75 ボツリヌス菌中毒症状 2000年10月
75 鳥の国から すずがも通信124号 2000年10月
ボツリヌス菌中毒症状
あーっ、立ってる。段ボール箱の中のセイタカシギの若鳥が、ちゃんと自分の足でまっすぐに立ってる。
8月28日に保護区内の竹内ヶ原で拾われてきた鳥です。よくふとって外傷も全くないのに、足がききません。涙が出て目がくちゃくちゃしていたり、頭がふらついたりする神経症状は特に見られませんでしたが、典型的なボツリヌス菌中毒症状と思われました。水を飲ませたり、餌を無理に食べさせたりして、体内の毒素を薄めてやる他に手はありません。ひどいものはすぐ死んでしまうのですが、この鳥は、ぺたんとすわりこんで足があったくうごかせない、翼もきかない、と運動障害はひどいものの、食物を受けつけて消化する力がありました。
せっせと食べさせること、できるだけ羽が汚れないようにすることが世話の要領です。桜エビ、ミルワーム、ワカサギ、ドッグフード、と1日に7回の割餌を続けた結果、体重はしっかり維持して、9月3日ころから「すわり立ち」ができるようになりました。それから3日後の快挙。ようし、もう一息。歩けて飛べるようになれば放してやることができます。がんばれよ。
ボツリヌス菌は嫌気性細菌のひとつで、酸素がない環境(たとえば汚れた水域の底泥など)では常在しているものです。破傷風菌のように、菌そのものが病気を引き起こすわけではありませんが、体外に毒素を出します。何らかの理由でボツリヌス菌が増殖し、大量の毒素が出て、汚染された泥などを食べた無脊椎動物等の体内に毒素がたまることがあります。ボツリヌス菌の毒素で中毒する(中枢神経をやられる)のは温血動物(鳥や哺乳類)だけなのだそうです。
ずいぶん前ですが、たしか大分の「辛子レンコン」という食品でボツリヌス菌中毒が起き、死者が出て大騒ぎになったことがあります。人間に中毒が出るのはめったにないのですが、嫌気的な泥やそこにすむ生物たちとごく近しく生活しているシギ・チドリ類やカモ類、サギ類などの水鳥にとっては、ボツリヌス菌中毒症状(英語ではボツリズムといいます。この方が短くて書きやすいですね)は夏の試練のようなものかも知れません。カナダで昨年問題になりましたが、水鳥の多い地域ではどこでも対策のとりようがない厄介ごとです。
さて、保護区の中で最も広い淡水湿地である「竹内ヶ原」では、淡水性のシギ・チドリに入ってもらうように、昨年に続いてこの秋も思いきって水位を下げています。水を止め、泥底が出て干上がる直前にまた水を入れる、適当に入ったところでまた水をとめて水位を下げる、というけっこう神経を使う操作です。
昨年はかなり大量にボツリズムが出ました。せっかく入ってくれたシギたちを殺したくない、と、あきらめて水位を上げ、シギを入れないようにしました。中毒死の鳥は減りましたが、それでも1カ月以上も跡をひき、ぽつりぽつりと死体が見つかっていました。




