表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現在進行 鳥の国 1  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
34/90

34 浄化池の管理作業   1998年10月

34 保護区の中にいっぱいできた池 現在進行  すずがも通信112号 1998年10月


浄化池の管理作業


「(4)の4、どうだった?」

「もうけっこう入ってます。それから(4)の8にわりあいたまってきました。やっぱり水が抜けるんですね」

「(5)の3段目は?」

「OKです。ちゃんと両方に行ってます」

「(3)はいけそうかなあ?」

「だいぶしっかりしてきました。でも雨が降ったからちょっと遅れるでしょう」

 はて、なんのことでしょうか。大黒柱1号の一樹君と私の会話、はたで聞くとわけがわからなくなってきたようです。

 繁殖時期が終わり、保護区はいよいよ秋の管理作業シーズンを迎えました。新しい浄化池ぜんたいに水を入れてから、初めての作業です。水質浄化のためにごく浅い棚田状にしてある浄化池は、放置しておくとみごとなアシ原に変わってしまいます。水鳥が利用できるように、水の状態もよくしておけるように、開けた水面を保ち、泥を嫌気的にしないために、水を干し、草を刈り、トラクターをかけようというわけです。

 昨年は業者委託した草刈りやトラクターがけ作業を、今年は内部職員でやりたい、とがんばりました。男衆にとっては、その分仕事がふえるわけで、楽な話ではありません。それでも、この植物は残したい、とか、こちらの水を干上げる間、あちらの水は残す、といったこまかい気くばりをしながら作業を進めたかったのです。保護区の管理作業の対象は生きものなのですから、作業効率と工期を優先する業者委託ではどうしてもうまくできない部分があります。

「じゃあ、トラクターがけも草刈りも外に頼まなくていいんだね」

 念を押された時には、正直なところびくびくものでした。でも昨年の状態をみていて、これなら自分たちでもどうにかできるし、思ったとおりにやれた方がずっといい、ということには確信がありました。

 さて、いよいよ思いどおりに作業ができるというわけです。では、いつ、どこから、どのように、なにをやるのか。

 実は、まだきっちりと手順が決まっているわけではないのです。ともかく、2つの系列に別れている新しい浄化池の棚田について、1系列ずつ水を落とし、草を刈り、よく乾かしたところでトラクターをかけ、再び水を入れるというところまでは決めてあり、そのうち1つの系列の作業を終えました。

 水を落とすということは、水生生物にとっては大めいわくです。大半は干上がって死んでしまうでしょう。

「それでもね、その場では死んでしまう魚でも、その種類にとっては干上がった方が得だという場合もあると思うの。水のあるところで生き延びたものが、また水が入った時に開拓者としてどんどんひろがり、外敵が少ないうちに勢力をのばすことができるかもしれないでしょう?」

 冬中何度も水を干したあちこちの池や棚田に、魚や貝やオタマがあふれているのを見ました。干上げることは、彼らにとってもマイナスばかりではないはずです。でも、なにがベストなのかはまだわかりません。毎日毎晩、あれこれ頭を悩ませているわけ。それが冒頭の会話です。

 それぞれの水栓には(2)、(3)、(4)等と番号がついており、新しい浄化の棚田((3)・(4)系列)は、水が流れる順に1枚目、2枚目と呼んでいます。毎日のように水の入り具合、干上がり具合、こちらからあちらに水を分ける様子等の相談をしていると、こういう調子になってしまいます。ちゃんと日本語で話さなくちゃね、と反省しているところ。

 (3)系列の12枚目の棚田は、妙典土地区画整理組合からいただいた蓮田の土を敷き込んだところ。蓮の芽が出たことは前号にもありますが、もうちいさな葉は100枚くらいにもなっています。蓮ばかりか、コナギ、アギナシ、キシュウスズメノヒエ、といったなつかしい妙典の植物がしっかりと生えてきました。どういうわけか、ヒシまであります。妙典でヒシを見たおぼえはないのですけれど。

 棚田全体を干し上げるにあたって、この12枚目だけは水をいれたままにしておく予定です。そのためおとなりのみなと池に水中ポンプをセットして、必要に応じて水を入れるようにしました。この会報がお手もとに届くころには、(3)系列のトラクターがけを終え、水を戻すことができているはずです。そのころには、引き続き(5)系列(上・下池~竹内ヶ原方面)の干上げにとりかかるのか、ちょっと間をおくのか、(2)系列(みなと池方面)の方を先にするのか、といった方針が立っていることでしょう。いずれにせよ、当分は男衆の汗だくの労働が続きます。

「いや、断然この方がいいですよ。だって、残しておきたいところをちゃんと残せるじゃないですか。大丈夫です。大船に乗った気でまかせてください」

 ‥‥‥いいのかなあ。おばさんにできることといったら、様子を見て方針を決め、お城の留守を守って鳥の世話をし、あとは麦茶をわかしたり、泥だらけの作業衣を洗濯することくらいだもんね。

 実は、8月10日に(4)系列の干し上げを始めた後、16日になって、そのうち1ヶ所でバンの巣が見つかりました。おそらくちょうど同じころ(たぶん10日よりもあと)に産卵を始めたものの、水がなくなって、15日ごろに放棄してしまったようです。かわいそうなことをしました。

 それでも、トラクターがけが終わった棚田にはサギが入るようになりました。草でおおわれている時には見られなかった光景です。最終的には、水鳥にとってプラスになるようにしたい。さて、どうなるでしょうか。やっぱり、こわいなあ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ