絞殺
「お2人とも依頼を受けてくれて、ありがとうございます」
「いえ、むしろ受けないわけにはいきませんよ」
「私も驚きました、まさかこんな事が起きるなんて……」
朝練を終えた後、主任から連絡を受けた。
連絡内容は俺達を指名してのものらしい。
リネさんの事は気になるが、指名を無視する訳にはいかない。
俺達はすぐにその依頼を確認したが、その依頼内容は驚愕なものだった。
何故なら依頼に添付してある被害者の顔写真が、能力者になる前の千恵さんとそっくりだったのだ。
「最初は姉妹か双子かと思いましたが、2人には何の関係もありませんでした。単純に似てるだけですね」
「世界には3人は顔が同じ人がいると言いますが、本当だったんですね」
「それで……これが遺体の写真です」
「……まじですか」
被害者の名前は金刺恵さん(40歳)で、特徴は何と言ってもその私服のセンスだろう。
毛皮の服に濃い目の化粧、指の全てにはダイヤを付けており、まさしく高いものを付けれるだけ付けましたという感じのファッションだ。
しかし驚いているのはそこではない。
この遺体、千恵さんと同じ方法で殺されているのだ。
死亡推定時刻もほぼ同じ。
つまり同じ手口での犯行が、似ている顔の人間にもう一度行われた事になる。
「偶然……とは思えないわね」
千恵さんと似ている顔の人が同じ手口で殺された。
これを偶然と考えるには少し……いやかなり難しい。
「金刺さんは何をやられてた人だったのでしょうか」
俺が井浦さんに聞くと首を傾けていた。
「それが分からないんだ、財布に入ってたのは大量の金と免許証、それと色々なホストクラブの会員カードでね。それ以外は繋がりそうなのがなかった」
「スマホの着信履歴はどうなんですか?」
「それがスマホ自体がなくてね」
「スマホがない……? ガラケーも?」
「ええ、一切無かったです」
この時代、時間潰しも連絡もできるスマホは生活必需品と言っても過言じゃない。
スマホが無くたって、一昔前の連絡アイテムであるガラケーくらいは持っているはずだ。
それを一切持ってないというのは些か引っかかるものがある。
「何だか気になるわね、それ」
「ええ、まあ持ち歩かない人はいるとは思いますが……」
「お金に困ってないのにスマホは持たない、それは不自然よね」
「とりあえずこの人の職場を見つけるためにも、免許証にある住所に行きましょうか」
「異論はないわ、行きましょう」
沙羅さんとそう話した後、俺達は金刺さんの家へと向かった。
金刺さんの家は病院からそう遠くない。
大体歩いて片道15分程度だ。
そこは高層マンションが並ぶ所謂人生勝ち組の住む街で、所々に立地の良さが伺える。
例えば駅なんて10分もせずにつける上、病院もさっきの通り15分でつける。
公園だって綺麗で広くて、その中には大きな池がある。
ここに住む人達にとってはただの公園でも、俺から見れば立派なレジャー施設と思えた。
「はー高層マンションたけぇ〜」
「20階……家賃いくらするんでしょうね」
「100万とかですかね?」
「流石にそこまでではないでしょ」
エレベーターに乗りながら話していると、上にかなり小さい監視カメラがあるのが気になった。
「あれ監視カメラ……ですかね」
「ええ、あの位置でエレベーターのこの広さなら、死角は生まれないでしょうね。後で確認して見ましょうか」
「はい」
そう話していると、ポーンという音が鳴りエレベーターの扉が開いた。
「ここですね、入りましょう」
管理人さんに借りたカードキーで中に入り、ガチャリとドアを開けると、そこにはかなりぐちゃぐちゃな部屋があった。
「うへぇ、随分と汚く過ごしてるんですね」
「そうね……まるで泥棒が入ったみたい」
「ありえない話ではないですけどね」
実は金刺さんの遺品にもう1つ、スマホと同じように無いとおかしいものがあった。
それが家の鍵、つまりカードキーだ。
死体発見現場の周りにも見つからず、仕方なく管理人さんにカードキーを借りた。
カードキーが無くなっている理由、それはまあある程度考えられる。
道中で無くしたか、誰かに盗まれたかだ。
「ゴミは捨てられてますし、冷蔵庫の中身も綺麗に整理整頓されてます。自炊はしてなかったようですが、それでも消費期限切れの食品はないですね」
「となると……これは荒らしって考えた方が良いのかしらね」
最初は整理できない人なのかな?と思ったがゴミや食べ物といった生活に必要な部分は綺麗にされている。
つまりこれは部屋が汚いというよりも、荒らされて汚いと考える方が自然だ。
「とりあえず金目のものが取られてないか探るわよ」
「はい!」
もし宝石などが取られていたら、それほど嬉しい事はない。
どこかに売れば足が付くし、売られてなくても持っていればそれが証拠になる。
「沙羅さん金庫がありました、鍵はかかってないようです」
「中身はどう?」
「それが……」
金庫は鍵が開けられている状態で置いてあった。
もしこの中から何か盗まれていれば、こちらとしてはかなり有利になるのだが……。
「ダメですね、全く手が付けられていません。荒らした形跡はあるようですが、宝石もお金も残ってます」
「おかしいわね……物取りなら普通は持ち帰れるだけ持ち帰るはずだけど……」
俺もこれにはかなりの違和感を覚える。
何故なら荒らした形跡は残っているのだ。
つまり犯人は金目的の泥棒ではないという事になる。
「とりあえず防犯カメラ確認しましょうか、20階となればエレベーターは使っているはずよ」
「そうですね」
物取りの可能性はあるので、現状家にあるもののリストを全て取った後、管理人室へと向かうことにした。
「荒木くん、リネさん送検まであとどれくらい?」
「逮捕されたのが昨日の朝9時で、今が10時ですから……えーっと23時間ですかね」
「時間がないわね……二手に別れましょう。私がここの捜査を受け持つから、荒木くんは病院の捜査をお願い。単独行動の申請は私がしておくわ」
「了解です」
俺達にはなんとしてもこの事件を、今日中に解決する必要がある。
リネさん送検まであと23時間。
送検されればまず間違いなく有罪になる。
それまでに何とかして真犯人を見つけて、冤罪を防がねばならない。
俺はそう答えた後、ダッシュで病院へと向かった。
「前回は大変失礼しました、自警団の荒木です」
病院に着いた後、真っ先に院長へと話しかけた。
理由はアリバイを聞くためだ。
「自覚しているなら、来て欲しくは無いのですがね」
院長はそう言うとソファへと座り、秘書にお茶を出させる。
「今日はまた別件の、昨日発見された遺体についてです」
「あー、それですか。はい、質問とは何ですか?」
「これは誰にも聞いている質問なのですが、昨日の22時から23時の間、どこで何をされていましたか?」
俺がそう聞くと、院長は隣の秘書にスケジュール表を開かせた。
「その時間でしたら、近くの病院で勉強会をしていました。これがその時の名簿です、疑うのであれば1人1人連絡されては如何ですか?」
院長は自信満々にそう言うと、名簿帳を俺に見せた。
「疑っているわけではありませんが、これは一様確認のためお預かりさせていただきます」
「それで、他には?」
院長はアリバイがあるためか、ソファにふんぞり返って質問をする。
「殺された金指恵さんについて、何か知っている事とかありますか?」
「さぁ……私は医者ですので、入院されている方以外の人との交流はありませんね」
「そうですか、ちなみに昨日は何時頃帰られました?」
「昨日は……23時過ぎにはここを出たかな」
それから少し話したものの、結局被害者と院長との有力な情報は掴めなかった。




