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第74話

  その後一子ちゃんはハワイに行く途中亡くなってしまいました。私は島から脱出後、何くれとなく気遣ってくれたアレックス・ロドリゲスとハワイで結婚し、しばらくそこに滞在しニューヨークに渡りました。校長夫人はハワイでみやげ物店を手伝って生計を立てられるようになっていましたし、本人の希望もあってそのままかの地に残しました。ハワイ滞在時に勝一君に再会しましたが、あまりの変わりように心臓をわしづかみされた気分になってしまいました。心が荒んでいたのでしょうか。でもビルとアレックスのお陰で何とか立ち直った彼をビルはニューヨークに連れて行き、自分の勤める会社に就職させたの。けれどそれも2年が限度だった。勝一君はまた私の目の前から忽然と消えてしまった。・・・・でもまさか日本に戻っていたなんて。今でも信じられない・・・良さん。あの時あなたが歌ってくれた“君のために捧げる歌”は今この時アヤコさんに歌ってあげるのがふさわしいと思うわ。私は何十年も経ってからアレックスに日本語で覚えさせたのよ。もちろんセリフも付けてね。だからあなた方はこれから幸せを掴まなくてはならないのよ。一子ちゃんや勝一君のためにもね。それにね、良さん。アヤコさんをこのまま放っておくとゲイルが横からさらってしまうわよ。彼はね、今まで本気で人を好きになったことがなかったの。でもアヤコさんに対しては本気のようですからね。早く彼女を掴まえないと大変なことになりますよ。ゲイルはビルの孫ですけれど、子供のいない私達夫婦を本当の親のように慕ってくれましてね、私達の近くに住んでくれてしょっちゅう行き来しているから毎日が幸せなのです。だから、鳶に油揚げをさらわれないように注意して下さいね。    フゥ・・・・生きていて本当に良かった。あの時良さんに助けてもらわなかったら私はこんなに幸せな日々を送る事ができなかったのですからね。あなたには感謝しきれないくらいですよ。  さっきも言いましたが、今度はあなたの番です。一子ちゃんや勝一君のためにもね。・・・今では年が逆転してしまいましたけれど、良さんは永遠に私のお兄さんです。  妹からのお願いです。どうか幸せになってください。今回、日本の出版社の方がビルの交友関係を調べているとゲイルから聞いて、矢も盾もたまらず日本へ行きたいと言ったのは私です。彼は単なる付き添いのはずでしたが、日本へ来たことで理想の女性に巡り会い本当に嬉しいと言っておりました。 ゲイル、そうよね?・・・私は初七日が済んだらニューヨークへ戻ります。アレックスったら私がいないと淋しくてたまらないと電話で泣きながら訴えていたの。早く帰って来てくれってうるさいのよ・・・・あの頃良さんが持っていた携帯電話。当時はおもちゃにしか見えなかったけれど、今は老若男女みんなが持っているものなのね。・・・本当に便利な世の中になったわ。  でもその便利さと引き換えに私は何を失ったのかしら。・・・何か大切なものを無くしたような気がする・・・・わ・・・」

話し終えた絹代は肩の荷が下りたのかハンカチでそっと目頭を押さえた。その後を引き継いだ形でゲイルが祖父ウイリアムの自分に託した想いを吐露した。

  「・・・祖父は僕の父にRYOという名前を付けて鼓島で出合ったRYOのような人間にしたいと考えていました。けれど父は根っからのニューヨーカーで祖父の教育方針にはことごとく反発したのです。そこで祖父は孫である僕に白羽の矢を立てたのです。両親とも仕事が忙しく、家にいることが稀だったこともあり、僕の養育はほとんどこの絹代さん夫婦に委ねられていましたからそれが容易だったのでしょう。小さい頃から聞かされていた鼓島の話やRYOという人物は僕の心の中に深く刻み込まれましたが、まさか現実に起こったことだとは信じてはいませんでした。絹代さんから良という人は私達の世界の人間ではなく、未来から来た人なのだとそれこそ耳にタコができるくらい聞かされていましたからね。面と向かってそんな作り話、誰が信用するものか!とは言えなかったというのが本音でしたけれど。でも本当の事だったのですね。今の僕の気持ちを何と表現したらいいのかわかりません。それにアヤコさんに出会ったことも僕の心を動かしました。でも絹代さんの話を聞いた今となっては良さんとアヤコさんの未来に幸あれと祈るばかりです。どうかアヤコさんを幸せにしてあげてください。お願いします。」

絹代とゲイルの切なる願いに良のささくれ立った心にゆるやかな日差しが染み込んでいった。

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