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悪役令嬢は男装して、魔法騎士として生きる。  作者: 金田のん
第4章 入団までの1年間(3)、グラナダ迷宮と蓋をした私の思い

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102:チェスターは、勇者に興味がない(4)

<勇者>や<聖女>は様々な言い伝えは残っているが、この世界の人々を救うために女神・カトレアが遣わせた存在だといわれている。

そのためか、見たこともない魔法を操ることも多く、その実力は鍛錬により召喚当初より伸びる。だが、鍛錬をせずとも、最初からこの世界の最強の一角と同等レベルの実力を保持していることも多い。


そして、この目の前の<勇者>も召喚から間もないにもかかわらず、総合力ではすでにこの世界のA級冒険者や軍の隊長クラスと同等かそれ以上の実力はあるといわれていた。


もちろん私から見ればずぶの素人だから、多少甘い部分はある。・・・・・・・だが、こんな短時間でこの勇者を負かすことなんて、それこそS級冒険者や軍の団長クラスでもなかなか難しいはずである。


走りながら、勇者の隣に居座る<レティシア・フランシス>を観察すると・・・・その存在感が増したのが、分かった。


彼女の周りに魔素が集結している。これは大規模魔法の行使前によくある現象だ。



(まずい・・・!)



何がまずいのか自分でも分からない。魔法無効化の指輪をしているのだから魔法を放ったところで問題ないはずだ。

・・・・しかし、それを認識しているにも関わらず、私の中の第六感は警鐘を鳴らし続ける。


・・・・私はいま思い返しても、この時の自分の咄嗟の判断を褒めたい。


<パチン>と指を鳴らし、固有魔法を解除する。私は今日、二回変身をしている。だからいま固有魔法を解除すると、本来の私の姿ではなく、一つ前に変身していた<羽のついた虫>の姿になるのだ。



「フレア・ボム」


「・・・っっ!!」



虫の姿になったと同時に凄まじい魔力の渦がこちらめがけてやってきた・・・・・それは、ルナリア帝国で代々の影を束ねるバシュラール侯爵家当主である私でも初めてみる魔法だった。


灼熱の魔法。


虫に変身したことが幸いした。熱風がその場を襲い、私の服を影も形もなく溶かしたが、私自身はその身の軽さからその魔法が到達する前に風によって吹き飛ばされ、その対象範囲からわずかに外れた。


一部身体を損傷したものの・・・・あの魔法をくらって、一命をとりとめたのだ。


土にまみれて、虫のまま木の中へと落ちた。先ほど私がいた場所に魔法無効化の魔道具が姿を変えないまま<カラン>と地面に落ちるのを呆然と見やる。


装備していなくても、その指輪があれば魔法は無効化される・・・・はずなのだが、レティシア・フランシスの魔法は問題なく発動していた。



(あの指輪は・・・<ファイア・ストーム>も無効化するものだ・・・・・・)



勇者を数分もかからず無力化し、見知らぬ高威力魔法を放つ。そんな女が、ルナリア帝国の情報網をもかいくぐり、誰にも知られずに存在していたことに身震いする。


勇者が驚愕の表情を浮かべ、レティシア・フランシスが無表情で話し出すのを見ながら・・・・・・・・私は意識を失った。


意識を失いながらも私・<チェスター・バシュラール>は、思考していた。


まず思ったのは、簡単な任務だと決めつけたことが、今日の入浴予定をダメにしてしまったという後悔だった。


そうして次に思ったのは、意識を取り戻すころには<勇者>は、あの女<レティシア・フランシス>に殺されているであろうということだった。


勇者が死んだということは、<勇者にフレデリック・フランシスを暗殺させる>という任務が失敗に終わったということを意味していた。

私が侯爵家当主になってから・・・3番隊隊長になってから初めての任務失敗だ。


その事実は単なる任務失敗よりも重い。



(勇者を死なせたとすれば、隊長解任どころじゃなく・・・・陛下に処刑を言い渡されるだろうな。なにせ勇者は<女神の子ども>と言われるほど神聖な存在だ。ふむ・・・処刑は仕方がない。・・・・が、汚い場所で死ぬのだけは避けたいところだな・・・・)



だが、それも無理な話だろう。自分の唯一の希望も砕け散り、諦念の感情と共にそう思ったところで、私はふと疑問がわいてきた。


「女神の子どもと言われている勇者が、なぜルナリア帝国皇帝に隷属の腕輪をはめさせられ、<奴隷>になっているのか」ということに。


帝国の影は、自身の思考を持たない様に育てられる。私自身が言うのもなんだが、それこそ洗脳のように機械のように、帝王の命令にしたがう人形のような存在になることが至高とされる。


私ももちろん同様に育てられた。だから今まで「清潔」以外のことに興味を持たず、帝王の言葉や言動に疑問など一度も持ったことなどなかった。


それが・・・・・自分が死ぬことが決まったも同然となり、その機械としての人生を終えることが分かったことで・・・・・私の中で明確に何かが変わった。


頭の中にあった靄が晴れ・・・・・・自分の見たものを自分の考えで思考しだす。そうして初めて気づく。

普通の人なら当然のように感じるであろうことを。



「勇者が隷属化されていることが・・・・おかしい」ということに。



チェスターは、頭の靄が晴れたのと同時に自身の意識が急速に浮上するのを感じた。虫の姿では一苦労だったが、指が動くのを確認するとそのまま<パチン>と指鳴らす。


虫の姿から元の姿に・・・・・・白髪に瑠璃色の瞳という本来の姿へ急速に戻っていくのを感じる。

そうして、本来の姿に戻った私の視界には・・・・・・・・・・・



「・・・・・はぁっ?!」



死んでいるはずの勇者が間抜け(づら)をさらしていた。



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