表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/76

第43話

  続いて良も中を見た。その途端また吐いた。つられるように書生も吐いた。中は凄惨極まりない状態になっていた。

まず目に飛び込んだのが、上村の生首と、首から下の部分。それも半裸の状態で、刀で滅多切りにされ、更にピストルを数発打ち込まれた物体となったものだった。その傍にこめかみを撃って倒れている正吉と、割腹して果てた白山の遺体があった。良のひと声で正気に戻った書生が慌てて家人を呼びに行った後、良は白山の手にしっかりと握られている紙を見つけた。それを自分のポケットにねじ込むと、誰かが戻って来る前に上村邸を逃げ出した。捕まってはあとあと困るからである。

  途中白山邸に寄った。中はもぬけの殻で、ミキ子が良の言ったウソを信じ、待ち合わせの場所の海岸へ行った事が想像できた。こうなったら一刻も早く正枝を連れて海岸へ向かわねばならない。良は再び全速力で走った。

「おばさん!オレと一緒に行きましょう!」

靴を脱ぐのも面倒で、そのまま玄関から駆け上がり居間の障子を勢い良く開けた。そこには正枝が横たわっていた。あの赤い包みを手に握り締め、既に事切れた状態だった。ちゃぶ台の上には良宛の遺書が残されていた。

『正吉の後を追います。絹代を頼みます。』

たったそれだけだったが、正枝には夫が生きて帰らぬことがわかっていたようだった。

「ああ!!」

もう少し正枝のことを考えて行動していたら!それが悔やまれた。まさかこんな事態に陥るとは・・・だが悔やんでばかりはいられない。上村の家から追っ手が来る前にここを去らなければ!

  今度は慎重に守野家の勝手口から外へ出た。既に外は暗くなっていたが良もここの生活に慣れてきたのか、多少暗闇でも灯り無しで歩けるようになっていた。向かうは北の海岸である。

あたりの様子を窺いながら目的地に着くと、指示したとおり、白山ミキ子が良を待っていた。

「良かった!来て下さったのですね!」

小声で話しかけるとミキ子は不安そうにあたりをキョロキョロ見回した。

「主人が参りませんが、どうかしたのでしょうか?」

「ご主人はあとから来られるそうです。先に奥様を逃がしてくれと頼まれました。」

「逃がす?一体どういう事ですか?」

「詳しい説明は後でします。・・・まずは。  あれに乗って下さい。」

良が指し示す方向を見ると、小船が一艘いつの間にか現れていた。もちろん漕いでいるのはアレックスであったが、上手く変装していたので近くから見ても日本人にしか見えない。

「え?これに乗るのですか?乗ってどこへ行くのです?わたくしが女だからと甘く見ないでください!」

さすが教育者の妻だけにミキ子は理にかなわないことはどんなに些細なことでも首を縦に振らない主義らしい。しかし今はそんな悠長なことを言っていられる状況ではない。その雰囲気を察し、アレックスがミキ子の鳩尾に軽い一撃を当てた。ミキ子の身体は音もなく崩れ、アレックスの腕の中に納まった。彼は良に目配せをすると素早くミキ子を船に乗せ、引き続き良も乗るよう手招きした。

「ダメだ。オレは残る。ここにいなければオレは自分の場所に戻れない。アレックス、計画は何時に決行されるんだ?」

「夜明け前。」

「ならオレは最初にこの地を踏んだ地点に戻らなくてはならない。さぁ行ってくれ!行ってその人を助けてやってくれ!」

その切なる想いが通じたのか、アレックスは無言のまま船を漕ぎ出した。このまま誰にも見咎められずに行ってくれ!空を見上げた良は、今宵が新月であったことに深く感謝した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ