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現在進行 鳥の国 1  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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24 鳥の国から 雪の日・年末年始の餌確保 1998年2月

24 鳥の国から すずがも通信108号 1998年2月


   雪の日

「雪だって。予報では積もりますって」 

 この暖冬に大雪? 青草のままの観察路にはタンポポやオオジシバリまでちらほらと花をつけているというのに。半信半疑でいたのも束の間、予報が出た日から冷え込みがきつくなり、1月8日は寒々とした曇り空でした。ぴったり昼すぎから雪片が舞いはじめました。夕方、ポンプの復旧に出た時にはもう道路にも雪がうすく積もりはじめ、雪化粧した保護区のきれいなことといったら。くちびるに止まるぼたん雪の味は、少しもほこりくさくありません。軍手がぬれてかじかむ手を別にしたら、いつまでも歩いていたいくらい。湊池の棚田は満々と水をたたえ、あぜ道が雪で白く浮き出して見えます。

 新しい浄化池へ上がろうとした時、子猫のような弱々しい声が聞こえてきました。はっとして見上げると、2羽のタカが上空でちょっともつれあい、別れて飛び去るところでした。そのあとへもう1羽飛んできたのは間違いなくノスリ。先の2羽はチュウヒかノスリかはっきりしません。雪をふるいおとすように、翼をすくめてぶるぶるっとふるわせながら、それぞれの方向へ消えてゆきました。


  年末年始の餌確保

 「鳥の国」の年末は例年大忙し。暮れの大掃除はご同様ですが、冬休みやお正月休みに備えなくてはなりません。何のことかおわかりになりますか。餌の確保。ただで手に入る学校給食の残りのパンとか、魚屋さんから出るアラなどの頼みの綱が、この期間は一時補給切れになるのです。餌場に集まるセグロカモメの「出演料」の魚のアラは、1日に20㎏近い消費量。野鳥病院の患者さん用にも1日1~2㎏が必要。正月休みのおよそ2週間分で、必要な備蓄はアラだけでもかるく300㎏以上になります。

 浦安でアナゴの卸商をやっていらっしゃるお店で、アナゴのアラを生ゴミとして出すかわりに、一昨年から観察舎に届けてくださるようになりました。夜中に魚屋さんまで取りに行っていた時とくらべると、搬入の手間ばかりか、一口大にカットする手間も大幅に省けます。ただひとつの難点は、アナゴの入荷そのものに波があるおと。週に200㎏前後が標準ですが、300㎏以上もどさっとくる週が続くかと思うと、10日以上もほとんど入荷がない時もあります。「波なんてもんじゃないですよ」とアナゴ屋さんが笑っておられました。


この暮れは、ありがたいことに塩浜にあるフジパンの工場から、焼き損じのパンをいただくルートの確保ができました。はんぱな量ではありません。なんでも、これも生ゴミとして焼却処分とのこと。餌用にいただきにいって、逆に感謝されてしまいました。アナゴが少々心細かったので、一口大に切って餌場に出すと、カモメたちにも大好評。ただ、生ものがかびないうちに与えようと思うと、つい、餌場に出す量が多くなってしまいます。カモメ類はカラスと同様に他の鳥の繁殖を圧迫するので、ふやしてはいけない鳥。ずっと守ってきた一定量の給餌がぐらつくのはたいへんまずい・・・・・・。


 年の瀬と関係ないけれど、禽舎用のおがくず。一昨年夏に入手経路を確保しました。運搬専門の業者の方にお願いして、新木場の製材工場から運んでいただきます。これも、輸入材の製材がいつまで続くか、という話。現地で製材したものを輸入する方が一般的とのこと。

「鳥の国」から豊かすぎる日本を見る‥‥‥「鳥の国」そのものが豊かすぎる日本の側面(そんなことはないと思うんだけど)‥‥‥ちょっと複雑な心境。


助かったのはフジパンのおかげばかりではありませんでした。月なかばまでにゴミ拾いを終えておこうとして、丸浜川におりたところ、ゴミがたいへん少ないのにびっくりしました。特にライオンズマンションにお住まいの武田さんは、ご自分で市役所の清掃業務課と連絡をとって、欠真間三角のゴミを何十袋も集めてくださっておられます。何年にもわたって丸浜川沿いのゴミを拾ってくださった森田真一郎さんに加えて、塩浜橋のそばのゴミを片づけてくださる方(お名前はわかりません)もおられます。この日、丸浜川沿いのおよそ800mの区間で拾ったゴミは、2人が手で運べる程度の量ですみました。


餌の確保、ゴミ拾い、禽舎の掃除。あいまに忘年会や「初日の出とスズガモを見る会」用のおしるこ・豚汁の仕込がはさまるというてんてこ舞いの年末がすぎて、初日の出は半分だけ見られたとのこと(姿を見せた太陽がすぐに雲に隠れたそうです)。年明けはふつうは少し時間的な余裕ができることになっています。そこで、というか、ところが、というか。年末に仮の修理ができた大型ポンプ。目下、稼働試験をはじめました。ポンプを無事に動かしておくことと、あちこちの水位や揚水量の記録をとることで、ひたすらかけずりまわる毎日。

でも、うれしい。念願の湿地復元実験がいよいよ本格的に始まりました。どの程度の揚水量で、水量維持と水質維持の折り合いがつくか。見極めがつくまでは気がぬけないけれど、はりきっています。

大きく一歩、踏み出した鳥の国です。


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