解決
2話目になります。
今回までがこの作品の導入となります。
前回の拙い文をお読みになられた後に再度見ていただき感謝しかありません。
数ある作品の中から選んでくださりありがとうございます。
研鑽し暇つぶしレベルになるまで頑張ります。
よろしくお願いいたします。
(2020/06/29)
手を加えました。
一部戦闘表現を追加しましたのでご注意ください。
「もごご……」
バカなの?死ぬの?
いろいろな疑問が沸いたが、今俺の頭に浮かぶ言葉はそれだけだ。
そしてその言葉すらガムテープによって、もごごと情けない声になっていく。
「とりあえず男の方は後で片付けるとして……おい! このメスガキの引き取りはどうなってる!」
屈強な男が奥にいるであろう仲間に声をかけた。
「今交渉がついた。500万ロークだってよ」
500万ローク!?あまりに莫大な金額すぎて想像がつかない。
だが目の前でそのような莫大な金額が取引されていると思うと、今の状況に急な実感が湧き体に恐怖が走る。
これは現実で実際にこの少女は売られ、俺はきっと……殺されるのだろう。
「おぉ、交渉通りだな!」
屈強な男は嬉しそうにニヤニヤと笑う。
それが酷く気持ち悪く、そして酷く怖かった。
俺は死にたくない。死ねない理由がある。
生きたい願望が増すごとに死ぬという恐怖が比例して増していく。
「さて、そしたら交渉前にひと仕事しますかね」
男はナイフを手にじりじりと近づく。
「わりぃな、これも仕事なんだ。死んでくれ」
その言葉は謝罪であったが謝罪とは真逆の……いや真逆ですらない。
その言葉には感情がなく、酷く冷たいものだった。
「んん! んんんんん!」
俺は体を必死に動かして抵抗するものの拘束されておりうまく動けない。
むしろ生半可な抵抗した事で男の警戒を引き上げてしまった。
「チッ、面倒かけんな!」
俺は肩を掴まれ床に押し当てられる。
「んんんっ!」
押しつけられた力はあまりにも強く、人間とはとても思えないものだった。
俺の肩からミシリと骨が軋む音がし、激痛が走る。
咄嗟に大声で叫ぼうとするも口はガムテープで拘束され、開く事さえ出来ない。
その事実は助けを呼べない事を理解するには充分すぎるものだった。
俺は覚悟を決め、目をギュッと閉じた時、奥から叫び声が聞こえた。
「まて! 殺すな!」
その声が響いた後、何秒かまっても痛みは走らない。
俺は恐る恐る目を開けると、ナイフは喉元ギリギリで止まっており男は振り向いて奥を眺めていた。
「追いかけてきた男を捕まえたって言ったら、そいつをつけてくれたら200万ローク上乗せするってよ!」
「おお、合わせて700万ロークか!」
男は再びニヤニヤと笑い俺から離れる。
あの様子から見るに俺はしばらく殺されそうにない。
俺は死の恐怖からの回避に泣き出しそうになるのを堪えて大きく息を吐く。鼻からだが。
だが根本的解決には至っていない。
なんとしてもここから脱出しなければ……。
その方法を考えていると男は欠伸をして体を伸ばす。
「じゃあこのまま2人とも縛ったまんま監視しておけよ」
そう言い残すと男は奥へと消えていった。
そして代わりとして奥からたびたび聞こえる声の主であろう男が見張りとなった。
その男は俺たち2人を見るとため息を吐く。
「はぁ……まさか市民を巻き込むことになるとはなぁ」
市民……?くそっ、さっきから肩の痛みで頭が上手く回らない。
「まったくね、というかこの子どうやって追いついてきたの? 私が見た時は自転車を呑気にこいでいたわよ?」
この2人は仲間なのか……?ダメだ分からない事が多すぎる。
俺が混乱していると屈強な男が帰ってきて叫んだ。
「おい! 取引を始めるぞ!」
よく情報が整理できない内に売られることになった。
俺たちは拘束されていた廃屋から運ばれ、違う廃屋に連れられた。
どちらにせよ外界とは完全に遮断されており、今が昼なのか夜なのかすら分からない。
そんな廃屋で、やつれたサラリーマンのような男がトランクを引きずってこちらに近づく。
「さて、これが今回の取引分の金700万ロークだ」
やつれたサラリーマンはトランクを差し出すと、男はそれを開けて中身を確認する。
「へへへ……。ほらこれが商品だ。また頼んでくれや」
屈強な男は大量の札束を確認するとトランクを引きずり去ろうとする。
どうする……?抵抗するなら今しかない。
相変わらず拘束されたまま床に転がされているが、あの馬鹿みたいな力を持つ男が離れた後なら抵抗できるかもしれない。
肩の痛みも引いてきた。今ならどうにかなるかもしれない!
そう思い拳に力を入れた時、やつれたサラリーマンが言い放った。
「いいや、取引はこれで最後だ……確保!!!」
その合図と共にわらわらと武装した警察官が周りを取り囲む。
「あ?……ちっ警察かよ!」
男はそう叫ぶと俺たちに向かって走っていった。
やばい!捕まる!!
そう思った時、少女は地面に手をつけ大きく起き上がる。
その起き上がりの反動で男を蹴り飛ばした。
「今よ!」
少女がそう叫ぶと同時に武装した警察官は男へと走り出し、俺たちは安全な場所へと避難させられた。
だが男はすぐに立ち上がり、武装した警察官をなぎ払う。
「チッ! 雑魚どもが!」
それを見た武装した警察官は、一度距離を置きもう一度円状の包囲網を形成した。
「くそっ! これだから能力者は!」
避難させられた場所には先ほどのサラリーマンがおり、苦虫をつぶしたような顔でそう怒鳴って指示を出していた。
「主任! 異能を使います!」
さっきまで一緒に避難していた白髪の少女は、やつれたサラリーマンにそう言い放つと片手を上げる。その瞬間、驚くような変化が起きた。
「まだいやがるか! いやあっちが空いてんな!」
男はそう叫ぶと、一番包囲が厚い部隊の方に走っていった。
もちろんすぐに取り押さえられて確保された。
何が何やら分からないが、これで俺は救われたのだろうか……。
それからしばらくした後、主任と言われてた男と白髪の少女の会話が耳に入る。
「しっかし沙羅の幻影の異能はすごいなぁ」
「ふふっ、まあ鍛錬していますからね」
先ほどまで一緒にいた少女は沙羅という名前らしい。
少女は俺に気づいたのかこっちに近づいた。
「君、名前は?」
「あ、荒木剛太です」
今思うと、これが沙羅さんとの初めての会話だったのだと思う。