32:鍛錬2日目・アルフォンス(アルフレッド)は、迷宮都市が待ち遠しい(1)
お待たせしました。
今回はアルフレッド(アルフォンス)視点です。
「・・・・・っ!!」
何度かあいつの唇に角度を変えて、口づけたオレは少しだけ唇をはなし、あいつが垂らした唾液を丁寧に舐めとって呑み込む。
「またツバがたれたら、これから上官のオレがこうして舐めとってやろうな?」
唇を離し、舌を名残惜し気にあいつの唇から抜いてオレがそう言うと、あいつはこくんっと頷いた。
オレはもちろんその返事に上機嫌になった。
「小便行きてぇんだったな?小屋の中にあるから、行ってこい。
・・・・魔石は、その後一緒にとりゃいいだろ?」
そうして、視界のすみにある小屋を指さしてやる。
この森にわざわざやってきたのは、小屋にある便所のためだ。
紳士なオレはあいつが小便を我慢しているのを忘れちゃいないからな。
ついでにあいつがさっき<魔石>がどうこう言っていたのを思い出し、付け加えてやるのも忘れない。
オレが小屋を指し示してやると、とろんと潤んでいた瞳に力が宿るのがわかる。
そして、次の瞬間、真っ赤な顔をして白馬から降り、すごい速度で駆けだした。
「速ぇな。・・・・・・小便、そんなに行きたかったのかよ」
思わず、笑いが漏れる。
なんだかすげぇ楽しくて仕方がない。
強い魔獣と戦ったわけでも、あいつと共闘したわけででもないっつーのに。
あいつとの口づけがそうさせたのかと思うと不思議な気分だ。
あいつは準成人もしていないガキで、男だというのに・・・・・・。
そうして今日の出来事を思い出す。
・・・・・・あいつの寝起き姿が嫌に目に焼き付いたこととか、ジンとかいううぜぇ男とアイオスと話したこと、あいつが・・・・・・オレを<アル>と呼んだことを・・・・・・だ。
あとは白馬に乗せて、城を駆け出して、<サリム>の屋台で買った適当な食い物を朝食として、あいつと一緒に食べた。
いま思えば、あいつは白馬に乗ってからというものの、ことごとくオレの言葉を無視するか、生返事をしていた。
だからか知らねぇが、さっきまでオレは若干病気かと思うほど、胸がしめつけられて苦しかったんだ。
アイオスの言葉を思い出して・・・・・・。
「昨日の夕方、フレデリック様は<元気がなさそうな>様子でしたので・・・・・・」
(オレと会っていたのに、<元気がなさそう>・・・・・・・つまりオレといるのは嫌だったというのか?)
だが、そんな疑念もいまじゃそんなのただの邪推でしかなかった・・・・・・と思えるから不思議なものだ。
朝から今までの態度は、ただただ小便を我慢していたのが原因なだけな気がしてくるし、昨日の夕方の様子もそんなガキみたいな理由で、元気がなかったんだろうと思える。
・・・・・・・いや、実際あいつはまだガキだった。
自嘲するように「はっ」と鼻で笑いつつ、オレは右手に握っていた剣を鞘に戻した。
あいつが入った小屋にはいま<人の気配>はあいつ以外ないし、魔獣がここに来る心配もいまのところない。
D級やC級の魔獣さえいるこの<深縁の森>は、レイ皇国にとって重要な場所だ。
定期的に駆除をしないとスタンピードとよばれる魔獣が人の住む地域まであふれる現象もおこるし、何より資源となる魔石が確保しやすい場所でもある。
だから、領地軍や冒険者が、この森で狩りをしやすいようにこういった小屋を一定間隔で配置しているのだ。
B級以上の魔獣にはさすがに効果はないないが、周りに<魔獣除けの魔道具>も配置しているので、ここは<割と安全な休憩所>ってわけだ。
だから剣を鞘に戻しても、問題ない。
まぁ、襲撃があったとしても、あいつなら1人で対処できるだろうが・・・・・・。
(・・・・・・それにしても・・・・・・あいつの唇は想像以上に柔らかかったな・・・・・・・)
剣を鞘に戻すと高ぶっていた気持ちが幾分か落ち着き、かえってさっきまでの感触が生々しく思い出された。
顔がにやけるのが止まらない。
朝、厩舎であいつが目を閉じたとき、思わず触った唇の感触・・・・・・口づけたら、どんなもんかと思っていたが・・・・・・・。
オレが思考にふけっていると、隣から抗議するような声で「ヒヒン」と白馬が鳴いた。
馬の癖に、冷たい視線を投げかけてくるのが分かる。
こいつは賢いからオレがあいつにキスしたのを、「子どもにあんなことして、信じらんない!」とでも言っているんだろう。
・・・・・・オレだって、自分の行動が信じられねぇ・・・っつーの。
でも、あいつを前にすると色々しちまうのがとめられねぇんだから、仕方がないだろう?
特に人の目がないと・・・ヤバい・・・・・・。
そもそも・・・・小便くらいで街道から少し離れた小屋まで、実は連れてくる必要なんかなかったんだ。なんなら道の端ででもすりゃいいんだから。
だけど・・・・・・・。
(そんな姿を万が一、オレ以外の誰かに見られたら最悪じゃねぇか!)
そう思うと、体が勝手に動いていた。
そんな一つ一つの行動をとってもそうなんだ。
それに、あいつの唇に触れて、あいつのツバを舐めとったときのあいつの表情・・・・・・あれは・・・・・。
「・・・・・・オレとこういうことするのあいつも満更じゃねぇって顔だっただろう?」
「ヒヒン」となおも白馬が抗議してくるが、オレは気にしないことにした。
この国の、レイ皇国の貞淑さを重んじる貴族令嬢にそんなことやったら、まぁアウトだけど、あいつは貴族令嬢じゃない。貴族令息だ。
それにこの講師をしている間は、オレは上官で、あいつは部下なのだ。
さらに、騎士で男なら娼館くらい行くものだ。
これから娼婦にキスをすることだって、それ以上のことをすることだってあるんだ。
だったら・・・・・・上官のオレがして何が悪いんだ。
オレがあいつのことを気に入っているように、あいつもオレのことを気に入っているんなら、<ガキだとか男だとか>もうどうでもいいじゃねぇか。
愛おし気にあいつが入った小屋を眺めながら、オレは上機嫌で白馬の背中を叩いてやった。
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