6 鳥の国から オオグンカンドリ 1996年8月
すずがも通信99号 1996年8月 鳥の国から
ずいぶん嘴の長いアオサギだなあ……小雨の降る中、少し離れたところをゆっくりとはばたいて飛んでいる大型の鳥がいます。さっきから気になっているけれど、再整備工事予定地にある樹木の位置をはかっている最中だったので、あまり意識せずにいました。この距離をはかればおしまいーレインコートから双眼鏡をひっぱり出して、視野に入れたとたんに、目に入った長い長い燕尾。「一樹くん、グンカンドリ!」
長い嘴、長い燕尾、長い翼。なんて大きな、優美な飛び方の鳥でしょう。背面は頭をのぞきほとんど黒褐色で、肩羽のところだけ淡色。顔から腹の前部にかけて純白で、後は黒一色に見えます。四半世紀以上も昔に上総一ノ宮で見たコグンカンドリのような胸の帯はなく、両脇から突き出す黒いもようが特徴。うるさくつきまとうカラスやウミネコに追われながら、新浜鴨場の上空をゆっくりと飛び、鈴が浦に出て、大きくひとまわりしてまた鴨場の方に戻ってきました。たっぷり15分くらいは眺めていたのではないでしょうか。「後は片づけますから、先に帰って知らせて上げて」
息を切らせてどさどさと走って行く頭の上を、グンカンドリがなおも飛んでいます。他の人に見せてあげられるかしら。帰りついた観察舎では、案の定、誰も大きなお客様に気づかずにいました。
「グンカンドリがいる、ほら、あれ!」
30分あまりも保護区の上空をゆうゆうと飛び、観察舎の真上や下水処理場のあたりをまわったあげく、大きなお客様は京葉線を越え、東京湾へと出て行きました。いつか雨はやみ、グンカンドリが消えた空はきれいに青く晴れていました。6月25日11時35分~12時すぎのことです。
オオグンカンドリの若鳥。翼開長は2m以上。ハシブトガラスやウミネコの倍はある、という印象は間違いではありませんでした。大きな低気圧も嵐もなかったのに、なんだって東京湾の奥まで入り込んでしまったのでしょうか。海鳥のくせに、水上に降りたり、泳いだりできない変な鳥。水面近くの餌はさらうけれど、他の海鳥を脅して餌を吐かせ、横取りするのが採餌方法という変な鳥。グアムあたりから、呑まず食わずの一週間を過ごして飛んできたのではないかしら。どこかで海の藻屑と消える運命か‥‥‥なんだか困ったような飛び方に思えてなりませんでした。でも、じっさいにはそうではないかもしれませんよ。「一週間あれば行ける。日本を見てこいよ」 先輩に言われた冒険好きな若鳥かもしれません。今ごろは南の海でカツオドリをいじめつけて餌を吐かせているのかも。「おう、俺は東京を見てきたんだぞう」 カツオドリには悪いけれど、そうだといいなあ。
5月中の入院鳥が50羽にならず、しめた、この分だと今年はラッシュがこないかな、と思っていたのですが、甘かった。春の低温で繁殖が遅めだったのでしょう。入院ラッシュは例年と同じくカルガモのはぐれビナとともに6月2日に始まり、着々と続く入院鳥は6月27日には83羽になりました。「この分だと月間記録の91羽をこえるかもね」 われながら縁起でもないことを言ったもの。続く3日間は8羽、10羽、4羽で〆て105羽。29日など、7羽か8羽めあたりから、いっしょに仕事をしている佐藤くんと、「お、またきました!」となかばやけになって笑いあってしまいました。
室内を飛びまわる20羽あまりのヒナ。目下パニック状態の鳥の国です。




