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現在進行 鳥の国 1  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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27 みなと池・再整備 現在進行  ポンプ稼働 棚田の構造 水管理   1998年4月 

27 みなと池 再整備 現在進行  すずがも通信109号 1998年4月


   ポンプ稼働

 ポンプが動いています! 大型ポンプはパイプのつぎ目から空気がもれるようになって、1月15日にリタイア。それでも、水中ポンプが2台とも動かせるようになりました。揚水能力が思いのほか高いので、健康な水中ポンプが2,3台あれば、必要な水量確保はできそうです。

 2月21日のこと、ついに新しい浄化池の上から下まで全体に水がまわりました。いやあ、うれしかったですねえ。栓をあけてざあざあ水を流せばよい、というような簡単なものではなかったのですから。

 何よりもまず、ポンプたちにしっかり動いてもらわなくてはいけない。大型ポンプがダウンしたことを別にしても、水位が下がるとポンプが止まる仕組みのレベルスイッチのトラブル(水位が上がってもスイッチが入らない―単純な配線ミスで、すぐに修繕され、きちんと働いています)、水中ポンプのうち1台が全く動かない(抵抗値の関係とかで、2度にわたって電気屋さんから「大丈夫です」と言われたのにー結局のところ、部品を交換して2月17日にようやく使用可能)等々、あいかわらずご難続き。

 それでも、水中ポンプ1台+少々難ありの小型ポンプのおかげで、連続揚水を開始してから34日後、いや、それより「もういつでもポンプを使っていいよ」と最初に言われた昨年の5月9日からかぞえれば、実に9ヶ月半ぶりに、ついに満水にこぎつけたのです

 

   棚田の構造

12月28日に大型ポンプを動かしはじめてから現在に至るまで、わが観察舎の大黒柱1号である石川君が毎日必ずポンプ、水位、水状況のチェックや記録を続け、棚田をつなぐ仕切板を調節し、揚水量をはかり、棚田全体にまんべんなく水が行き渡るようにきめ細かな管理作業を続けています。石川君の休日は大黒柱2号の佐藤君が作業をひきつぎ、水路を掘ったり、土手を築いたり、かたわらで鳥の記録をとる、といった努力を重ねました。

 新しい浄化池には、それぞれ10㎝ずつ低くなってゆく1段につき4面の棚田が3段+4段目1面、計13枚の棚田をそなえた系列がふたつあります。便宜上、東側を③系列、西側を④系列と呼んでいます。だいたい同じ構造のはずなのに、③系列は1枚目から13枚目まで予定したとおりすなおに水が動いて行くのに対し、④系列は1段→2段→3段と土の中をくぐるルートで動く方が多く、端の方の棚田には水がなかなか入りません。そのかわり、土に汚濁物質が吸着されるため、④系列の水質浄化の様子はみごとです。

 

   水管理

 保護区の土の中を通った水は、いつも強酸性に傾きます。pH(水素イオン濃度;7が中性で、数値が低くなるほど酸性が強く、高くなるほどアルカリ性)4とか、3.5とか、火山の火口湖のような強酸性の水がざらに見られます。これは、もともと海の埋立地である保護区が抱えたいわば宿命、というか、個性。海水中に食塩の次に多く含まれるのは硫酸イオン。これから酸素を取り去ると、硫化水素になるし、水を加えると硫酸となります。土中に残った硫酸イオンのなせる業。

 いちばん深い「長靴池」の水はpH5.7~6.1くらいの酸性で、青緑色に澄みきった水は見た目にはとてもきれいですが、生物にとっては少々住みにくい状態。いっぽう、リンや窒素を大量に含んだ雑排水を浅い池に導くと、大発生した藻類のために水は茶色や緑に濁り、どろっとして表面にカスが浮くことがあります。見た目にはいかにも汚らしい感じですが、生物にとってはむしろ住みやすい状態。pHはぐっと上がって、8から10近くになります。

 適度に水が澄んで底まで日光が届き、水草がじゅうぶんに育つ状態をうまく保ってゆきたいのですが、導入する水の質と量(リン、窒素、界面活性剤といった汚濁物質の総量)と、生物による消化、泥による吸着、といった水質浄化の程度をうまくかみ合わせるのが決め手。

 平成9年度の管理用の工事費で水路などを作ってもらうため、上池―竹内ヶ原の湿地の水を干そうとして、2月20日、水位調節用にとりつけたエルボー(直角に曲がった塩ビ管)を外しました。水が順調に流れ出たのはよいのですが、それから毎週のように雨か雪。いつまでたっても底が干上がりません。1週間ほど晴天が続けば工事ができるはずなのですけれど。

 いっぽう、新しい浄化池の報も、生きものが少ないうちにすみやかに干し上げる実験をしておこう、と、満水になった21日から揚水を止めました。しかしこちらも雨に泣かされて、途中でギブアップ。

 

 水量、水質、とあたふたしているうちに、アシの芽がぐんぐんのびはじめました。棚田の2段目から下は、ここかしこにアシが目立ちます。4月のうちにトラクターがけをしたいのですが、うまく干し上げられないかもしれません。思い切って水中に乗り入れるしかないのかなあ。トラクターならできるはずなんだけど。

 春のシギは、田おこしをした泥の間で餌を探すのが大好き。アシのコントロールのためにも、シギが喜ぶ餌場づくりのためにも、夏へ向けての水質維持のためにも、棚田を干してトラクターがけをしたい。いっぽうでは、手間がかかる作業はできるだけ省くべきだし、生きものにとっては迷惑な話だから、干上げなくてすむところは干上げないほうがよい、とも考えます。どうやって水管理をして行くのがいちばんいいのかなあ。

 水をたたえた棚田の光景はみごとです。悩んだり、面白がったり、後もどりしたり。本格的な管理作業へと試行錯誤中。



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