19 鳥の国から ぜいたく三昧・8月末~9月初め 1997年10月
すずがも通信106号 鳥の国から 1997年10月号
夜の給餌を終えて傷病鳥舎の電気を消し、入口の鍵をかけて外に出ると、おしろいの残り香のようななまめかしい匂いが漂ってきました。カラスウリの花。繊細なレースのような純白の花は昔から大好きですが、こんなに強い香りを放つとは知りませんでした。このあたりに多いキカラスウリと花や葉はそっくりだと思っていたのに、よく見るとキカラスウリは黄白色で花弁が厚く、ずっとやぼったい感じ。香りも青くさく、若々しいというか、洗練されていないというか。
虫のオーケストラは最高潮。8月30日、今年初のマツムシを保護区の中で聞きました。エンマコオロギの澄みきったソロの伴奏に、クサヒバリ、ツヅレサセコオロギ、ミツカドコオロギ、セスジツユムシ、カネタタキ、カンタン等がにぎやか。
一日の仕事を終え、高く上った月を眺め、花の香りをきき、虫の音に囲まれ‥‥‥ついでに、行きあうヒキガエルをちょっとつついてからかう‥‥‥最高のぜいたく、と時々思います。立ち止まってゆっくりしすぎると、蚊に食われますけれど。
もう9月。冬鳥第一号のコガモは6日現在まだ見かけないので、最も遅い記録になりそう。夏中涼しい姿を見せてくれたコアジサシとももうお別れ。妙典の区画整理組合のご好意で今年は無事に繁殖を終えることができたコアジサシたち。来年はどこで巣を作るのでしょうか。
4日から6日にかけて、浄化池周辺の植生調査をしました。植物に弱い私のこと、まさに「清水の舞台から飛び降りる」心境。幸い、千葉県立中央博物館の由良先生に同定をお願いできたこと、また、造成地の植生は単調で、種類数も少ないことから、思いきって「飛び降りた」わけです。いやあ、楽しかった!何しろ、全域にひろがっている最優先種のイネ科植物の種類がわからない。ヌカキビと思うのですけれど。しかたないので、佐藤君に相談して、仮称「ヤヨイちゃん」と呼ぶことにしました。調査票には「ヤ」と書きこんであります。(後に「オオクサキビ」と判明)
春の造成直後には、古代遺跡の発掘現場のようだった新しい浄化池は、ほぼ全域が緑におおわれました。「ヤヨイちゃん」=オオクサキビが大半ですが、キンエノコロの美しい穂も目立ちます。土手の一角など、2m近いアシやセイタカアワダチソウのジャングルと化していました。
いちばんうれしかったのは、妙典から運んだ「昔の蓮田の土」のところです。ちょっと見には変わった様子はありませんが、この一角だけ他と異なり、ケイヌビエが圧倒的に多くなっていました。ケイヌビエは、他の場所では時たま1、2株見かける程度です。昔の妙典には、ケイヌビエだけでなくて、キシュウスズメノヒエやコブナグサがいっぱいあったっけ‥‥‥いちおう、土が違うだけのことはあるんだ、とわかっただけでもうれしい。
渡り途中のノビタキらしい声や、ベニスズメの美しいさえずりを聞いたり、バッタやキジバトを飛び立たせながら、草原をひたすら歩きまわる時間。また、ぜいたくをさせてもらいました。
恒例の「池の草刈り」に参加されたみなさん、ありがとうございました。お盆すぎの暑い盛りの作業ですが、今年は特に暑かった! 初日は無風、高温、高湿度という最悪の条件。それでも23日は6名、24日はのべ10名が汗だくでアシ刈りと脚運びに取り組みました。おかげで、北池の遠い水面が見通せるようになり、上池の観察壁前も湿地が見えるようになりました。アシを刈った跡には、ちゃんとチュウサギやタカブシギが入っています。払った努力に対して生きものたちがこたえてくれるーまさにぜいたくそのもの。
池から運び出したアシはよく干して、秋から冬にかけて観察路の目隠しを作る予定の長靴池近くにストックしてあります。重いアシを背負って池から運び出すのは刈るのにまさるとも劣らない重労働。幸い晴天が続いたので、9月1日の午後、乾いたアシを北池から600mほど離れた長靴池まで軽トラックで運びました。石川・佐藤の観察舎の大黒柱コンビに加えて、カウントのために来あわせた石亀明氏も手伝ってくれたので、たくましい男衆3人がかり。あとは、手が空いた時にすこしずつアシ垣を編んで行けばよいわけです。目隠しが完成して、長靴池のカモや竹内ヶ原のサギたちが、人が観察路を通っても気づかずに落ちついているようになったら、うれしいだろうなあ。
この日、石亀氏にとっては悲喜こもごものできごとがありました。北池の土手でセイタカシギの若鳥の死体が見つかったのです。ていねいに羽をむしって、そのあとものかげに引き込んで食べてあったとのこと。長い脚つきの後半身や嘴は残っていました。羽根を集めている石亀氏、めったにない拾いものに喜んだものの、なにも好きこのんでセイタカシギを食べなくても、と嘆くことしきり。
食べ方から見ると、犯人はオオタカではないか、という話。ちょっと時期が早いなあと思っていました。ところが4日の植生調査で、土砂降りのために上池の観察壁に逃げこんだところ、なんとすぐ前の桜の木にオオタカの若鳥が舞い降りたではありませんか。大柄なのでたぶん雌。細い枝でバランスをとるのに苦労していましたが、近くにいたゴイサギの若鳥をねらって飛び立ち、姿を消しました。
「鳥の国」のぜいたく三昧、いかが?




