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現在進行 鳥の国 1  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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47 鳥の国から   カルガモ軍団生長中   1999年8月

47 鳥の国から   すずがも通信117号 1999年8月


   カルガモ軍団生長中

「えーっ、プール一杯分、ぜんぶ食べちゃったんですか。信じられない」

 水面には、かけらがちょっぴり残るだけ。

 昨日の昼前、バケツ4分の3ほどのアオウキクサを中部屋のプールに入れました。カルガモのヒナたちは大喜びで、びちゃびちゃと食べはじめたものの、食べても食べても重なった分がひろがるだけで、一向に水面が見えません。夜になって、ようやく少しすいてきて、一夜明けると、ふちにたまった分までみごとに食べつくされていました。

 例年のように、野鳥病院はラッシュのまっさかり、のはずですが、今年の入院数はわりあい少なめで、仕事はまだきつくありません。「ヒナを拾わないで」キャンペーンがきいているのかな。例外はカルガモで、はぐれビナや側溝に落ちたものなど、40羽以上が入院。そのうちの19羽は放鳥し、目下の「在庫」は17羽。

 カルガモのヒナが保護されるのは、親鳥がふ化したヒナをつれて巣から水辺へと移動する時です。日齢1~2日。体重は30グラム前後、くちばしは13~14ミリ。この時期のカルガモのヒナほどかわいらしい生きものはちょっといません。つぶらな瞳には気迫がこもり、ふかふかの体にこなまいきな眉線、小さなみずかき。

 順調であればヒナの成長はめざましく、特にくちばしは1日に1~2ミリものびるので、かえりたての愛くるしさは、あっという間に消えてしまいます。3~4週間もたつと、足とくちばしばかり大きなごつごつした姿。毎年報道される大手町のカルガモの移動はだいたいこの時期にあたるので、ちっともかわいくありません。

 4月末から、日本獣医畜産大学2年の学生さんたちが毎週月曜午後にボランティアに来てくれています。カルガモの体重測定と個体識別用の足のカラーテープのつけかえは、彼女たちが大好きな日課作業になりました。しかし、ふんをかける、かみつく、みるみる育つ、数は多い、と、それなりにやっかいな仕事です。最初に育った10羽のグループを放鳥した6月21日など、その日に8羽セットの新規入院があったため、36羽の計測という大仕事になりました。初めのうちは、カルガモがアメ、保護区内での作業がムチのはずだったのに、このごろは、「田植えですか?そっちの方がアメかなあ」

 カルガモ軍団でやっかいなのは、排他性と攻撃性。入院時期と日齢が近いものごとにグループにしますが、同じグループなら実の兄弟のように仲がよいのに、他グループの小さいのがまぎれこんだりすると、いびり殺されてしまいます。

 おまけにがっつき。他の鳥の餌もぜんぶとってしまうので、ワカサギを食べるアマサギや、小エビをやるシギ類などと一緒にできません。本羽がのびる時期に動物性たんぱくを多く与えると、翼がぐにゃりと垂れ下がる異常が出るので、魚食性の鳥とも一緒にできない。どこに、どのように、グループわけして収容するか。パズルよりむずかしい。

 結局、個別禽舎の一室にアマサギ4羽を移し、中部屋の中にも囲いを二つ作って、シギや小さいヒナグループを分けて入れています。

 ヒナが飛べるようになるまでは10週間。7~8週令が野鳥病院からの放鳥時期です。さいごのヒナを放すのはお盆すぎかなあ。それまでは、せっせとイトミミズまじりの側溝のどぶ泥や、浄化池のウキクサをとってきて、健康に育てなくては。床のおがくずや干し草をきれいにとり替えても、3日もたてばもとの泥んこ、びしょびしょ。くさいし。まあ、かわいい連中ではあるので、スタッフもボランティアもため息をつきながら、せっせとどぶ泥をやっています。


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