恐怖を知らない人達のOFF会
『それじゃあ明日の夜7時に集合な』
スマホで最後の書き込みを再確認して俺は門を潜った。
そこに集まっていた人たちが俺の存在に気付いて手を振る。
今日はOFF会というヤツだ。
「ごめん、俺で最後だったか?」
「そうだね、これで出発できるよ」
軽く教えてくれた男に握手して挨拶をする。
そのまま流れで俺は一応用意してきた荷物を集められている場所に置いて集まった人たちに軽く挨拶をして回る。
こんな雰囲気の在る建物の直ぐ側に居るのに誰もがウキウキと楽しそうにしていた。
「ハハッ全くこれからする事分かっているのかね?」
「そう言うなよ、皆楽しみにしてるんだから」
俺達は目の前の在る洋館にこれから肝試しに入るのだ。
今日集まった面々は『霊感0達の集い』と言うグループだ。
事実、ホラー映画や怖い場所に行っても全く恐怖を感じないと自称する者の集まりである。
そういう俺もその1人、子供の頃からお化け屋敷に限らず暗い場所の何が怖いのか全く分からない人間である。
実際にナイフ持って暴れる人間の方が百倍は怖いではないか?
俺は暗い洋館を見上げながら肝試しと言うより探検の好奇心の方が勝っている自分に小さく笑う。
「それじゃあ行きましょうか」
誰かの声で楽しそうな返事が数名から返ってくる。
ウキウキ気分で集まった男女が我先にと洋館の中へ足を踏み入れる。
廃墟となって年数が経過しているのかボロボロになった床板に気を付けながら建物の中へ入り順番にドアを開けて中を探索していく・・・
「怖いというより気持ち悪いわ」
女のその言葉に俺は頷いた。
蜘蛛の巣に積もった埃、肌がベトベトしていくのは確かに気持ち悪い。
水道は間違い無く通っていないから帰るまでは我慢だな、と笑い合いながら洋館の中を探索していく・・・
「ここが最後の部屋だね」
先頭を歩いていた男が二階の最後の部屋のドアを開いた。
そこは大きな鏡が1つ在るだけで何も無い大きな部屋であった。
「おっと、鏡だね。まぁ自分が映って驚くって良くある話だよね」
そう、恐怖と驚かしは違う。
俺だって曲がり角で突然現れた人に驚く事は勿論あるのだ。
だがそれと恐怖は違うだろう、恐怖ってのはもっと内から込み上げてくるものだ。
想像力の欠如とも言われるが人が生きる上で恐怖は欠かせない、生と死が恐怖を感じられるか感じられないかで境が曖昧になるのだ。
恐怖が無い人間は死んでいるのと同じと、このグループのネット書き込みで見た事があり誰もが共感した。
「これで終わりかぁ~」
部屋を天井まで複数の懐中電灯の光が照らして結局何も無かった事に落胆する声が聞こえる。
まぁそうそう何かが起こる事なんてないのが普通だ。
何より心霊現象にしても怖がるからこそ発生すると言う言葉もある。
求めるから与えられる、聖書の言葉ではないが怖い物見たさで期待している俺達にそれが訪れても良いとは思うのだが現実はこんなものである。
「お化けとかより割れた床板の方が怖かったよな」
「全く、でも間違ってないわね」
「また次回も何処か面白い所見つけて集まりましょうよ」
次々に洋館から出て楽しそうに会話を交わす。
次回か・・・
俺は振り返って洋館を見上げる。
あの窓から誰かが手を振っているとか俺が今言えば楽しいかもしれないが・・・
「ばぁっ!」
「キャハハハッ」
懐中電灯の光を下から照らして女を笑わせている男を見て苦笑いを一つして俺は自分の荷物を拾い上げた。
それを切欠に次々と持ってきた荷物を拾い上げて門の方へ向かう面々。
今日のOFF会はこれで終了だ。
結局何も起こらなかったと笑い合いながら俺も門を潜ろうとした時であった。
「あれ?誰かバック忘れてるよ?」
その言葉に皆の足が止まる。
各々の肩や背に在るバックを確認し合い荷物を持っていない者が居ないのを確認し合って荷物を置いていた場所へ戻る・・・
「これ誰のだ?」
「でも待ってよ、見た感じ全員自分の荷物持ってるよ」
「とりあえず、何か身元が分かる物無いか?」
俺の言葉で全員に開ける旨を確認してバックを開く。
そこには着替えに保険証等が入っていた。
「杉山 幸平って書いてるけど居る?」
「いや、と言うか集まり参加のログ確認してみようよ」
「あっそれで行こう」
そう言ってスマホでログを確認しながら順に名前を確認していく・・・
ドクロQ、ハレンチ、すったもんだ、ほまげま、ぬるぬぷ、システム、ガッちゃん、デレデレ、ワイ・・・
「ギヤマン居る?」
「杉山幸平・・・ギヤマンっぽいね」
「でもさ最初に居るのか確認してないから分からないジャンきゃはは」
そう言われ俺はフト門の向こうの洋館を見て気付いた。
最初に居るのか確認していない?
違う、アイツは俺に確かに言った・・・
『ごめん、俺で最後だったか?』
『そうだね、これで出発できるよ』
アイツ・・・誰だ?思い出そうとするが顔が霧の中に在るようにボヤけて思い出せない。
だが確かに俺は最後の一人だと確認されたんだ。
「眠くなってきたし帰ろうよ」
「だね、誰か最後に驚かそうとドッキリしかけたんでしょ?」
「そっか、そうだよね~」
笑い合いながら皆は帰り道を歩いていく・・・
そんな中、俺は洋館の門を再び潜る。
「あれ?帰らないんですか?」
後ろから聞こえた声にゾッとした。
門の向こうに居る彼等の姿が揺らいだのだ。
そして、思い出す。
最初に会ったあの男以外触れた相手が居なかったのだ。
他人にそうそう触れる事は無いかもしれないが俺にはそれが異様に感じて寒気が襲ってきた。
「これが・・・恐怖?」
そう呟いて門の向こうの面々に忘れ物をしたと人声掛けて俺は洋館の中へ1人で足を踏み入れた。
同じ様に次々とドアを開けて中を覗いていく・・・
そして、最後の一番奥の部屋に到着して俺は絶句した。
「鏡が・・・割れてる?」
部屋にあったあの大きな鏡が倒れて割れていたのだ。
俺は割れた鏡の大き目の欠片を一つ拾い上げて目を疑った。
そこには倒れている人が映っていたのだ。
その顔には見覚えがあった。
一緒に洋館に入った人間だ。
「嘘だろ・・・」
角度を変えて更に驚く事になる・・・
この場所には誰も居ないにも関わらず鏡で反射させると一緒に来た面々が倒れていたのだ。
そして、その中に自分の顔が・・・
「っ?!」
そこで俺は飛び起きた!
「オイッ!大丈夫なのか?!」
「杉山 幸平?」
「なっ?!なんで俺の名前を?」
俺は周囲に倒れている人を見渡し今体験した事を話した。
そして、杉山からこの部屋に入って次々に人が鏡の前で倒れていく光景に危険を感じて懐中電灯を投げつけ鏡を割った事を説明された。
「そうか・・・お前が居たから俺は・・・」
「み、皆は?」
「多分もう・・・」
そう言って俺と杉山は洋館から外へ出てスマホで警察を呼んだ。
この事件は集団自殺?と新聞を賑わす事となったが、倒れた面々が謎の脳死状態で原因不明の怪事件と変化していった。
唯一生き残った俺と杉山は必死に事情を説明したが鏡の中に皆の魂が閉じ込められたと話しても信じてもらえず数日後には解放された。
精神病も疑われたが二人して全く同じ事を話し、その他の反応が正常だった為に疑いは晴れた。
その後、俺と杉山は会うことも無くあの日の事を忘れて日常へ戻っていくのであった・・・
俺は気付かない、杉山が洋館から出た時に自分の荷物を回収しなかった事に・・・
それに気付ければ、もしかしたらこちら側が本当は・・・
完