31 鳥の国から ヒナを拾ったら 1998年8月
31 鳥の国から ヒナを拾ったら すずがも通信111号 1998年8月
万一ヒナを拾われるようなことがあったら、むろん、最初に心がけるべきことは、親鳥に戻すということです。これからの時期(7月末から8月)に保護されることが最も多いヒナはヒヨドリ、次はキジバトかツバメ。ヒヨドリのヒナは鳥にくわしい方でもムクドリと思われることが多いのですが、口の中がピンク(ムクドリは黄色かオレンジ)、声がピイピイと可憐(ムクドリはキャキャキャとうるさいことが多い)、足やくちばしは赤っぽい灰色(ムクドリは黄色からベージュ系)、頭の羽が少々薄い(ハゲムクドリという感じ)等で、慣れれば見分けは簡単です。
ヒヨドリは卵からふ化してわずか11日ほどで巣立ちます。この時にはしっぽの羽などはほとんど伸びていません。こうした状態で、しかも街路樹や庭木など、ごく身近な場所に巣をかけるため、巣立ち時に道路に落ちたり建物に飛び込んだりして保護される例が多いのです。見つけたら、高いところに止まらせてやってください。木の下から放り上げてやれば、落ちる拍子にしっかり枝につかまります。枝で鳴いていさえすれば、親鳥が餌を持って迎えにきてくれます。
たいていはこれで一件落着なのですが、どうしても戻せなくて世話をする場合には、ことヒヨドリに関しては、必ずトマトを与えてください。野鳥のヒナを育てるには、適切な餌をできるだけ多量にやらなくてはなりません。すり餌やドッグフードなどがベースになることが多く、昆虫食の鳥には生き餌のミルワームやビタミン剤、植物質もとるスズメやカワラヒワには粒餌や果物を加えます。ムクドリはドッグフード中心でもけっこううまく育ってくれるのですが、ヒヨドリにすり餌やミルワームばかりを与えていると、ほんの10日ほどで骨や羽に異常が出てきてしまいます。最初は足がちょっと赤くなったり、少し痛がる程度でも、1週間か10日もしないうちに骨が曲がったり、折れたりするほど症状が悪化します。これを抑えてくれるのがトマトです。
わが野鳥病院でも、餌が適正でなくて死なせてしまう鳥が跡を絶ちません。
「ヒヨドリにはトマト」「カルガモのヒナには金魚の浮き餌」 うまく行っている例もあるのですけれどね。死んでしまった鳥の分だけ、次の患者さんたちに心して接することができる‥‥‥割り切ろうと思っても、けっこうつらいこともある。
まあ、いろんなことを考えながら、ひたすら餌を食べさせている鳥の国です。




