15 鳥の国から 裸地作戦 模擬卵作戦 1997年6月
すずがも通信104 1997年6月号 鳥の国から
ずん、ずん、とヨシがのびはじめました。3月に古い茎をひととおり刈った新しい観察路(北池から昨年できた池をまわって百合が浜に出るルート。「浜通り」と呼ぶことになりそう)をのぞいてみてびっくり。4月22日の時点で、ヨシの新芽が腰のあたりまですくすくのびていました。29日に刈り終えたものの、さて、何日でまたひざ上までのびるでしょうか。
みずみずしい青草の生長は見るもみごと。草刈機の扱いがへたな私まで、傷病鳥舎のとなりの草地を刈りました。2,3日からっと晴れれば、上等の干し草が何袋かできます。10日もたてばトラ刈りのあとも消えることでしょう。
それにしても、植物のエネルギーには舌を巻いてしまいます。観察舎前の導流堤は、昨年の再整備工事第一期で、裸地に巣をつくる鳥のために砂を敷きました。秋に草をとりましたが、春の繁殖時期直前にまた草を抜いて、全体が草やぶに変わるのをくい止めようとしています。観察舎のまん前での作業は休館日しかできません。濃くなる緑に焦りつつ、ぎりぎりまで待って、4月14日にスタート。
これが、もう、負けそう。コンクリート上に薄く敷かれた砂地ですから、日照りが続けばカラカラに乾燥し、よい条件のはずはありません。それでも、昨秋から生えたコマツヨイグサやノボロギクなどは50㎝四方のりっぱな株に育っています。何種類もあるイネ科の植物は、それほど広がってはいないのに、根っこがみごと。ひとにぎりサイズのスズメノカタビラでさえ、こまかいひげ根がびっしり生えて、引き抜くと両手にいっぱいになるほどの砂を抱え込んでいるのです。
春になったぞーっ、と、アカザの小さな芽生えが1ヶ所に何千も出ています。条件さえよければ、このうち1、2本は1m近くにのびるでしょう。草かきで砂の表面をざっとかきとっても、5ミリ足らずの芽を一つ一つ除くのはとても無理。サクラ、ノイバラなどの樹木の実生苗もありました。きわめつけはヨシで、まだごく小さいのに、ちゃんと地下茎をのばして持久戦の構えです。植物の根もとにはヨトウムシやコガネムシの幼虫やら、アリの巣もそこここに。ワラジムシ、小さいムカデまで何匹か出てきました。
最初の日、「けっこう不毛の大地ができたじゃない」と草とりの成果を喜んだものの、雨のあとに行ってみると、あっちにも、こっちにも青葉の姿。日本は豊かな土地なんだなあ、と実感しました。放っておいて草や木が生い茂らないような土地は、日本にはほとんどありません。この草葉の一つ一つは、日光の恵みを受けて炭酸同化作用を続け、食物連鎖の基礎をつくり、酸素を放出しています。しかも、雨や風、紫外線から地表をあおる防護物の役目も果たしているのです
草刈り、草とり。草に負けそうになるけれど、植物たちの手ごわさも、ありがたさも身にしみてわかります。こういう作業、私は好きです。
さて、かんじんの鳥のほう‥‥‥カワウだけがんばってくれています。湾岸道路沿いの緑地に200巣近いコロニーができ、巣立ったヒナもだいぶいるようです。ふんでまっ白になったニセアカシアの木が生きのびるかどうか心配でしたが、幸い、どの木もきれいな新芽をふきました。
シギが少なくて悲しいのですけれど、新しい浄化池(この稿を書いている時点ではまだ水が入れられず、砂漠状態)に(たぶん)最初におりてくれたシギが、なんとホウロクシギ(1羽ですが)だったので、感動してしまいました。冬に砂を入れた干潟の部分は鳥に気に入られていて、三番瀬が潮をかぶるころになると、ハマシギやキョウジョシギ、キアシシギなどの小群が入って休んでいます。
セイタカシギは毎日見られ、気をつけて記録してみると、少なくとも5~6つがいはいるようです。巣や卵はまだ見つからず、きまった場所を防衛しているのかどうかも、今ひとつわかりません。
カラスがいっぱいいます。昨年に続き、クレゾール液を仕込んだウズラの卵をチドリの巣に似せてあちこちに置き、カラスが卵を嫌うようにしむけようとしたのですが、第1ラウンドの190個、第2ラウンドの220個とも3日でほぼ全滅してしまいました。中味をきれいに食べられた例はほとんどなかったのですが、味見をして途中で食べやめても、被害に変わりはありません。「卵作戦」はみごとに失敗。
野鳥病院の「大部屋」の中で、チョウゲンボウのつがいが卵を産んで暖めはじめましたが、3週間ほどで放棄してしまいました。もう一度やり直してくれないか、と期待しているところ。
かわって、コサギの「白」と「オレンジ」のペアが卵を抱きはじめました。おがくずの上にコブハクチョウが食べ残したキャベツを集めて巣にしているので、同情した佐藤君が干し草を入れてやると、ぜんぶ使ってりっぱな巣をつくりました。5月7日現在、きれいな空色の卵が5つになり、熱心に交代で暖めています。
藤の花ざかり。初夏の香りを漂わせるスイカズラやノイバラも咲き始め、オオヨシキリが歌っています。生命の躍動そのもの、といった鳥の国。観察舎から見える鳥、できればまっ黒なカワウやカラスでない鳥がもう少し多いとよいのですけれど。




