96:アルフォンス(アルフレッド)の迷宮探索(2)
続いてアルフレッド視点になります。
オレ、<レイ皇国王弟>アルフォンス・レイこと、<A級冒険者>のアルフレッド・ブラッドレイは、湖の中に沈みながら、たったいま受けた攻撃とこれからの攻防を考えて、興奮していた。
(やべぇ、すげえ楽しい。オレが防御するのに精いっぱいかよ)
勇者に殴られた腕を確かめる。痣にはなっているが、骨までは折れていないようだ。
湖底まで足が着くと同時に、一気に足に魔素を集め強化する。このまま脚力で一気に地上まで飛び出し、攻勢に出ようとしたそのとき・・・・目を疑う光景が、目に入った。
勇者が、湖の中をオレめがけて勢いよく泳いできたのだ。
(まさか湖まで、追撃に来るとはなぁ・・・!)
思わず笑いながら、勇者のその意気にこたえて、このまま水の中で臨戦態勢で出迎えることにした。湖の中だろうとオレの身体強化魔法なら、地上と同等に剣を振れるからな。・・・・が、勇者の様子が明らかにおかしい。
さっき見せたゾクゾクするような殺気をまとっていない。勢いよく泳ぎながらも、何やら左腕を指差してアピールしてくる。
『あ“あ!?』
その不思議な光景から、ある可能性に気付いて、すげぇイラついた。せっかくの楽しい戦闘は・・・・・どうやら隷属の腕輪の<命令>に邪魔されたらしい。
(<隷属の腕輪>を早めになんとかしねぇと、勇者と闘うのにも水を差されんのかよ)
湖の中で音にならない舌打ちする。勇者が隷属されている現状は、レイ皇国としては早く解決しなきゃいけない問題だが、オレ自身でも早くどうにかしたい理由ができちまった。
今朝、<通信用魔道具>で会話した、オレの兄・<レイ皇国皇帝>の言葉を思い返す。
『アル、君は王弟としての利益をほとんど享受していないから、今まで冒険者になろうが何をしようが止めなかったがね。勇者や聖女が召喚されるのは、世界の危機が訪れている証だ。
それなのに、五大国のどこからも勇者を召喚したという話を聞かない。どころか、見つけた勇者が<隷属の腕輪>をはめているというじゃないか。
<隷属の腕輪>の正式な解除方法は<隷属の首輪>と同じだ。<隷属>の主登録をしている者が自ら解除する呪文を唱えるか、主登録している者がすべて死ぬしかない。
そして<隷属の腕輪>は、この世に三つと存在しないのだ。持っているのは・・・・我が国とルナリア帝国の王家だけだ。
君なら・・・この意味が分かるだろう?
最悪、五大国随一の強国・ルナリア帝国に我が国から戦争を仕掛けなければならない、ということだ。
なぜ勇者が召喚されたのか断定は出来ん。
だが、ここ最近のルナリア帝国への食物の輸出量の増加を考えると・・・女神の加護を失っている・・・帝王に<帝王たる資格がない者が居座っている>可能性がある。
五大国同士が戦争をするのは、女神の怒りをかうから戦争は仕掛けられないが・・・・<王たる資格がない者が居座っている>場合は別だ。
むしろ<正当な王家の血筋を継ぐ者>を旗印に、他の国家や国内の貴族家が倒さねばならないのだ。世界の危機を救うためにな。
我が国が戦争を仕掛ける時に旗印になるのは、王弟であり・・・そして、ルナリア帝国前帝王の<正式な孫>である君になる。
兄としては君の自由に生きたい気持ちを尊重したい。だが、これから探るルナリア帝国の状況によっては、王として君に近々、命令を下すことになることを覚悟してほしい』
オレの母は、レイ皇国の前王と恋仲になった冒険者だが、ルナリア帝国の前帝王が結婚前に恋仲になっていた平民との間に作った庶子でもあった。
政争とかなにかのせいで、いまは王族どころか貴族令嬢ですらないし、その存在自体ないものとして扱われているが、前帝王が、各国の王家の書物に正式に登録を要請した、歴とした<ルナリア帝国前帝王の直系の血筋>だ。
勇者と共に湖からあがる。ずぶ濡れになったオレと勇者のためだろう。フレドが焚火をおこしていた。
勇者とベルタとかいう女、そしてフレドとオレでその火を囲む。
フレドがオレの採ってきた果実<メレニ>を美味そうに食っているのを見ながら、こんな風に迷宮で火を囲う日々の終わりを感じていた。
(仕方ねぇか。冒険者を続けても勇者より強いヤツはいねぇだろうしな。それにフレドも来春には、魔法騎士団に入団するしなぁ)
色々思うところはあるが、よく考えるとフレドが魔法騎士団に入団するなら、むしろオレも冒険者を辞めた方が都合が良いことに気付く。むしろ冒険者を続ける理由がねぇ。
そうしてオレが今後の算段をつけ、そろそろ寝る時間になって・・・・・・・事件が起きた。