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第9話

  「綾子先生。校長先生がお呼びよ。」

待っていた呼び出しがあったのは、次の時限が終わった後だった。待っている間中、綾子の頭の中はそのことばかりで授業は殆ど上の空だった。

  ドキドキしながら校長室のドアをノックした。

「どうぞ。」

の声で中に入ると、宮下ともう1人の男性がいた。この人が高木だと紹介されたが、高木は綾子が想像していた地学の学者とはかなりかけ離れていた。綾子のイメージは牛乳瓶の底のようなメガネをかけ、ヨレヨレの背広に皺だらけのワイシャツ姿で、いつ風呂に入ったかわからないような異臭を放った人種だった。ところが目の前にいる高木という学者は、年こそ宮下と同じくらいだろが、その他の点では全く異なっていた。宮下が中肉中背なのに対し、高木は背も高くスーツはアルマーニで、腕時計は落ち着いた感じのロレックスだ。ひと言で言うならロマンスグレーである。これでは綾子でなくともポッとなるに相違ない。

「どうしたのかね?高木がハンサムなので驚いたのではないかな?」

ズバリ言い当てられて益々赤面する綾子。

「ハハハハ。どうやら図星だったようだね。しかし残念だが高木には奥さんも子供もいるんだよ。君があと25年早く生まれていたなら状況は違っていたかも知れないがね。」

宮下の軽口も今の綾子には全く通じない。穴があったら入りたい気分だ。

「おいおい宮下。こんなに若くて綺麗なお嬢さんをからかっちゃいかんよ。――― 失礼しました。私が高木です。何でも鼓島の事が知りたいとか。」

外見を裏打ちするようなバリトンに綾子は挨拶も忘れ何度も頷いた。

「宮下から電話を貰ってすぐにカーペンター女史が書いた回顧録を思い出しましてね。外出のついでといっては申し訳なかったが持参しました。彼女は既に故人なのですが、ご主人の口述と日記をもとに執筆し、彼の死亡を機に出版したものらしいです。その中で鼓島に関する箇所がありました。ご主人のウイリアム・カーペンター氏が南方から日本に来る途中、乗っていた軍艦から誤って海に落ち、運良く流れ着いたのが鼓島だったそうです。ここからは実際あなたの目で読んで下さい。ただ不思議なことが1つあるのですが、その中で氏の命を救った人物の1人というのがその時代にそぐわない様子だった。という箇所なんです。ま、よろしければその本はあなたに進呈いたしますよ。あ、いやいや気にしないで下さい。私はもう一冊持っているから。読んでいただける方がいるならその本も嬉しいでしょう。――― お!もうこんな時間か。では私はこれで失礼するよ。何か発見したら是非お知らせ下さい。宮下。美味いコーヒーをありがとう。じゃ、綾子さん。今度またお会いしましょう。」

綾子が礼を言う間もなく甘い余韻を残し高木は帰っていった。

  「綾子先生。どうしました?まぁね、あいつを見たら余程の人じゃない限り女性はクラクラしますよ。昔からそうでしたからね。・・・おっと、これは失礼しました。 高木も言ってましたが何かの役に立ったら是非私にも知らせて下さいね。」

「はい。校長先生、ありがとうございました。」

ようやく言葉が出るようになった綾子はそれだけ言うと、本を大事そうに抱え校長室を辞した。あとは放課後を首を長くして待つばかりだった。

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