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ルート・ア・ノット  作者: 縫目いとな
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忘却の彼方はここにある?

いろいろ通してわけわかめ




 ――暖かい……。全身を覆う布らしき物と、部屋の生温い空気に包まれ、目を覚ましたばかりにも関わらず眠気を誘われる。

 近くに置かれたストーブがポスポスと音を立てている。

 弾むベッドに横たわっているのか、動く度に身体が少し中に浮く。

 それから段々と息が苦しくなり、布が顔全体を覆っていたことに気がつき引き剥がそうともがきつつ、こもった声で叫ぶうちに誰かが扉強く開け放った。

 前すら見えない状態の人間にとっては、安堵どころか不信感の盛り合わせだった。

 入室した人物は何も言わず肩に手を掛け、子供をあやすように擦り始めた。布越しで良くは分からないけれど、武骨な男の手とは違う。同時に看病する美少女や、お姉さん的な人物の図が頭に浮かんだが、その後(いたち)の毛皮を首に巻いた歯黒の女盗賊が脳内を過り、瞬時に恐怖の意識へ引き戻された。

 もごもごと言いづらくも、誰なのかと訊きだそうと口を開くと。


「動いてる……?死後硬直かな」


 と、絶賛窒息数秒前の生者に対して、既に逝った設定を作る声の主に痺れを切らし――

 侮辱に続き顔の布を外され一瞬、混乱に陥る。そこで初めて包帯を巻かれていたことを知る。目一杯に眼球を動かし、状況の把握をしようと起き上がると、その眼前の少女は頬を両手で挟み眼の奥をじっとみつめる。

 ――少女?

 その少女は薔薇の花弁を想わせる紅い瞳で、此方を見据えて何か考え込んでいる様子だった。

 想像した白衣の天使や盗賊ではなかった。純粋な黒髪が深紅の瞳を際立たせた、童顔の少女。彼女は呼吸が出来るように包帯を巻き直すと、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 結果としては何一つ言葉を発する隙は無かったものの、ここには木乃伊男を殺す気はない(だろう)少女がいる。という使いどころが見つからない情報を得た。

 包帯を外された間のみではあったが、部屋の形と大まかな物の配置もだ。

 今のところ生かすも殺すも彼女の主柱だが、人間はどうも閉じ込められた空間を好かない。脱出とはいかないが、手や足の自由は効く様で、少なくともこの部屋を出るのは容易らしい。


「あ、あ~。瓜売りが瓜売りに――」


 何の脈絡もなく瓜売りで発声練習を始めると、始めると……。発声練習とは関係ないが、ここで重大かつどうでもいい問題に出会せる。

 一人称が思い出せない。自分が自分のをなんと呼んでいたのか。思い出せないと言うより、丸々現状に至るまでの記憶がすっぽりと抜け落ちていた。


「俺、おで?、僕、私……」


 訂正、どうでもいい何てことはない。考える度に脳内を何かが突裂く。周りよりも自身の情報がないことに、ショックと不快感が沸き上がる。思い出そうとするほどに、様々な覚えのない過去が消えて行く。

 なに一つとして思い出せない現状と、異様なまでに襲い来る吐き気に耐えられなくなり、思わずベッドの傍らへすがり寄ってしまう。

 名前さえも浮かばない頭を何度もベッドの手摺に叩きつけては、痛みに悶えた。

 そして、つい先程の少女の顔が瞼に映り、ぶつけようのない憤りが少女に向けられる。頭と腕を覆った包帯を雑に剥ぐと、黒髪の少女が出て行った扉に駆け寄り、苛立ちに流されるまま蹴破った。

 奥には廊下が続いて、壁掛けの蝋燭が若干足下を薄暗くする。十歩程度で向かいの部屋に着きそうな廊下は一直線で、出口に通じる道はない。

 あるとすれば、少女が居るであろう奥部屋からになる。

 零れだす冷静とは真逆の感情が、呼吸を荒くさせ覚束ない足取りで直進させる。扉の前に立った所で手前の時とは反対の足で同じように蹴ろうと後方へ引くと、静まり返った廊下に扉を開く音が響き渡った。

 蹴るはずだった扉が自ら開き驚いて耐性を崩し仰け反る。


「いっ!」


 た、を忘れている訳ではないが床に腰を強打し、「腰打った痛い」と流暢に言う余裕はない。向こうから扉を開けたのは、黒髪に深紅眼の少女。倒れ様、一瞬視界に写っただけで、痛みも忘れいつの間にか少女の首を掴みかかっていた。


「――!?。い、いや。これは……その」


 我に帰るのにさほどの時間は掛からなかった。絞める首にドクドクと流れる血が手のひらの中で泳ぎ回り、自分のしていることを客観的に見つめた気分になる。その間、少女が苦しむ様子はなく、寝ていた時の様に瞳の奥を見つめる。

 罪悪感に手を離すが、心の内の疑問符はいまだにへばりついている。


「……ごめん……なさい」


 その言葉を発したのは、害を加えた自身ではなく、首を絞められた少女当人。よりいっそう積み重なる疑念。


「でも、私も知らない。あなたが誰なのか、何…故あなたがここにいるのか……私が、誰なのか…」


 少女の声は低いトーンへと繋がり、最終的に聞こえない程になってしまった。

 ――ここに、なにも知らない人間が二人。互いに互いのことは愚か、自己紹介で名前さえ名乗れないほどの記憶。


「い、いや。むしろこっちが……!いきなり首根っこに掴みかかって絞め殺そうとするなんて……」


 抑えようのない怒りは、後に冷静な状態で考えればすぐにわかる過ちだった。ここにいる自分以外の人間。そして自分を知る唯一の存在。

 たったそれだけで彼女が自分の記憶に干渉しているなんて……愚かしいにも限度がある。

 けれどだとすればここを知り、同じ環境に置かれたこの少女なら、あるいはと――


「こんな状況で訊くのは間違ってるだろうけど――オレ?はここから出たい。君もここがどこか知らないなら、俺を手伝ってやってくれ……下さい」


 この少女は()よりも前にここで身動きとっている。だとすれば万一奥の部屋に出口が無くても他の道を知っているかもしれない。なんにせよ、彼女がいるかいないかでは、必然に変わるものがあるが。


「いや」


 素朴な声は、そのたった一言で思考を停止させた。

 どうでしたかね……。といってもまだ初回なので分からないことだらけだとおもいますが。

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