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第62話

  翌朝。東京駅10時16分発、MAXやまびこに乗った3人は、一路Z市に向けて出発した。ゲイル氏は何度も来日し、そのたび新幹線を利用していたので全く驚かなかったが、夫人は終戦後60年の歳月を経て初めて帰国したため、その感激ぶりは大変なものだった。窓から見える風景に、『この日本をお父さんとお母さんに見せたかった。』と涙ながらに何度も呟いていた。

  11時56分。Z市到着。通常ならバスで目的地まで行くところなのだが、都合よくバスが出ている都会と違い、田舎はあと数時間待たなくてはならない。綾子はちょっと見栄を張りタクシーを使うことにした。バスは安いが時間がかかる。タクシーは高いが早い。一長一短である。とりあえずタクシーに乗る前に病院に電話をして良に(カーペンター氏とロドリゲス夫人の来訪を)伝えようとしたが、突然勝和の具合が悪くなり、(良が)外泊していると看護師に教えられ、真っ直ぐ笹崎家に向かうことにした。

  タクシーの中でも夫人ははしゃいでいたが、段々と田舎道に入ると極端に口数が少なくなり、村に着いた時にはひと言も喋らなくなっていた。あまりの豹変ぶりにゲイル氏も心配を隠しきれず、何とか気持ちを奮い立たせようと試みたが、その努力の甲斐もなく、夫人の顔は益々暗くなっていった。


  その後笹崎家に到着した彼らは、重苦しい雰囲気のまま中へ入った。

「おじさん!おばさん!綾子です!」

「綾ちゃん!」

良の父、新一が疲れた表情で偶然出てきた。

「おじさん!おじいちゃんは?具合が悪いって看護師さんに聞いて真っ直ぐここに来たんです!どうなんですか?おじいちゃんは!」

「ああ。退院してからずっと部屋に籠もりっきりだったんだけどね。今朝急に苦しみだして、救急車を呼ぼうとしたんだけれども、おじいちゃんがどうしても嫌だて言うものだからそのまま部屋で寝かせてるんだよ。往診してもらったら時間の問題だろうって。ああ!もっとちゃんと注意してたらこんなことには!」

まるで勝和の危篤が自分の責任でもあるかのように落ち込む新一。

「おじさんのせいじゃないわ。だからそんなに自分を責めないで。大丈夫よ。きっとおじいちゃんは元の元気なおじいちゃんに戻るわ。だから安心して待ちましょう。ね?・・・・ところで良ちゃんは?良ちゃんは帰ってますか?」

綾子の問いに答えるかのように奥から良が現れた。ハッとお互いを見つめ合う2人。一瞬その場の空気が変わったかに見えたのだが、後方からキャッ!という叫び声に容赦なく2人は現実に引き戻された。

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