死体
少し残酷な描写があります。
ご注意ください。
「ご通報ありがとうございます」
「いえ」
沙羅さんが通報した後、俺達は警察と一緒に死体の確認を始めた。
「こりゃひでぇな。身体中に深い切傷がありやがる」
「顔も傷だらけで誰なのか全く分からないわね」
「そ、そうですね……」
うっぷ、吐きそうだ。
あまりにも死体の状態が酷く、直視できない。
目の前の死体は身体中に何かで切り裂いた深い傷があり、またそのせいか近寄ると血生臭いというか、腐敗した匂いを感じた。
「無理しなくていいわよ、荒木くん。あなたは先に帰ってなさい」
「そ、そんなわけにはいきません。俺も辺りを探ってみます」
帰りたくても帰れない。
まだ拳銃の件の恐怖が残っているのに、こんな死体を見て1人で帰るなんて無理だ。
今日は守さんの家に戻ろうか……。
そう考えていると警察の1人が財布の中身を取り出し身元を確認していた。
「古川健……どこかで聞いた名前ですね」
「「古川健!?」」
俺と沙羅さんはその言葉に同時に驚く。
そして身元確認をした免許証を見て確信した。
これは俺達が追ってる古川健の物で間違いない
「お知り合いなんですか?」
「お知り合いもなにも、今私達が追っている薬の売人だわ」
沙羅さんはそう言ってスマホに入っている古川健のモンタージュ写真を見せる。
「確かにそっくりですね。あ、ここ同じ場所に黒子がありますよ」
「場所も形も報告通りね、古川健本人で間違い無さそうだわ」
俺も確認したが、目から少し下の右頬あたりに大きい黒子がある。
本人で間違いなさそうだ。
「とりあえずこれ以上は鑑識待ちだな、お2人さんご協力ありがとう、あとは我々警察に任せてくれ」
「分かりました、よろしくお願いします。荒木くん行くわよ」
「は、はい」
俺達は女性の事や死体発見までの経緯を話した後、警察に解放されてその場を後にする。
「残念だけど、呑む気分じゃなくなったわね」
「はい、そうですね……」
流石に死体を見た後に呑むなんて無理だ。
今日はとにかく早く帰って全てを忘れたい。
「寮まで送っていくわよ」
「ありがとうございます」
俺は沙羅さんに連れられて寮まで戻った。
本当は守さんの家に泊まる気だったが、沙羅さんが送ってくれるなら1人で守さんの家に帰るより、2人で寮に戻った方が安心だ。身体的にも精神的にも。
「沙羅さんは凄いですね、俺は死体を見ただけで吐き気がして……」
道中、話題がなくなり死体現場の話になった。
「別に凄い事じゃないわ、慣れよ。私だって最初はあなたと同じ反応だったわ。特別な事情がない限りは誰だってああいう反応をとるわよ」
「特別な事情……ですか」
その言葉で主任に俺の事を報告した時の反応を思い出す。
主任は「そうか」と一言いうと俺達に他言無用だと伝えた。
能力者という異質な存在が集う自警団で、その中でさらに異質な存在となっている俺は一体何者なのだろうか。
「荒木くん? どうしたの?」
俺は気づけば足を止めていた。
「え、あ、いや、あはははは……」
俺は笑いながら沙羅さんに近くと、沙羅さんの顔は酷く辛そうな顔をしていた。
「悩んでいるんでしょう、自分の異能の事」
「……まあ、はい。で、でも大丈夫ですよ。再生も出来て高く跳べるなんて便利じゃないですか」
「そう……私じゃ役不足なのね」
「え? なんか言いました?」
沙羅さんがボソリと何か呟いた気がしたが、能力者の耳を持ってしても聞き取れなかった。
「何でもないわ、ほらもう少しで寮よ」
沙羅さんはそう言うと俺の前を歩く。
それから寮に着くまで俺達は会話もしなければ顔も合わせなかった。
※
『あなたのような殺人犯が正義の味方とは……聞いて呆れました』
違う……そうじゃないの、私は正義の味方なんかじゃ……。
『自警団という組織は警察以上に腐っていたんですね』
違う、違うの。私は確かに自警団に相応しくないけど皆は違うのっ!
『もういいです、僕は僕なりの正義を貫きます』
まって、まってよ■■■■■■!
「はーっ、はーっ、はーっ……夢…か……」
深夜3時、私は昔の事を思い出して飛び起きた。
体は汗だくで気持ち悪く、顔は青ざめて酷いものだった。
昔の記憶だ。もう忘れようと決めたのに時折こうして思い出す。
いや、きっと心の奥底では忘れたくないと思っているのだと思う。
「シャワーでも浴びようかしら……」
ベッドから降りて浴室へ向かう。
「人殺し……か」
私はそう呟きながらシャワーの蛇口を回す。
キュッキュッと音が鳴った後、すぐに暖かいお湯が私の体を流れた。
「荒木くんの指導役、私なんかでいいのかしら……」
荒木くんのポテンシャルは凄いものがある。
頭はキレて洞察力も高く、勇気もあり優しい。
まさしく自警団が求める理想図だ。
でも、いや、だからこそ今彼は壁にぶつかっている。
異能という存在の壁に。
能力者になれば身体能力が高くなる。
これだけなら少し便利な体になったと思って終わりかもしれない。
けど、それでは話がつかない事が1つある。
それは異能だ。
何故使えるのか、まだはっきりとは分かっていないこの不思議な力。
呑気な人間ならそれも便利で終わるかもしれないけど、荒木くんのように急に自覚するとそれは便利なんてものではなく、恐怖へと変わる。
特に色々考えてしまう頭のいい人間なら特に。
本当ならその相談に乗ってあげたい。
私もそれで迷った1人だから。
「でも、私じゃ無理……よね」
でも、荒木くんは私に相談しようとはしない。
それはきっと私が荒木くんの信頼を得ていないからだ。
けど、もし信頼を得たとしても私が荒木くんを導けるかを考えるとそうは思えない。
だって私は……。
そこまで考えて思考を振り払い私は蛇口を閉める。
体はさっぱりしたけど、頭はむしろ更にモヤモヤした。
「もう受け入れはずなのにな……」
私は鏡の前の私にそう言って、ベッドへと戻った。
※
「おはよう」
「おはようございます」
俺達はいつも通り寮を集合場所として朝のトレーニングを開始する。
そしていつも通り朝食を一緒に食べて、いつも通りデスクに座る
結局昨日のあれから今まで挨拶以外一言も会話していない。
理由は恐らく俺だ。
俺が悩んでいるから変に気を使わせてしまっている。
なんとかしなければな……。
そう考えていると、沙羅さんの表情が一気に変わった。
「荒木くん、これ見て」
「……これって」
沙羅さんは俺にスマホを見せる。
そこには1つの依頼があり、それを見て俺の表情も一気に緊張のものへと変わる。
何故ならその依頼は俺達を指名しており、『古川健殺人事件について』と書かれていたからだ。
依頼名: 古川健殺人事件について
指名者:安藤沙羅 荒木剛太
依頼内容:
20時30分にて古川健(30歳)の遺体が見つかる。
通報者は指名者と同じ。
第一発見者と思われる女性、佐々木千恵(28歳)を任意同行するも現在黙秘中。
指名者両名にはこの女性と時間の関係性の調査、及び事件の調査をお願いしたい。
事件についての詳細な情報については依頼受理後に共有予定。




