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子供

「さてと……それで、あなたが品川里穂さんでいいかしら? 大分雰囲気違うようだけど」

 沙羅さんはそう言うと、吹き飛ばされた里穂さんが口を拭いながら答えた。

「……随分と乱暴なのね」

「あなたに言われたくないわ、あなたがした事は精々子供2人の誘拐でしょ? それにしては人を洗脳したり、半殺しにしたり、随分と大袈裟じゃないかしら?」

 沙羅さんは腕を組みながらそう言うと里穂さんは、ここに来てから見せてこなかった感情の片鱗を表した。

「子供2人の誘拐……? ふざけないで! あの子達は

私の子供よ!」

「いいえ違うわ、聡太くんは倉沢仁の息子、悠斗くんは人身売買で手に入れた子供、誰1人としてあなたの子供はいないわ」

「ど、どういう事ですか……?」

 俺は立ち上がって沙羅さんに質問する。

気づけば俺の体は、アディスの時のように傷は再生し、痛みは和らいでいた。

「……今回の失踪事件は元々、3年前に起きた事件が原因だった、そうよね」

 沙羅さんが里穂さんにそう言うと、里穂さんは指を鳴らす。

その瞬間、今までおかしな挙動をしていた男の様子が元に戻った。

「こいつが私達家族を奪ったのよ」

「そう……その人が倉沢仁さんだったってわけね」

「つまり……この失踪事件の真相は……復讐……」

 話を聞いて大体分かった。

……沙羅さんの言う通りだった。

「どうして!? こいつは私の息子を奪ったのよ!? それなのに……それなのにどうして私は親になれないの!? どうしてこいつは親でいられるの!?」

 里穂さんの悲痛な叫び声が、悲しいほど静かな夜に響く。

「……それについては解決したはずでは?」

 沙羅さんはそう言うと、里穂さんはギリッと沙羅さんを睨む。

「ふざけないで!! 解決なんてするわけがない!! お金ごときで私の家族を殺した罪がどうして解決するの!?」

 そう叫んだ里穂さんは、仁さんの胸ぐらを掴む。

「あんたが全て悪いのよ! あんたが私の家族を殺すから!!」

 そして仁さんを地面に叩きつけた。

「里穂さん!!」

 流石にこれ以上は不味い。

俺は里穂さんを止めようと立ち上がるが、それを沙羅さんが止めた。

「どうしてですか、あの人は人を殺そうとしているんですよ!?」

「……まだよ」

「は!?」

 沙羅さんはそう答えると、里穂さんの方に指をさした。

「あんたのせいで家族を失って、こんな意味わからない体になって……毎日毎日毎日毎日心に傷がついて、心も感情も何もかもが死んでいくの、それなのにあんたは……」

 そこで里穂さんの手が止まった。

「それなのに……それなのにどうして……私じゃ無くてあんたを……なんで聡太くんは私じゃ無くてあんたを選ぶのよ……」

 そう里穂さんが言った時、沙羅さんが前に出た。

「気づいていたのよね、聡太くんが逃げ出した理由」

 里穂さんは後ろから語りかける、沙羅さんの声に小さく頷く。

「聡太くんを奪って息子同然に育てた……本当の意味で私の子供にしたくて……でもダメだった……」

「聡太くんはそれでも、仁さんを選んだのね」

「……悔しかった、それで別の悠斗の代わりになりそうな子供を見つけて……でもその子にも捨てられた……」

「本当にそうかしらね」

 里穂さんのその言葉に、沙羅さんは後ろを指さして答えた。

「……えっ?」

 里穂さんは驚きながら、沙羅さんの指をさす方向に目を向ける。

俺もその方向を見ると、そこには2人の子供とその子供達を連れて歩く主任の姿があった。

「ずっと私引っ掛かってたの、それはどうして失踪したか、ではなくどうして今、失踪したかにね、その疑問に悠斗くんが答えてくれたわ」

 沙羅さんはそう言うと、悠斗くんを呼ぶ。

「……ごめんなさい」

 悠斗くんは頭を下げて謝る。

「悠斗くん、今回の家出を考えたのはあなたなのよね」

「……どういうこと?」

 里穂さんがそう答えると、悠斗くんはボロボロと涙を流しながら答えた。

「僕本当は要らない子なんじゃないかって、捨てられるんじゃないかって思って……だから黒いコートのおじさんに……」

 それに里穂さんは、悠斗くんの肩を揺らして答える。

「どうしてそんなこと考えるの!? あなたが要らない子な訳ないじゃない!!」

「だって写真には知らない人達が写ってて、僕くらいの子共もいて、だから僕変わりなんじゃないかって、この子共が帰ってきたら要らなくなるんじゃないかって……」

「そんな……そんなわけ無いじゃない、バカ!!」

 里穂さんはそう言うと、悠斗くんを強く抱きしめる。

「私は確かにあなたを変わりと思ってたけど、それは最初だけよ、あなたは悠斗の変わりじゃない、私の……私の大事な子供、写真に写ってる悠斗と関係ない、私の大事な大事な子供なの!!」

「ごめんなさい、ごめんなさいお母さん!」

 そう言うと、2人は強く抱きしめあう。

その姿は本当に母と息子のようだった。

「……つまり、どういう事なんですか?」

 話についていけず、質問すると沙羅さんは溜息を吐いた。

「……結局ただのどこにでもいる子供の悪戯、お母さんの気を引きたくてやった事なのよ」

「え、じゃあ聡太くんが逃げたんじゃなくて、悠斗くんが気を引きたくて逃げたって事なんですか?」

「その通りよ……はぁ、とんでもない悪ガキね」

「まったく人騒がせな……」

 俺がそう呟いた時、隣から殺気を浴びせられた。

「それはあなたでしょうが!」

「いて、いててててて」

 沙羅さんはそう言うと、俺の頬を思いっきりつねる。

あ、やばいこれ、もげる。

「1人勝手に動いて、相手が本気で殺す気だったら死んでたのよ? 反省なさい!」

「ご、ごめんなさい……」

 頬つねりから解放されて、さすりながら答えると目の前には泣きそうになっていた沙羅さんがいた。

「沙羅さん……」

「2度と勝手な真似しないで、いいわね?」

「……はい」

 どうやら俺は沙羅さんを勘違いしていた。

この人は本当は凄く優しい人で、俺よりも誰かを助けたいと思ってる人なんだ。

「……あの自分、勘違いしてました。今まで助けを求められたらただ助けていましたが、本当の助けるってこういう事を言うんですね」

 俺は里穂さんと悠斗くんを見て、自分の考えが如何に浅はかか痛感させられた。

「別に私は助けたつもりはないわ、でもね荒木くん、物事にはどうしてそうなったか、ていう根本の理由、真相っていうのが存在するの、それを知らないで自分勝手に解釈するのは傲慢な事なのよ、いい?」

「……はい、痛感しました」

「分かったならいいわ、それじゃ行くわよ」

 そう言うと沙羅さんは俺を引っ張り、その場から立ち去ろうとする。

その時、後ろから里穂さんの声が聞こえた。

「待ってください! 私は……私の罪は……」

 ……そうか、これで解決、とはいかないよな。

里穂さんは聡太くんをほぼ恐喝の形で仁さんから奪い、人身売買という罪を犯して悠斗くんを手に入れた。

これら全ては立派な犯罪だ。

例え親子の絆で結ばれていようとも、これは揺るぎない事実だ。

「……沙羅さん、あの……」

 俺はせめて悠斗くんだけは何とかしてあげようと口を開いた時、沙羅さんが遮るように答えた。

「知らないわよそんなの、私達の依頼は失踪事件。あとの事は見てないし知らないわ、私達も暇じゃないの、家族の事は家族で勝手に決めて、ほら行くわよ荒木くん」

「え、さ、沙羅さん? そんな感じでいいんですか……?」

 確かに俺は今回の事について何とかしようと思ったが、まさかの無罪放免の発言に困惑してしまった。

しかし主任はそれでいいのであろうか……。

「だそうだ、もう2度とこんな真似するなよ悪ガキども、あとあんたもな」

 どうやら主任もそのつもりで連れてきたらしく、子供達と里穂さんにそう言うと、1人先に帰ってしまった。

「あの、ありがとうございました!!」

 俺は沙羅さんに引っ張られながら、自警団の寮へと戻る。

家族達の笑顔に見送られながら。



「……本当によかったんでしょうか、あれで」

「何がかしら?」

 俺は寮に戻る前、沙羅さんに声をかけた。

「その、仁さんと聡太くんもそうですし、悠斗くんにも家族がいると思うんです……それに里穂さんにだって……。だから……あのままで良かったのかなって」

 もしかしたら仁さんは聡太くんを返してほしいと思っているかもしれない。

聡太くんも帰りたいと思っているかもしれない。

悠斗くんの家族も、もしかしたらまだ悠斗くんを探しているかもしれない。

 だから俺には今回の事、本当の意味での解決だとは思えなかった。

「……そうね、難しい問題だわ、本当の解決は聡太くんをもとの家庭に戻して、悠斗くんを元の家族に戻してあげる事だと思う」

 沙羅さんはそう答えると、その後すぐに首を横に振った。

「でもね、本当の解決は当事者達が決める事、私達は真相を見つける事しか出来ない」

 そう言うと沙羅さんは俺の手首を掴んだ。

「私達には逮捕権がない、それはね、きっと今回の時のような場合の安全装置だと私は思うの」

「安全装置?」

「ええ、私達は警察と違って国に命じられて働いてない、だから私達は1人の人間として働けるの、1人の人間の目線となって物事を判断できるの」

「1人の人間……ですか」

「そうよ、だから忘れないで荒木くん、私達は逮捕するために居るんじゃない、真相を見つけるため、そして1人の人間として寄り添うためにいるの、だからこその自警団よ」

「……はい! 自分やっぱり自警団に入って良かったです!」

「……私も、私もあなたをスカウトできて良かったわ……さっ、しんみりした話はこれで終わりよ、さっさと寝ちゃいなさい」

「はい!」

 俺は優しい笑顔を浮かべる沙羅さんにそう答え、寮へと入り寝る。

明日への希望と、あの家族の本当の幸せを願って、俺は睡魔に体を預けた。



「自警団……か……」

 フードの男は泣き崩れる家族を屋根の上から眺める。

「これは……警戒するべきかもな」

 冷たくも優しい風の流れる夜、フードの男はそう呟くとスマホを取り出し何処かに電話をかける。

「俺だ、ああ、自警団、思った以上にやるな」

 フードの男はそう話すと、ニヤリと笑う。

「だが……まあアレは問題ないだろう」

 そう話すフードの男には、赤い血のような液体が握られている。

「ククク……楽しくなりそうだ」

 そう呟きフードの男は、その赤い血のような液体を空に掲げる。

それは恐ろしいほど黒く、濁って輝いていた。

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