面接
沙羅さんの話によると自警団とは、警察に協力する組織のようだが、国の管理する公共機関では無くあくまで警察の依頼を受ける一般の会社らしい。
その仕組みはこうだ。
警察には毎日何件もの事件がくる。
だがその全てに当たっていられるほど警察も暇じゃない。
だから緊急性の低いものや事件の捜査、危険な捜査等を自警団に依頼。
その報告をもとに、警察が裏どりをして最終チェックをするというもの。
なのでそこで発生するのは警察からの依頼料であり、国からの直接報酬ではない。
つまり公務ではなく一般の会社による業務になる。
警察からすれば、緊急性の低い事件や捜査、危険が伴う捜査をせずに済むため効率よく事件を解決できる。
国としても能力者という面倒な人間の管理を軽減できる上に活用もできる。
自警団も国に管理されずに仕事ができる上に、警察がある限り仕事はある程度回ってくるため、皆に得があるシステムだそうだ。
「まあこんな感じね、大抵の人達は警察と自警団は一緒だとか、詳しく知っていても警察を顧客にする何でも屋て認識ね」
「なるほど……」
気づけば沙羅さんは敬語ではなく、砕けた話し方で話していた。
「あ、ごめんなさい、あまり敬語に慣れてなくて……」
「いえ、そのままで大丈夫ですよ」
何故か俺にも沙羅さんが敬語を使うのがむず痒かった。
逆に俺は敬語を使わないといけない気がする。
んー何故だろうか。
「そう、助かるわ、まあ先言っちゃうとほぼ合格だし、その内仲間になる訳だから、敬語なんて必要ないわよね」
そう言うと沙羅さんはゴホンッと咳払いをした後、続きを喋り始めた。
「だから自警団にくるのは簡単な仕事や、かなりハードな仕事とピンキリよ、もちろん手当てもその分厚いけどね」
それを聞いて誘拐された時を思い出す。
確かにあれくらいの捜査が日常茶飯事となると、かなりハードな仕事になりそうだ。
でもそれを俺はマイナスポイントだとは思えない。
何故なら小さい頃に心に決めた1つのルールを、自警団だったら貫けそうだと感じたからだ。
「自警団に入れば誰かを助けれるって事ですよね」
「ええそうね、正義の味方よ自警団は」
その時、胸に熱いものが込み上げる。
強盗に襲われた時、誰も助けてくれない事がとても悔しかった。
その時から常に誰かの助けになってあげたいと動いてきている、まあそんなだから無職になったりしているのだが……。
「あの、俺やりたいです、自警団」
「おっけーじゃあ決まりね!」
そう言うと沙羅さんは鞄から、書類やらペンやら取り出した。
「そしたら今から面接を始めます。もちろん守さんにも許可は得ています、まあ時間は取らないわ2、3点質問するだけだから」
「はい!」
その後すぐに話は進み面接となった。
面接は守さんと俺の2人に対して沙羅さんが質問をするという形だ。
守さんは俺が嘘をついてないかを確認するための人間である。
「じゃあまず荒木くんに質問ね。どうして前職をやめられたのですか?」
いきなりハードな質問だが、まあ当然の質問だろう。
「仕事は転々としています、困った人は見捨てられず結果遅刻したり問題を起こしたりで辞めさせられています……」
目を光らせて俺と守さんを見ている、嘘をついていないかの確認だろう。
「そう、次に荒木くん、どうして人助けをするの?」
「昔、誰も助けてくれなくて惨めな思いをしてから、そんな思いを知っているからこそ見える範囲の人は絶対助けてあげたいと思い行動しています」
「ありがとう、辛い質問してごめんなさいね、では最後に守さんに質問をさせてください」
「はい」
「ご一緒に生活していての感想をください」
「そうですね、面倒がかからないいい子です、ただすごくお人好しで、そのせいで自分が損をしている事が昔からありました。小さい頃はそんな生き方は辛いだけだから、まずは自分を大切にしなさいと何度も注意してきましたね」
そういえばそうだった、守さんの養子になってすぐの頃いじめっこと喧嘩してボロボロになって帰った時はすごく心配をさせたし迷惑もかけてしまった。
「ただそれは彼が決めた人生なので、自分の命を自ら捨てるようなことをしない限りは、見守っていこうと思っています」
守さん……ごめんなさい、下手したらあの時死んでいました。
今度からは慎重に行動しよう……。
「ありがとうございます、こちらからは以上です、最後に何か質問等はありますか?」
質問か、ある程度は最初に質問したからこれといってないな、それに資料にも詳しく書いてある。
守さんはどうだろうか。
「そしたら僕から1つ」
「はい守さん」
「プリントにもありますが出勤場所はここからは離れていますよね、剛太くんは寮暮らしになりますか?」
「詳細は機密事項のため省かせていただきますが、本人が希望するのであれば2人1組、もしくは1人部屋での寮があります。もちろん自宅からの出勤も可能ですしその際は交通費も支給します」
あ……忘れてた。
俺が出勤する自警団の待機施設と言う所はだいぶ遠かったんだった。
自警団の人が車で送ってくれたから全く実感がなかったな。
情け無い……自分の事なのに守さんに質問させてしまった。
「こちらの書類に手当てや詳細な契約条件、労働内容があります。こちらの書類に目を通された後、手当て等の質問をお願いいたします」
そういうと沙羅さんは守さんと俺に書類を渡した。
守さんと俺はそれにざっと目を通した後、他は特にありませんと言って質問は終わった。
「ではこれにて面接を終了いたします。合否につきましては……まあほぼ合格かと思われますが追って連絡をいたします」
そういうと沙羅さんは軽くお辞儀をして「お疲れ様でした」といい、面接を終了させた。
その後、守さんの雰囲気は一気に柔らかくなる。
「沙羅さん、夕飯は食べていきますか?」
さっきまで面接していたのにもうこれだ。
守さんのオンオフはとても激しい。
「お話大変ありがたいですが、この後も予定がありますので」
俺も流石にほとんど知らない人と食事を取るのは気が引ける。
それにこれから上司になるかもしれないような人とは尚更だ。
沙羅さんは一言礼をすると外に置いてあったバイクに跨る。
「じゃあ、荒木くんまた今度、次会った時はよろしくね」
そういうとバイクで夜の道を駆け抜けて行った。
「じゃあ夕飯にしようか」
「はい!」
今日はとても疲れた、色々あったが美味しい夕飯を食べて早く寝てしまおう。
紫藤家から自警団の待機施設までは車で30分ほどです。
荒木は自転車をタクシーに積んでもらい車で待機施設に運ばれて詳細を聞き、車で家まで送ってもらいました。