8月 花火色、夏祭り
No.4 花火色、夏祭り
雅先輩と都柴祭りの約束をしてからはや一週間。
今日が都柴祭りだ。俺が付けた条件通り、雅先輩は浴衣を着てきてくれるだろうか...。おっと、言い忘れていたが、俺が付けた条件はピンク色の浴衣を着てくるということである。あんな可愛い先輩が浴衣を着たら無敵だろうと思う。これまた当然なのだが、夏紀は俺が話しかけても、無視する有り様である。兄妹での禁断の恋なんて、俺は望んじゃいない。それに、直哉は夏紀に本気になったらしい。直哉はいいやつだし、兄貴としては直哉に乗り換えてほしいわけだ。
「あと一時間か....。」
俺は自室で呟いた。
雅先輩との約束は都柴学院に5時。あとの一時間で準備をするとしよう。俺は今日のためにかっこいいTシャツを買った。お母さんには彼女と出かけると嘘をついて一万円を貰った。
そのかっこいいTシャツを着て、俺は家を出ようとした。
「お兄ちゃん....。」
後ろから夏紀の声がした。
「何?」
後ろを振り向くと、浴衣姿の夏紀がいた。
「私とお祭り行こうよ?金本先輩なんかと行かないで?」
夏紀は俺の手首を掴んだ。
「夏紀....兄妹は結婚出来ないし、付き合ったりしちゃいけないんだ。」
夏紀は俯いて知ってる...と囁いた。
「お前にはもっといいやつがいるよ。」
俺はそういって夏紀の腕を振りほどき、家を出た。
夏紀はそれをただ黙って見つめていた。
そんなことをしているうちにだいぶ時間がたってしまった。といっても都柴学院まで10分ほどでつく。しかし、浴衣の雅先輩を一人で待たせておいては、男もすたるってもんだ。←すでに手遅れ。
というわけで俺は走って都柴学院に向かった。
でも、雅先輩はすでに来ていた。
「すいません。待ちましたか?」
「ううん。私がちょっと早く来ちゃっただけだから。...浴衣変かな?」
ジーッと見つめる俺に雅先輩は言った。
「いやいや...すごく似合ってるなと思って。」
俺の言葉は嘘ではない。先輩は凄く、いつもに増して可愛かった。
「ありがとう。渚クンもかっこいいと思うよ。」
先輩は少し頬を染めて言った。
「そんなっ...ありがとうございます。」
何だろうか...この初々しいカップルのようなやりとりは...。
少し恥ずかしくなってきた俺は、雅先輩の手を取り、
「そろそろ行きませんか?早くしないといっぱい遊べなくなっちゃいますよ。」
と言った。
「そうだね。行こうか。」
そういって先輩は俺の手を握った。
――――――――――――
何気なく手を繋いでしまった俺だが、話しかけるのもままならないほどに緊張してしまった。
それに比べ、先輩は余裕の表情をしていた。ニコニコと笑い、楽しそうに俺に話しかけてきた。
気がつけば周りは真っ暗で、人もだいぶ増えて盛り上がってきた。
「そろそろ花火かな?」
先輩は言った。
そろそろと言ってもあと一時間ほどある。
「もうちょっとですよ。あと一時間ぐらいです。」
「そっか―。早くみたいなぁ。ちょっと疲れちゃったし。」
先輩は微笑みながら言った。確かに浴衣で歩くのは疲れると思う。少し休めるところはないかと当たりを見回すと、人気のないベンチがあった。
「少しの間、そこで休憩しますか?あそこなら花火もみれますよ。」
「本当?じゃあ行こっか♪」
先輩はぐいぐいと俺を引っ張った。
そんな先輩をいつの間にか愛おしく感じていた。
ベンチに座ると疲れたね―と先輩がいった。
することも特にないので、学校の話をしていた。社会の先生はかっぱみたいだとか、体育の先生は影のボスだとか、なんともないことを二人で笑った。
「そういえばさ、渚クンって好きな人とかいるの?」
先生が突然いった。
「えっ!?せっ先輩はいるんですか?」
慌ててしまった俺はまさか先輩が好きですとは言えず、聞き返してしまった。
「私―?私はどうなのかな?渚クンなんかいい感じかも...なんてね―♪」
俺は先輩の手を掴んだ。本当は言うつもりなんてなかったけど、他のやつに先輩をとられるのだけは嫌だった。
「雅先輩...俺....先輩のことが...」
言うと同時に花火が上がった。
俺と雅先輩はいつの間にかキスをしていた。
どっちからしたかなんて分からない、だけどその時間が幸せで、離したくないと思った。