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達成された地獄3

作者: ヤワラカイ

達成された地獄を書きました。

「満ち足りている」

 聖職者が聖職者の格好をして、満面の笑みでそう言いながら、両手を広げる。聖職者は雲の切れ端から落ちてくる緑色の光を全身で受け止めていた。聖職者の後ろには小さな小屋がある。聖職者のいる山の頂上から見えるのは、深い緑色に生い茂った山々だった。

聖職者は満ち足りた表情で深呼吸をして小屋へと歩いていく。

聖職者が小屋の中へと入ると台所に置かれた小さな鍋がグツグツと音を立てていた。聖職者は慌てた様子で手袋をはめて小さな鍋を持ち上げる。蓋をされている小さな鍋から中に入っているコーンスープが溢れそうではあったが、聖職者が急いで持ち上げたおかげでコーンスープの沸騰はおさまっていった。

聖職者は火を止めて小さな鍋を台所に置く。聖職者が次に向かったのは丁寧に掃除されている食器棚で、食器棚の上段の戸を開けて底の深い皿を取り出す。さらに敷物になる布を手にして、小屋の外へと出ていった。

風化した机と小さな椅子が小屋の外にはある。聖職者は風化した机の上に敷物とお皿を置いて小屋の中へと戻っていき、小さな鍋とスプーンとお玉を手に持って帰ってきた。小さな鍋を敷物の上に置いてお玉を小さな鍋に入れるとお皿やスプーンを机の上に綺麗に並べる。

聖職者のどんな行動も山々に囲まれた大自然の営みの一部になっていると感じさせるぐらいに聖職者の挙動は洗練され落ち着いていた。

聖職者は椅子に座って両手を胸の前で組んで食事の前の祈りを捧げはじめる。

鳥の声が遠くから聞こえ、聖職者の周りは静けさに包まれていた。

聖職者が祈りを終えてお玉を持って黄色のコーンスープをお皿に注ぐ。コーンスープは緑の光に照らされながらお皿へと渦を巻いて入っていった。コーンスープがお皿に満ちると、聖職者はもう一度両手を組んで祈りを捧げた。

聖職者はゆっくりと目を開けてコーンスープをスプーンで掬う。コーンスープのとろみの中にスプーンが入っていきスプーンを持ち上げるとコーンスープの表面にスプーンの中で緑の光が映し出される。聖職者はコーンスープを音も立てずに飲んでいきやがお皿に入っていたコーンスープを飲み干した。

小さな鍋にはコーンスープがまだ残っている。

聖職者は椅子から立ち上がってその場から少し歩きボロボロの木によって造られた階段を下っていく。

少しだけ広い空間が階段を下りた先にはある。

少年が四つん這いになりうずくまっている彫刻がそこにはそこら中に置かれていた。少年の彫刻の大きさは大小様々で本物の少年ぐらいの大きさのものもある。少年の彫刻の表面は濃い緑色で全身が覆われていた。顔は深くうずくまっているためにどれも見ることはできない。

聖職者は満足げに階段を下り終わり少し広い場所を進んでいった。そして、生きている少年が聖職者の向かう先に立っていた。少年は満足げな表情で上半身裸のまま待っている。聖職者は少年に近寄っていき優しく囁いた。

「コーンスープを飲まないかい? 」

 少年は満ち足りた表情で答える。

「さっきたくさん食べたので本当に幸せな気分です」

 聖職者は少年の言葉を聞いて優しく頷き、少年と共にゆっくりと歩いていった。聖職者が少年に尋ねた。

「今はどんな気持ちなんだい? 」

 少年は答える。

「お腹いっぱいの幸せな気持ちと、達成した満足感が心の中で溢れています」

 二人は会話を続けながら前へと進み続けた。その間に二人がいくつもの少年の彫刻を通り過ぎても二人は少年の彫刻を気にする様子はない。うずくまった少年の彫刻は山の自然に溶け込むようにこの場所に点在している。鳥の鳴き声や風が木々を揺らす音が山々から聞こえてくるのに、この場所では虫も鳥も見つけられない。聖職者と少年がいるところには生命の予感があるだけだった。

 二人は足を止める。聖職者は優しそうに言った。

「じゃあここで四つん這いになって」

 少年は満足げに返事をする。

「はい」

 聖職者は少年が四つん這いになっているのを確認してその場からしばらく離れる。聖職者が戻ってきた時には聖職者は畳まれたブルーシートを抱えていた。少年は首を上げて真っすぐと前を見ながら四つん這いのまま満足げな顔で待っている。聖職者は少年にブルーシートを被せるとブルーシート越しに少年の耳元で囁いた。

「君は成し遂げたんだ」

 聖職者の手が少年の背中をブルーシート越しに優しく撫でる。聖職者は山の頂上に階段を上って戻り、小さな鍋のコーンスープの残りを飲もうとした。コーンスープが生ぬるくなっていても、お腹を満たせることに感謝しながらコーンスープをお皿に注ぐ。聖職者はコーンスープの表面に反射している緑色の光ごとコーンスープを飲み干してお腹を一杯にした。

祈りを食後に捧げて食器を小屋へと片付け終わり、聖職者は蜘蛛の切れ端から差し込む緑色の光を椅子に座って見つめている。聖職者の表情は幸せそうだった。

 風がゆっくりとした時間を刻み、リズムが一定に繰り返される。

 聖職者はブルーシートの元へと椅子から立ち上がって向かった。聖職者がブルーシートを掴み、ブルーシートの下を眺める。少年がブルーシートの下で四つん這いのまま小刻みに震え、首から上はより強く痙攣していた。聖職者が笑顔のままその様子を見ていると少年の痙攣はより強くビクついた。

聖職者はブルーシートを被せなおして少年の背中をブルーシート越しに優しく撫でながら言葉を漏らす。

「満ち足りているよ」

 聖職者はその場を離れてしばらく歩く。聖職者が向かう先には別の少年が上半身裸で不安げな表情をして立っていた。聖職者は少年の横に立って少年の両肩を抱いて少年の耳元で囁く。

「小屋へ行こうか」

 少年は震えながら不安げな表情で頷いた。聖職者は少年の肩を抱いたまま二人は小屋へと向かっていく。その間にいくつもの少年の彫刻を通り過ぎるが、二人はうずくまった少年の彫刻を気にする様子がなかった。聖職者と少年は階段を上がり山の頂上にある小屋へと入っていく。二人が小屋の中へと入ると、聖職者は小屋の扉を閉めた。


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