成長
申し訳ありません。
体調を崩してしまい、投稿遅れてしまいました。
投稿頻度は変わらず2〜3日に1回となります。
また、今回から新章となりますので楽しんでいただけると幸いです。
次に、迷子の捜索を置換終了いたしました。
今回にて置換は終了とし、今後は書き直しをしない所存です。
あれからもう3ヶ月が経った。
アビリティの組織は壊滅し、今ではすっかりとその名前を聞く事は無くなった。
警察も暇になったのか、最近はめっきりと依頼が減って、俺達も暇な日が増えている。
と言っても事件が解決したわけではない。
アビリティは現状も分からない事だらけだ。
素材は何か、どこから流れてきたのか、どうして能力者の力を得られるのか。
今はそれらを明らかにするため日夜研究が進められているそうだが、進捗はあまりいい物ではないそうだ。
マルムドラゴについては全く分かっていない。
何をしたかったのか、どんな奴だったのか、どんな力を持っていたのか、その全てが分かっていない。
そして、そのマルムドラゴと強く関係しているであろう、俺の力も依然として正体が分からずじまいだ。
それでも時間は容赦なく時を刻む。
気づけば俺は研修期間を終了させ、セミも鳴き始める季節だ。
濃密だった事件もどんどんと新たな事件で上書きされ、記憶は少しづつ擦れていっている。
でもきっとそれでいいのであろう。
アビリティについても、マルムドラゴについても分かる日はいずれきっと来る。
だから今は束の間の平穏を守るために、目の前に必死になっていこう。
「そう思うのである……っと、ふーこんなものかな」
この前沙羅さんに勧められた小説で、事件についての感想を書くシーンがあった。
現実は小説より奇なり、なんて言葉があるが正にその通りだ。
なので俺も小説を真似て、これまでに起きたことについて俺なりにまとめてみたものの……。
「これは……封印されしパンドラボックスに入れねばな」
封印されしパンドラボックス。
そこには俺の中学二年生の青春の全てが入っている。
捨てるにも守さんと2人暮らしのため、見られる可能性があると思うと中々簡単には捨てれない。
そんな忌わしき箱に、二十歳になって新たな触媒を入れた俺は部屋から出てリビングへと向かった。
「朝ご飯できてるよー」
「ありがとうございます、いただきます」
あれから3ヶ月、環境は色々変わったが、変わったのは環境だけではない。
俺も色々と変わった。
「最近交通事故多いらしいから気をつけてね」
「はい守さん、気をつけます」
変わった点その1は、俺は寮暮らしから実家暮らしになった事だ。
というのも前々から欲しかった車の免許とバイクの免許を自警団で取り、そして思い切って2ヶ月目頃に中古だがバイクを買った。
自警団の給料はかなり良く、1ヶ月目は強制協力なんていう人権無視もいいところな罰を食らったが、あれだけ体を張ったためか思わずにっこりな金額が口座に入っていた。
まあ考えてみれば当たり前か。
銃で撃たれたり、骨をあちこち折ったりしたんだ。
これでそこらのバイトと同じなら、俺は怒りで暴走していたところだろう。
話はそれたが、まあ要するにバイクを買ったから寮で暮らす必要が無くなったのだ。
利便性で言えば寮の方がずっといい。
起きて3秒で朝練に行ける。
……ただ俺も男だ、3ヶ月も寮、そして沙羅さんが朝迎えにくる。
……そう色々と発散できないのだ。
「行ってきまーす」
俺は相棒にまたがり、法定速度を守って飛ばす。
寮暮らしから実家暮らしになったものの、朝練があるのには変わりない。
今日も今日とて沙羅さんにしごかれるために、急いで出勤するのだ。
……変な意味ではないぞ。
「ふーいい天気だ、むしろ暑いくらいだな」
変わった点その2、それは俺の仕事内容だ。
現在出勤中だが、俺にはこの時間にも仕事を任されている。
それはパトロールだ。
俺の住む地域はあまりパトロールが徹底されておらず、そこそこ治安が悪い。
今朝守さんが話していたが、最近はここで交通事故も多発しているそうなので、それが起きてないか見回りながら出勤をする。
もちろんここにもお金が発生する、立派な仕事だ。
「……って、いきなりか……」
そこそこ治安が悪いと言ったが、それは事故以外にも喧嘩もある。
「んだてめぇ、先に当たったのはお前の方だろうが」
「いえ、当たってきたのはそちらです……」
……はぁ、朝から喧嘩とは良くやるものだ。
スーツの男とグレーの作業着を着た男が言い争っている。
状況的に突っかかってるのはスーツの男だろうか、あまり見た目は柄の悪そうな感じはしない普通の男だ。
「はいはいそこまでそこまで、何があったか知らないですけど朝から喧嘩しないでください、近所迷惑ですから」
「なんだてめぇは、関係ねえ奴はすっこんでろ!」
スーツの男は俺を睨むと、いきなり手を出してきた。
随分と血の気の多い人だ。
「暴力はいけませんよ」
「あいたたたたたぁぁ!?」
俺はその男の手首を掴み、そのまま引き寄せ肩を捻る。
これは相当痛い技だ、俺も何度沙羅さんにやられた事か……。
あーここも変わった点だろうか。
変わった点その3は、俺の強さだ。
自警団に入りたての俺は戦闘においてかなりネックを抱えていたが、沙羅さんの愛のある指導によりある程度の戦闘能力とトラウマを得た。
今では突然の殴りかかりの対処くらい朝飯前だ。
まあ朝飯は食べたが。
「あのー、もう離してあげてください」
そんな事を考えていると、作業着を着た男がそう言って進行方向に指をさした。
「急いでるんで、もういいですか?」
「はぁ、まああなたが言うのであれば……」
確かに朝は誰にとっても忙しい時間だ、俺だって喧嘩1つに時間をかけたくない。
それに絡まれた側がそう言うんだ、ここはもう解決でいいだろう。
「いつつつつ……たく、何なんだよ」
スーツの男は肩を回しながら、不機嫌にそう言う。
だが流石に学んだのか手を上げてくる事はなかった。
こういう男には暴力も威圧的な態度も効かない。
だがそんな男にこそ効く技がある。
それがこれだ。
「自警団ですが、何か?」
俺は自警団の手帳を見せる。
警察手帳ほどの効果は無いにせよ、それでも警察と連携している組織だ。
これを見せれば大抵の人間は怖気付く。
「……チッ、悪かったよイラついてたんだ、もうしません、これでいいか?」
「反省の色が見えませんが……まあいいですよ、でも次見つけたら即刻拘束しますからね」
自警団手帳を見せると、早速男が引き下がる。
反省の色は見えないのが気になるが、十分に痛めつけた上に釘も刺した。
しばらくは大丈夫だろう。
「じゃあもう行きますけど、こんな真似は2度としないでくださいよ」
俺は舌打ちする男にそう言って、また相棒を飛ばす。
結局それから、出勤中に喧嘩や事故は特に見つからなかった。
「おはようございます」
「少し遅いわね、パトロール中何かあった?」
「まあちょっと喧嘩がありまして……」
「そう、朝から大変ね、ご苦労様」
変わった点もあれば、変わらない点もある。
その1つがこの朝練だ。
沙羅さんとの朝練は日々キツくなっているが、朝練する事自体に変わりはない。
もうこれは体に染み付いた日課だ、今となっては少しキツめの……吐血しそうになるくらいのラジオ体操みたいなもんだ。
「あ、今日は依頼指名で来てるけど、時間指定だからゆっくり出来るわ、だからその分朝練は多くするわよ」
「ゲッ……」
「なに? 嫌なの?」
「いや別にそんな、嫌なわけ無いじゃないですか」
「……あーなんか胸らへんが痛いなー、誰かさんのせいで風穴空いたからなぁ」
「嬉しいです! 喜んでやらせていただきます!」
「最初からそう言えばいいのよ、ほら走るわよ」
変わらない点の2つめはバディだ。
研修期間を終え、沙羅さんと俺はバディを組む必要が無くなった。
そのためバディについてどうするか、と言う話になったのだが、特に候補がなかった事と信頼関係も十分にあったので俺は正式に沙羅さんとバディを組むことになった。
暁さんから同情の目で見られた時は不安だったが、なんやかんやで上手くやっている気がする。
さっきのも沙羅さんなりの冗談で、むしろそれを言ってくれてるあたり、沙羅さんも俺の事を十分に信頼してくれているのであろう。
「ほらあと10周よー」
「ま、待ってください〜」
「早くしないと0ひとつ増やすわよ」
「まさかの10倍!?」
……上手くやっていけるか急に不安になってきた。
「ゼーハー……ゼーハー……」
「情けないわね、男の子でしょ?」
「そ、それ今セクハ……いやこれ前にもやりましたね」
「そうかしら?」
沙羅さんはやはり余裕そうだ。
3ヶ月経って日に日に朝練のメニューは厳しくなっている。
最初に比べれば沙羅さんは少し汗を掻くようになったが、未だに沙羅さんが息を切らしている所を見ていない。
本来の沙羅さんの朝練メニューは、一体どんなものなのだろうか……。
「あ、そういえば今日、指名の依頼があるって言ってましたね。それも時間指定って、どんな依頼なんですか?」
俺が聞くと沙羅さんは水を飲み、汗を拭き終わるとニヤリと笑った。
「この季節にぴったりな依頼よ」
「……へ?」
その夜、俺は本当に沙羅さんとバディを続けていけるか不安になった。




