33 秋の気配 蛇騒動 タヌキの脱走 1998年10月
33 鳥の国から すずがも通信112号 1998年10月
秋の気配
「これ、ツヅレサセコオロギ? アオマツムシ?」
ふつうは迷うはずはないんだけど。ここ何日か、わが家のすぐ前で鳴いているこのお方。リイリイリイリイリイ、と、ツヅレサセコオロギの間合いです。でも、音色はアオマツムシなんだよねえ。アオマツムシならリーッ、リーッともっと長くひっぱってくれなくちゃ、わからないじゃないですか。まあ、気短かなやつか、舌足らずか。地面ではなくエノキの樹上、地面から1mくらいのところで鳴いていることを考えても、アオマツムシだと思うんだけどなあ。それとも、ぜんぜん別の種類なのかな。
秋の虫のコンサートは目下最高潮。演奏家がぜんぶ出そろいました。もっとも、マツムシはまだ確認できていないし、何年か前まではごくふつうに聞かれたウマオイを全く耳にしていません。それでも、数と音量でへきえきしているアオマツムシはともかく、夜の給餌を終えて観察舎からわが家に戻る間、50mほどの通勤距離の間だけで、エンマコオロギ、ツヅレサセコオロギ、ミツカドコオロギ、カンタン、セスジツユムシ、カネタタキなどの演奏をたんのうすることができます。8月末から10月初めまでの6週間ほどの期間は、ほんとうにぜいたくな気分。午後8時ごろに開花するカラスウリの繊細にして豪奢な花を楽しむことができるのも、この時期ならでは。街路灯にカツン、カツンと美しい緑色をしたアオドウガネがぶつかり、足もとではのっそりとヒキガエルが逃げてゆきます。過ぎてゆく夏に、ちょっとほっとしているところ。
蛇騒動
うっとおしい曇り空、高い気温と湿度、無風‥‥‥今年の暑さはこたえました。ぎらぎらとお日さまが照りつけて、まっ青な空が広がるような真夏の日は大好きなのですけれど。
もっとも、暑い暑いとぐんにゃりしながらも、けっこうめまぐるしく過ごしているようで、先週はまだしも、2週間以上前のできごとは「昔」と言いたくなります。1か月以上前になると、はるか「大昔」で、忘却の彼方になってしまいます。その「大昔」「昔」にあったできごと。
7月末のこと、あまり元気がよくなかった新入患者のヒヨドリの巣立ちビナが消えてしまいました。どこかに落ちたか、動けなくなっているのか、と、ずいぶん探したのですが、行方不明のまま。そういえば、室内に放し飼いのスズメの数も足りない。元気にしていることをきちんと確認したスズメが、その2日後に見えなくなりました。ただごとではありません。8月3日、庭籠(にわこ;箱の前面だけが金網になっている鳥かごのこと)の餌をとりかえたあとで、中のメジロがいないのに気づきました。箱の後ろにハツカネズミが出入りする小さい穴があいています。メジロが自力で出られるはずはないのに‥‥‥もしかして、蛇? それにしても、穴の直径は1㎝ちょっとしかないのです。
その2日後、ガムテープでふさいだ穴がまたネズミにかじりあけられ、8月2日に入院したばかりのヒガラが消えていました。同居しているカワラヒワも頭のあたりに傷があり、翼の羽が抜けていました。間違いありません。室内に蛇がいて、次々に入院患者を食べているのです。
この日の担当、大黒柱2号の達ちゃんは、庭籠をぜんぶとりかえて修理し、板で穴をふさいだ上、ネズミが嫌うアルミテープで補強しました。夜に入ってから、ついに下手人がつかまりました。犯人は1歳の青大将。長さはせいぜい70㎝くらい、頭など小指の先ほどしかありません。こんなかわいらしい小さな蛇が小鳥をどうやって呑み込んだのか。それでも、水槽に閉じ込められるとまもなく、もうほとんど原型をとどめていないヒガラを吐き出しました。やる時はやるんだなあ、と感心してしまいました。
スズメ2羽、ヒヨドリ、メジロ、ヒガラ。ぜんぶこの1匹の蛇が呑んだわけではないかもしれません。逃げてゆくもう1匹が見られています。それにしても、金網の目をかんたんにくぐれるような小さな蛇が、羽根がふわふわして大きく見えることを差し引いても、自分の体の太さの2倍くらいものヒガラをあっさり呑むなんて。想像もしませんでした。
この蛇、1週間ほど閉じ込めた後、図書室でさらしものにしました。でも、重石をおくのを忘れたふたを押しあけて、あっさり逃げ出してしまいました。まだ観察舎新館の中にいるかも知れません。
タヌキの脱走
逃亡といえば、8月1日に国府台病院から持ってこられた若いタヌキの逃亡もあざやかでした。ペットケージを組み立てて餌と水を入れ、タヌキを入れて入り口の掛け金を閉め、ちょっとそばを離れたすき、ほんの2分ほどの間に消えてしまいました。ケージの組み立て方が悪くて、壁1面がそっくりはずれたのです。その夜、タヌキはスコップを倒したり、長靴をかじって穴をあけたり、餌をちゃっかり平らげたりした後、窓の網戸を無理に押し開けて逃亡しました。この付近のどこかにいるはずですけれど。
現在進行形としては、雌のカワウと雄のコブハクチョウとの「国境を越えた愛」があります。大きさも色も全く異なる2羽が、首や胸をすりつけて愛情表現している様子のほほえましいこと。
さて、明日はどんなことが起こるでしょうか。なにごともなければいいなあ。
「無事これ名馬」。ひたすら日々の安泰を願っている鳥の国です。




