面談
活動報告にある通り、今までの話を全体としてのストーリーは変えずに、事件内容のプロットを変えて投稿しなおそうと思います。
ですが、投稿頻度は変わらず2、3日に1回です。
新規ストーリーも楽しんでいただけると幸いです。
今は招き猫編を書き直してますので、置換が終わりましたら報告させていただきます。
「……どういう事かしら?」
沙羅さんはそう言うと小林さんを見つめる。
「そう警戒しないでください、僕はあなた達に協力したいんですよ」
「どうしてかしら、私達に協力すれば困るのはあなたの方かも知れないのよ?」
そうだ、もし裏切り者が見つかれば困るのは警察側だ。
だとすれば止めようとするのが普通と思うが……。
「いいんですよ、最近の南沢の仕事ぶりを見るとやっぱり警察って正義のための組織だと思ったんです。だからもし不正を働いている人間がいるならそれを止めたいんです」
なるほど……。
確かに弥さんは如月さんの事件が解決した後、考えを変えたのか、真相を見つけたいと言っていた。
もしかしたらその姿勢がこの人にも影響したのかも知れない。
「沙羅さん、悪い条件では無いと思いますよ。どうせ俺達だけでできる事なんて限られていますし」
「ま、まあそうね……」
悔しいが俺達だけで出来る事なんて、たかが知れている。
だったら警察の人を取り込んで、捜査をした方がいいはず。
それにもしこの人が裏切り者だとしても、リネさんに会える事には変わらないわけだし、そもそも裏切り者なら協力なんてしないはずだ。
「じゃあ、お願いできますか?」
「ええ、喜んで!」
そう言うと小林さんはスマホを取り出し、少し会話をした後、俺達にオーケーのサインを出した。
「許可取れました、早速行きましょう!」
俺達はそう言って進む小林さんについて行った。
「小林です、面会させてください」
「話は聞いております、どうぞ」
小林さんは無機質な空間のドアの前で立っていた警官にそう言うと、ドアを開けさせた。
「どうぞ中へ」
警官がそう言った時、期待と不安で胸が高鳴る。
久々にリネさんに会える。
短い期間とはいえ、一緒に事件を追った仲だ。
元気にしているだろうか?
柏崎さんの事を覚えているだろうか?
……そして、どうして潜入したのだろうか?
質問したい事が多すぎて、頭の整理が追い付かない。
だがここまできて手ぶらで帰るわけにもいかない。
俺はギュッと拳を握りしめ、部屋に入った。
「……」
俺が目にしたリネさんは、前よりも少し痩せており、髪も少し乱れていた。
だが目は前にあった時よりも輝いていて、寧ろ前よりも少し綺麗になったと思えた。
そんなリネさんが黙って俺たちを見つめている。
「お久しぶりです、リネさん……」
俺はそう言うとリネさんは軽く困ったように笑って答える。
「こんな再会で第一声がそれなんて、相変わらずね」
俺はそれに少し笑い返す。
良かった、軽口を返すくらいには元気そうだ。
「お久しぶりね、リネさん。今日は少し聞きたい事があって来たわ」
「はい、分かりました。全て正直に答えます」
そうリネさんが答えたのを確認して俺達は座った。
「それで早速だけど……あなたの情報は空振りに終わったわ。何か心当たり無いかしら?」
沙羅さんがそう言うとリネさんは目を見開き、とても驚いた様子だった。
「そんなはずは……だってあそこは本拠地で……」
「大丈夫、私達はあなたを疑ってないわ、恐らく裏切り者が存在していると見てる、だから教えて欲しいの、あなたが入っていた組織と次に逃げそうな拠点について」
「……はい」
リネさんは静かに頷き、そう答えた。
リネさんが入っていた組織は所謂暴力団のような所で、薬、闇金、詐欺、色々な事をやっていた小さな組織だったそうだ。
だがアビリティという薬の流通を担当してからは、金回りが良くなり一気に拡大。
金を騙して稼ぐような小さな組織から発展し、最近にいたっては良くて人身売買、酷い時は暗殺まで行っていたようで、リネさんもそれに少なからず加担していたという。
その人身売買のひとつが俺達の最初の事件で、そこで捜査した自警団が警戒リストに入り、俺達が千恵さんの事件を解決した事でリネさんが潜入捜査しに来たという流れとの事だ。
警察にもスパイとして潜入していたため、自警団にすんなり入れたらしい。
「そう……それでどうやって自警団に来たの?」
沙羅さんは体を前のめりにしてリネさんに質問をする。
そこだ、そういえばリネさんは警察から俺の評価をするために自警団に来たと言っていた。
つまりリネさんの共犯は、確実に警察内にいるはず。
しかしリネさんは、沙羅さんの質問に首を振った。
「自警団に潜入できたのはたまたまです。剛太くん……いえ荒木くんの評価を頼まれて入ったのは本当です、たまたまそう言う話があったので利用しました」
「なら、その話をし始めたのは誰かしら?」
沙羅さんがそう聞くとリネさんは小声で、俺達だけに聞こえるように話した。
「……御坂警部です」
「……分かったわ」
沙羅さんはそう答えるが俺は絶句してしまう。
御坂さんは俺を評価するためにリネさんを自警団に入れさせた。
そのタイミングはアビリティという存在が分かり始めた時……。
これを偶然と処理するには少々出来過ぎている。
「御坂さん、ですかね」
俺がそういうと沙羅さんは小さく首を振る。
「まだこの段階じゃ分からないわ」
「はい……」
沙羅さんはそういうが、正直かなり怪しい。
警戒しておく事には変わりなさそうだ。
「……荒木くんは怒らないの?」
「えっ?」
今後について考えていると、リネさんに突然話しかけられて間抜けな返事をしてしまった。
「私、あなたを調べるために潜入したのよ? それなのに……」
「別にいいですよ、それと今まで通り剛太で大丈夫です」
俺がそういうとリネさんが首を振った。
「剛太くん、と私が言ったのはあなたに近づくための言わば色仕掛けなの、私はもうそうする必要がないし、そんな風に話しかける資格も……」
「だったら尚更剛太で大丈夫ですよ」
「でも……」
「近づくためにそう言ったんですよね、だったらそのままにしてください。俺、まだリネさんについて全然知りませんし、その世界から足を洗ったなら尚更仲良くするためにそう言ってください」
リネさんはもう昔のリネさんじゃない。
罪を受け入れて生まれ変わった。
なら尚のこと仲良くなりたい。
たった少しの時間だったが、同じ事件を追った仲だ。
距離が離れるというのは少し寂しい……。
「……分かった、じゃ、じゃあ……剛太くん……」
「は、はい」
リネさんは顔を少し俯かせながら小さな声でそういう。
その仕草にドキッとしてしまい、変な感じに返してしまった。
女性に耐性がないの何とかしないとだ……。
「ゴホン、もういいかしら?」
「あ、す、すみません」
咳払いをする沙羅さんに一言謝り、ニヤニヤしている顔を少し弄ってキリッとした表情に頑張って直した。
「じゃあ、千恵さんに毒を盛った理由は口封じ……かしら?」
「はい、罪を償うつもりです」
「そう……」
その一言で俺はいかに呑気だったのかに気づいた。
暗殺、人身売買、そのどれもに携わっていて、しかも千恵さんを口封じのために殺害しようとした。
その罪を全て償うというのであれば最悪死刑になりかねない……。
「……」
俺は黙ってしまった。
何を言おうとしたのかも分からなくなってしまった。
リネさんの生存を望んでいる人は沢山いる。
俺もそうだし、沙羅さんだって、そして何より柏崎さんも生存を望んでいる。
しかし国はこの人を死刑にするかも知れない。
被害者の家族は、リネさんに死を望むかも知れない。
そう思うと、とても捜査どころじゃ無くなった。
「ごめんなさい、変な空気にしてしまって。それで他には何かありますか?」
「いいえ、荒木くんは?」
「……俺も何もないです」
「そうですか……あ、これ逃げそうな場所のリストです、あくまで逃げそうって場所なので、実際に逃げる場所かは分からないです」
「ありがとうリネさん。さ、荒木くん行くわよ」
立ち去る俺達にリネさんは笑って手を振る。
俺はそれになんて返せばいいのか分からなかった。