出成功ね、ここからあの塀を越えられるかしら?」
沙羅さんが指すのは、屋敷を囲む高さ3メートルからいの塀だ。
場所が屋根の上のため高さはそこまで関係ないが、問題は距離だ。
ここからだと少し遠い。
「流石に遠いですね、屋根の一番端まで行けばなんとかなるかもしれませんが……」
今俺達がいるのは、屋敷の屋根の中でみると中央に位置する所だ。
屋根から塀を飛び越えるには、もう少し端に移動しないといけない。
だがそうする事が出来ない理由があった。
「邪魔が多いわね……」
吹き飛ばす音に拳銃の音、さらには屋根を割る音だ。
誰も来ないはずがない。
屋敷の中から続々と男の仲間が出てきて、その一部が屋根へと登ってきている。
「突っ切れない事はないですが、飛躍の時に邪魔されるとかなり危ないですね」
いくら敵がヤクザといえど、俺だって能力者で戦闘技術もある。
何人来ようと敵ではないが、飛躍の時に邪魔されると俺だけでなく沙羅さんの危険にも繋がる。
まずは飛躍を使うために掃討が必要だ。
「気をつけなさい、背中は任せたわよ」
「沙羅さんこそ気をつけてくださいよ」
俺達は背中を合わせて、屋根に登ってくるヤクザ達と対峙する。
「ふふっ、随分生意気言うようになったのね」
「こういうシチュエーションでは……こういう台詞が1番ですからね!」
良い感じに決まった所で、足下を蹴って一気に敵との距離を詰める。
「ゴフッ!」
同格相手であれば、先に仕掛ければカウンターを決められる場合がある。
しかし雑魚相手なら最初に攻めた方が一気に有利になる。
俺は勢いをそのままに、目の前の1人の腹に攻撃を入れ気絶させる。
「てめぇ!!」
その隙にもう1人が攻撃をしてくるが、それも想定済みだ。
すぐに気絶した男をもう1人の方に投げ飛ばした。
2人に対処していると、木刀を持った男が襲いかかってくる。
ちょうどいい、それをいただこう。
「なっ!」
俺に振り下ろした木刀を硬化した腕で受け止め、そのままガラ空きの腹に1発攻撃を入れる。
「ガハッ」
その攻撃で悶えてる隙に、木刀を取り上げて男を屋根から吹き飛ばす。
すまん、大丈夫、死にはしない。
「沙羅さん、俺についてきてください!」
「分かったわ!」
後ろで無双している沙羅さんに声をかけ、そのまま人数の割合が少ない俺の方を先頭に、屋根の端へと移動する。
なるほど、通りで敵が少ないと思った。
皆沙羅さんに苦戦して、沙羅さんの方に人数を割いていたんだ。
まったく、何が背中は任せたわよ、だ。
俺強くね?と思った興奮を返してほしい。
「そらそらそらそら!」
篠崎さんのを見てから真似た硬化の使い方で、木刀を硬化させて耐久力と威力を上げる。
それで邪魔する目の前の人間達を吹き飛ばしていった。
……決して八つ当たりではない。
「そろそろ端です!」
屋敷の端が見えてきた、ヤグザも足場が悪いせいか俺達に追いついてきていない。
今なら逃げられる。
……しかし、それを許すほど敵は甘くなかったようだ。
「逃しはしませんよ」
俺がさっき吹き飛ばした男が目の前に現れた。
いや、どうやら俺達の行動を予測して先回りしたようだ。
だが一度は倒した敵だ、何度襲いかかろうが敵じゃない。
すぐに空間を腕とリンクさせ、喉元をつかもうとした時、物凄い速さで俺の懐に男が移動した。
「させませんよ」
「くそっ!」
この近さでは木刀を硬化している暇はない。
すぐに懐にいる男に普通の木刀を振り下ろすが、1発のパンチで木刀が粉々になってしまった。
その瞬間分かった事、それはこいつが硬化の異能を持つ事、そして……。
「なっ、お前も能りょ……ウッ!」
俺よりも遥かに強いって事だ。
「くそっ……はぁ……はぁ」
かなり重い攻撃を喰らい、視界が歪んでしまう。
「荒木くん!」
ふらふらになった俺の前に、沙羅さんが現れた。
そうだ、沙羅さんなら目の前の男に勝てるはずだ。
しかし目の前で起きた光景は、そんな俺の予想を悪い意味で裏切るものだった。
「くっ、このっ!」
「ふんっ、はっ!」
目の前の男は、あの沙羅さんと互角にやりあっている。
それどころか、若干沙羅さんが押されている。
そして、等々沙羅さんが押され負けてしまった。
「……やっぱり予想通りかなり出来るわ、こいつ」
沙羅さんと俺が苦戦している間に、後ろのヤクザ達
ももうすぐそこまで迫っていた。
「さて、そろそろチェックメイトですかね」
目の前の男とのこれ以上の戦闘は、挟み撃ちになって不利になるだけだ。
しかし後ろのヤクザ達を突っ切ろうとすれば、こいつに背を向ける事になる。
この男のいう通り、まさしくチェックメイトだった。
しかしまだこの状況をひっくり返す切り札はある。
「くっ、ならあれを使って!」
その切り札とは、マルムドラゴとの戦闘の時に使ったあの力だ。
あれから試してみたが、あの時と同じように自由に力は出せないし、声も聞こえない。
3ヶ月たった今でもそれは変わらず、制御は全くできないが、一瞬だけならあの力の一部を任意に出せる。
それで行けば……。
「そこまでする必要はないわ、もう時間だから」
「時間……?」
沙羅さんの言葉に頭を傾げていると、遠くからかなりの音のサイレンが鳴り響いた。
「私がただ捕まると思った? チェックメイトはあなたの方よ」
沙羅さんはそう言うと、ポケットから壊れた白いスマホと、そして壊れてないピンクのスマホを取り出して男に見せる。
「事前に私と通信が取れなくなったら、こっちのスマホの位置情報で場所を特定、そこに向かうように言っておいたわ」
なるほど、ピンクのスマホは沙羅さんのプライベート用のスマホだ。
だから壊してよかったのか……よかったのか?
「……このクソアマ!!」
男は今までの丁寧な言葉から一転、汚い言葉で怒りを沙羅さんにぶつけるように殴りかかった。
しかしそれを沙羅さんは涼しい顔で受け止める。
「後もう1つ、あなたもう少し鍛錬積んだ方がいいわ、硬化の能力者にしては……」
「ぐっ、あぁぁぁぁぁ」
「少し弱すぎるんじゃなくて?」
沙羅さんはそのまま男の腕をひねる。
男も抵抗しようとしているが、そこから一歩たりとも動けていなかった。
「え、演技だったんですか……?」
「当たり前じゃない、こんなのに負けるほどヤワじゃない……っもの!」
そのまま男を後ろのヤクザに向かって放り投げる。
ヤクザ達はその勢いを殺せず、そのままドミノ倒しに倒れてしまった。
「あなたの飛躍を使って逃げようしたの本当だけど、それが出来なかったから苦渋の決断よ、騙したみたいでごめんなさいね」
沙羅さんはパンパンと手を払うと、外にいる警察に向かってジェスチャーをする。
「さて、これで夜の翼と結託していた暴力団は捕まったわけだけど……あなたも鍛錬積んだ方がいいわね、明日から朝の訓練のメニューもっとキツくするわよ」
「そ、そんなぁぁぁぁぁ」
あれ以上にキツくってそれもはや拷問では……。
「何? 嫌なの?」
「いえ、嬉しいです、やらせていただきます……」
暴力団のヤクザ達は、警察に手錠をはめられトボトボと屋敷から出て行く。
それと同じように、俺は沙羅さんに連れられてトボトボと屋敷を後にした。
沙羅のプライベートスマホはピンク色。
荒木のプライベートスマホは黒色。
支給されているスマホは白色です。
まあどうでもいいですが(笑)




