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現在進行 鳥の国 1  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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46 コアジサシ誘致作戦    1999年6月

46 保護区の中いろいろ現在進行  すずがも通信116号 1999年6月


   コアジサシ誘致作戦

 もうちょっと、あとほんの数日で、3月から始めているプロジェクトのきりがつきます。題して「繁殖場所整備計画」、または「コアジサシ誘致作戦」。

 最初は、もののはずみです。浄化池のトラクターがけが終わってほっとしたところで、私と大黒柱1・2号氏の3人が保護区の様子を見に行ったのが発端。

 観察舎スタッフ(賃金や給料をもらって働いている人間)は、市川市の正規職員である宮島・富田のお二人を入れて、現在のところ11人も(もうじきあと1人バイトさんがふえる予定)います。若いスタッフに囲まれて、おばさんは毎日うきうき。でも実は、保護区や鳥の仕事をフルタイムでやっているのは私たち「臨時職員」の3人だけで、あとは主人を含めて週1~3日程度の勤務という「非常勤職員」です。仕事の中心は、当然ながらフルタイムの人間ということになります。

 観察舎の業務は、野鳥病院の世話があるので365日続きます。このため、それぞれの休日をずらしてあるので、スタッフ全員がそろう日はありません。しょっちゅう顔を合わせて相談やおしゃべりに花を咲かせているものの、みんないっしょに動くことはまずないのです。常勤職員である私たち3人がそろって保護区を見に行くのは、心がけてはいるものの、年に1,2回あるかないかというところ。

 このあたりの草刈りはどうしようか、とか、水の深さはどんなものか、などと相談しながら下北岬まで来た時、話題はおのずとコアジサシのことになりました。なんとかして繁殖してほしい鳥のひとつですが、見通しのきく裸地でしか巣をつくりません。下北岬のそばには貝殻まじりの砂をひろげた場所があり、せまいけれど、ちょっとよい感じ。

 海に面した草原を刈りひろげ、トラクターをかけて裸地を作ったらどうか、という話になりました。難行苦行の連続だった浄化池のトラクターがけが終わったばかり。結局、いっちょやったるか、ということになり、その場で、どこからどこをどのようにするか、作業手順はどうやるか、というところまで、ぱっと結論が出てしまいました。3月2日のことです。

 この時はまだ早春、冬の飢餓の時期の続きです。作戦開始は芽吹きに合わせて3月末、ということになりました。3月26日にいよいよ草刈りスタート。以来、草片づけ、ゴミ拾い、トラクターがけ、樹木移転、石拾い、海水まき、貝殻拾い(行徳漁港から搬入)、根とり、地固め、貝殻まき、と作業が続き、5月5日の貝殻まき終了で、作戦はいちおう区切りがつきました。

 貝殻をまいたり根とりや地固めをしている最中の5月3日、貝でまっ白になった下北岬にコアジサシのひと群れが下りてくれました。10羽はこえていたようで、これだけの数はその後は見られていません。それでも、5月16日にはひとつがいの交尾が見られており、セイタカシギやシロチドリも繁殖しそうな様子です。どうなるかはまだわかりませんけれど、まあ、やるだけのことはやったのだから、あとは結果を待つばかりです。カラスが止まりそうな木が3本残っているので、必要があれば古い海苔網をかけてカラスよけにする予定。地表に手を加える作業は終了しているので、あと2,3の仕上げで作戦はすべて終わりです。

 ゴールデンウィーク中ずっと、ライオンズマンションにお住まいの武田さんが毎日手伝ってくださいました。最後の5月5日には、何と奥様と息子さんまでかりだされて、武田一家が総出で貝殻まきの仕上げです。武田さんは、欠真間三角(観察舎駐車場に面した湿地)のゴミ拾いを続けられたばかりか、観察舎スタッフの富田さんと一緒に堰を作って、開けた水面が見えるような環境を人力だけで作られた方です。作業そのものも、できあがってゆく達成感も大好き、と言っておられました。一人の力ってすごい、と武田さんにお会いするたびに思います。

 さて、下北岬と同時に、竹内ヶ原のアシの芽吹きに合わせたトラクターがけも進めました。放置すれば、夏を待たずに一面の湿原になるところ。開けた水面、開けた泥地、とお念仏のように唱え続けた状態を実現するため、まず縦方向にひととおりかけたあと、横方向にもトラクターを走らせました。トラクターが入りにくい場所は耕運機をかけたので、昨年よりは植物の繁茂をおさえられるはずと思います。

 その竹内ヶ原で、5月16日にオオバンのヒナ4羽が見られました。トラクターをかけていた日も、親鳥は巣にすわって、じっとがまんしていたのでしょう。「やぶにつっこまなくて本当によかった」と、5月初めまでトラクターがけを続けた大黒柱1号氏がほっとしていました。

 そろそろヒナのニュースが聞かれるころ。オオバンだけでもとてもうれしいけれど、さて、この冬から春にかけての管理作業が、どのように生きものたちから採点を受けるのか、これからが楽しみです。



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