6月 雨音、初夏の香り
No.2 雨音、初夏の香り
なんやかんやで、俺と雅先輩は一緒に帰ることになった。おっと、説明し忘れていたが、雅先輩と呼ぶことになった。ちなみに俺は、渚くんと呼ばれている。ちょっとカップルみたいになっているわけだ。
しかし、俺と雅先輩がこういう関係(注*名前で呼び合っているだけ)になると文句を付けたがる奴が約一人いる。俺はそんな奴の文句を聞き流しているところだ。
「ふざけんなよなーぎん!!狡い!!うざい!!」
さらりと酷いことをいうコイツは....櫻井少年だ。話の流れからして、直哉以外はいないと思うが....。
「しょうがないだろ?キュートなレディをお守りするのが、スペシャルボーイの役目だから。」
大空に向けて両手を広げながらいう俺を、直哉は睨みつけた。
「なっなんだよ!!」
「じゃあさ。なーぎんの妹紹介してよ?」
はっ?コイツは何をほざいてやがる。
俺の妹は究極のツンデレ野郎だ。(全国のツンデレ好きさんごめんなさい。しかし兄貴はそんな妹に虐められてしまうから嫌なんです。)
「俺の妹なんか彼女にしてどうすんの?」
「俺みたぜ。見た目最高。」
確かに見た目はなかなかだが....。
「お前の好きなタイプじゃ...。」
「紹介しろっ!」
言い終わる前に言われてしまった。
仕方なく俺は直哉を家に迎えることにした。
――――――――――――
「すいません。雅先輩....今日だけ直哉も一緒です。」
雅先輩との待ち合わせ場所、つまり校門について俺が一番にいった言葉はこれだ。
「大丈夫だよ。君が直哉くんね。よろしく。」
俺と二人で帰れないことは悲しんでくれないんすね。まぁ当たり前だが。
「雅先輩よろしくっす。」
直哉は他人受けのいい笑顔で雅先輩に挨拶した。
という感じに会話は進み、美術の話や、学校の先生の話をして時は過ぎていった。
「俺んちここなんですよ。」
俺は先輩に言った。
「じゃあ私の家と近いね。私はそこだよ。 」
先輩が指さしたのは、向かい側のマンションだった。
「いいなぁ。雅先輩と家近いじゃん。」
直哉は何気なくアタックする。
そんなことをしていると、
「あれ...お兄ちゃんに直哉くんそれに金本先輩。何してるの?」
妹が家から出てきた。
「おうっ!!夏紀ちゃん。」
すかさず直哉が声をかける。
夏紀は美術部だから雅先輩のことを知っているらしい。
「直哉くん遊びに来たの?金本先輩は?」
「私は一緒に帰って来ただけだよ。夏紀ちゃんって渚くんの妹だったんだね。知らなかった。」
雅先輩はにっこり笑いながら夏紀にいった。
「そうですよ。それでは先輩さようなら。」
そういって夏紀は、俺と直哉を家へと押し込んだ。
「んっ?私なんか言ったかな?」
そう雅先輩が言ったのが聞こえた。
そして外から雨音がシトシトと聞こえた。
――――――――――――
直哉が帰ってから、俺と夏紀はギクシャクしていた。なんだか夏紀は不機嫌だ。
「なぁ、夏紀?なんかあったか?」
俺は、兄貴らしく聞いた。
「金本先輩...なんで一緒に帰ってたの?それに今日の直哉くん...私のこと好きとか気持ち悪かった。」
気持ち悪かったとか平気な顔していうコイツは、なかなかやる。
確かに直哉は猛烈アタックしていた。まぁ、あっさりスルーされたのは言うまでもないが。
「それになにか不満あった?」
そう聞くと、夏紀は黙った。しばらく静寂が続いた。
「なんで....なんで分かんないかな?」
夏紀が真っ赤な顔をして言った。
「私....私....お兄ちゃんのこと好きなんだよ?」
「へっ!?」
「なのに、なのに...。馬鹿っ!!」
そう言って夏紀は部屋を飛び出した。
夏紀がドアを開けた瞬間爽やかな香りがした。
気がつけば、初夏の足音がした。