43 保護区の中ではこんなことをやっています 1999年4月
43 保護区の中ではこんなことをやっています すずがも通信115号 1999年4月
~~~とんで、とんで、とんで、とんだ、ことで、はまって、はまって、はまって、はまる~~~
さっとメロディーが頭に浮かぶ方は、もう40の山坂を越えていますねっ。なんのこっちゃ、という若い方は無視。
1月8日の冬から春先にかけてのトラクターがけ開始から、2月26日の打ち上げまで、ともかくはまって、はまって、はまって、はまって、はまって‥‥‥
はまる、というのは、トラクターがぬかるみに足をとられて動けなることです。17回、と大黒柱1号の一樹くんが言っていました。「足場板があって、人がいて、エンジンがかかれば出せますね。水につかっていても、基本的には同じ」
今日はトラクターがけ、というと、男衆はももまでくる特長をはき、洗えばすぐ泥が落ちる雨合羽の上衣を着込み、スコップを持って出かける習慣がつきました。様子を見に行く時は、私も同じく雨合羽の上下に身をかため、作業用のぶあついゴム手袋をはめるのが習慣になりました。私はほんの2,3回、それも1時間程度しか手伝っていないのですけれど、基本的に、たいへんです。
足場板は重さが20㎏くらいあるのでしょうか。いちおう私でも運べます。いちばん程度の軽いはまり方だと、ぬかるみにはまった車輪を少し掘り、足場板を1枚あてるだけで脱出できます。重度のものだと、4輪ぜんぶの掘り出しばかりか、トラクター本体の下も掘り、周囲も掘って傾斜をゆるやかにし、ぜんぶの車輪に足場板を当て、更に脱出路にも足場板を敷き、さいごに畔に上がる時には頑丈なアルミブリッジを用いる、という大がかりな作業になります。
がっちりぬかるみに食い込んだ足場板は、私の力では押しても引いてもはずせません。泥がべったりつくと、重くて持ち上げられません。更に、自分の足もぬかるみから一歩一歩引き抜かなくてはなりません。1日のうちに何度もはまった時など、男衆がキレてしまわないのが不思議なくらいです。
作業の終わりが見えてきた時期になって、ようやく「あそこの泥は重いね。スコップにくっついたまま、落ちないんだもの」とか、「いやあ、さすがに最後は自分の足が自力では抜けなくなっちゃって」とか、多少のホンネが出てきました。最大の難所、③系列の13枚目については、もうあそこはアシ原にしておきましょう、と全員の意見が一致しました。
なにゆえに、こんなやっかいな作業をしているのであろうか。「植生のコントロール」と「泥の天地返し」に尽きます。水鳥や水生生物にとって暮らしやすい環境を作るため、どちらも欠かせない条件です。それに、いくら、はまって、はまって、はまっても、手作業でこれだけの仕事をすることに比べたら、トラクターに助けてもらった方がはるかに楽なのです(あたりまえですが)。「第三の男」こと川上さんは、トラちゃんとすっかり仲良くなって、浄化池全体とみなと池棚田をほとんど一人で仕上げてくれました。
いろんなことがわかりました。水がついたままの浄化池に踏み込むのは、とても勇気がいることだったのですが、よほど足場が悪い場所でないかぎり、水がある状態で耕すほうが、ぬかるんで重い泥を耕すよりはるかに楽だということ。トラクターの速度が落ちたり、傾いたりする危険箇所。むろん、はまった時の抜け出し方。むだがなく、仕上がりがきれいな耕し方。トラクターの洗い方。浄化池の水位調整や排水の方法。作業の進め方や時期の選び方。
要するに、よくよく無茶をしてエンジンを故障させてしまわないかぎりは、水があろうとなかろうと、トラクターがはまろうと、作業はできるということがわかって、少し自信がつきました。
3月9日、浄化池の畔で、タマシギの死体が見つかりました。ちょうどタカが羽をむしって食べようとしているところに一樹君が行き逢ったらしく、タカは見られませんでしたが、死体にはまだ暖かみが残っていたそうです。タマシギといえば、淡水湿地の代表格のひとつで、ぜひ呼び戻したい繁殖種です。まだ死体が見つかっただけですけれど、やっぱりうれしい。来てくれたんですもの。いつか、夏の夜にタマシギやヒクイナの声が聞こえる日が戻るかもしれない。
業者委託の水路や畔の手入れも、おなじみの蕪木さんがきれいに終わらせてくれました。手作業による水路の手入れも、大黒柱2号の達ちゃんが中心で、ほぼ終わっています。3月末から4月にかけて、下北岬の近くを中心に、コアジサシの繁殖をめざし、海べりの植生コントロールを試してみる予定です。ついでにカワセミ用の土の崖も手入れしておく予定。「農閑期」なんて言ったの、誰でしょう。
でもねえ、こうしたことぜんぶ、保護区のスタートとほとんど同時に描いていた夢でした。ひとつひとつが実際に積み上げてゆけるなんて、ほんとうに夢みたいなのです。まだまだ、きりもなく夢はあります。みんながキレずについてきてくれるなんて、うれしくて信じられないくらい。もっとうれしいのは、それぞれ、こうしたらもっとよくなるかもしれない、という夢を描くようになってくれていること。その実現にはどうしたらよいかと考えて、行動に移してくれるようになっていること。すごい!
少々はまりまくっている現況です。




