59 コクガン 2000年2月
59 鳥の国から すずがも通信120号 2000年2月
コクガン
ひごろ冷静沈着にみえる「第三の男」こと川上さんが、ばたばたと階段をかけおりてきました。「あれ、コクガンていうのではないでしょうか」
まさにコクガン。まっくろけ。オナガガモの群れにまじって、なんとなく落ちつかない様子でゆっくり泳いでいます。意外なほど小柄。ちょうどカルガモくらいのサイズで、オナガガモの間でもぬきんでて大きくは見えません。首も長くないし、嘴はむしろカモより短くてかわいい。三番瀬では数年前まで一羽が何年か続けて越冬していましたが、保護区内では初記録。若鳥らしく、コクガンの特徴である首の白い模様は、まったくないわけではないけれど、ちょうどこれから羽が伸びる、という感じで、模様のところだけ羽が短く見えます。
変なヤツ、とばかりにオナガガモにかみつかれたり、逆に食いつきかえしたりしていましたが、15分ほどで島影に姿を消してしまいました。1月5日のことです。
さて、今冬はどういうわけか、餌場のカモたちがとつぜん図々しくなりました。もちろん、不忍池や伊豆沼をはじめ、カモが餌をもらっている場所ではどこでもオナガガモがのさばって、乳母車にひかれた、という話にあきれたのももう15年以上も前のこと。でも、うちの鴨たちは割合遠慮深くて、それほど不用心ではなかったはずなのに。
例年のようにカモメの餌付けを始めるのに先立って、導流堤に沿ってのびていたトウネズミモチなどの枝を切り、堤防をこえる高さの樹木がないようにしました。また、餌場の対岸のセイタカアワダチソウのしげみを刈って広めの裸地をつくり、岸の土をけずって勾配をゆるやかにしました。水面をふさぐアシも少し刈りました。導流堤上の草化rはむろんのことです。開けた環境を増やしたわけです。効果はてきめんで、これまで樹木をよけて観察舎の正面ではなく向って右の枝のない方にいたカモメたちが、堂々と正面の堤防上に群れるようになりました。岸の裸地にもカモがすぐ上がりました。
11月なかばごろから、パンを投げるとあたりのユリカモメやオナガガモがどっと集まるようになりました。それが12月に入ると、平気で陸上にも上がるようになったのです。先週まで用心していたのに、というような変わり方。
こうなると、とどまるところがありません。塩浜にあるフジパンの行徳工場からまったく無料でいただいてくるパン。6,7キロほどの袋を持って餌場に下り、ちぎって投げると、どどどっとカモやカモメが集まってきます。3、4個をとっては投げ、ちぎっては投げ、三方向へまいたころには、最初のはきれいに食べつくされています。
あいまに、手に持ったパンをコブハクチョウがねらい、足もとのかけらにカルガモが首をのばし、長靴をつつくものまでいます。いやはや、遠巻きにしているカラスにだけはとられまい、としているのだけれど、気がつくとカラスがちゃっかりパンのかけらをくわえていったりして。あーあどうとりつくろっても、餌付けの是非を問われてしまう状況だなあ。とは言いながら、与えた餌をどやどやと鳥が集まって食べる、という光景には、根元的な満足を誘う何かがありますね。
いかん、いかん。こういうことだから、カモメやドバトがふえるのだ。気をひきしめてかからなくては。でも、人間なんて所詮は感情の動物であり、理性はつけ焼き刃にすぎないんだよねえ。




