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第55話

  そのまま病院へ直行した3人は木村医師を訪ねた。幸い木村は当直だったようで3人の訪問を快く受けた。木村の話では鎮静剤が効いたとみえて、昨晩の良は発作も起こらずぐっすりと眠ったようだった。朝一番の巡視の際には拘束も解かれ、朝食も何事もなかったように平らげていた。身体の調子も良好だということだった。

  部屋に行くとなるほど木村の言ったとおり、顔色も良く3人を見ると「やあ!」と笑顔で迎えた。

「やぁ!って良。あんた!」

「ど・どうしたんだ。母さん。そんなに怒って。ハハァ。父さんまた何かやらかしたろ。オレやだよ。いつもそのとばっちり受けんのオレなんだからな。ってまたそのとばっちりを受けるのは綾子なんだけどさ。で、どうしたのさ。そんなに慌てて。」

良の声には屈託がない。

「どうしたってみんなあんたのせいじゃないの!あんたが入院したなんて聞いたもんだから、母さん、綾ちゃんの監督不行き届きだって言っちゃったじゃないのよ!ホントにどうしてくれんのよ!全くホントにこの子はもう!」

涙で顔をくしゃくしゃにしながら泣き叫ぶ京子を優しく労わる綾子。

「綾子。お前あんまり母さんを甘やかすなよ。それなくても父さんは尻に敷かれてるんだからな。」

「それを言わんでくれよ。ま、まぁそれはホントのことなんだけどな。はははは。」

新一の乾いた笑いは座を白けさせるには充分だった。

「それよりじいちゃんの具合はどうなんだ?オレ発作が起きてあの後のことは全くわからないんだ。」

「発作って。じゃああんたは自分がそうなることを知ってるの?」

「ああ。  知ってる。それも鼓島から帰って来てからだ。・・・・あれは悲惨な体験だった。」

思い起こすのが辛いのか良はポツリポツリ搾り出すように話し出した。


  去年の九月頃、初めてあの声が聞こえた。というところから始まり、鼓島という名前からパソコンで検索しようとしたところディスプレイから突然光が出て自分を包み込み、気付いてみると60年前の鼓島にいた事。そこで知り合った一子、勝一、絹代という3人の少年少女、ウイリアムとの出会いから村長、駐在所巡査の悪事。そして戦時下であるという緊迫感の中でも肌で感じたのどかな風景。人情感、優しさ。最後に白山と絹代の父、正吉の復讐劇。その悲惨極まりない場面の直面しどうすることもできず、ただ嘔吐し、何も考えられず、気づいたらその場から逃げ出してしまっていた事。絹代の母正枝を救えなかった自分に腹立たしい思いをしたこと。唯一の救いは白山の妻だけは助ける事が出来た事。そして・・・閃光と大地を揺るがすほどの地鳴りと共に再び気づいたときは元の部屋に戻っていたことなどをなるべく詳しく語った。しかし原爆の実験材料となって鼓島が犠牲になった事実は省いた。真実があまりにも恐ろしく、口にすることが出来なかったからだ。加えて白山、正吉2人の復讐劇の段は自分でも驚くほど興奮し、身体がブルブル震えてくるのがわかった。あの光景を思い出すたび吐き気がする。上村の生首が胴体と切り離され、白目を剥いた目がこちらを向いて・・・オエ!!突然良の口から朝食べたものが吐き出された。ブザーを押すとすぐ看護師が駆けつけて来た。すぐに脈を取り血圧を測った。家族の方は外に出ていてくださいと言われ、廊下に出る3人。そのあとすぐ木村医師が走ってきた。

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