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第32話

  「か・かずこ・・ちゃん?」

狭いベッドに寝かされ、体中包帯だらけの人物はあの一子だったのだ。一子も入って来たのが良だとわかると、傷だらけの身体を必死に起こし、両手を広げ近づいた良の胸にしがみつきわんわん泣き出した。

「い・いったいこれは・・・」

「それは私から説明しましょう。」

良の後ろに控えていたビルが口を挟み、これまでのいきさつを話し始めた。


  勝一の消息が分らなくなり一時錯乱状態に陥った一子は、転地療養と称し村長宅に預けられた。まず最初に入れられたのは蔵のような部屋で、灯りも乏しくおよそ病人が落ち着けるような場所とは言い難いところだった。夢うつつの中で一子は誰かが中に入ってくるのを見たが、それが村長と駐在の大島だということに気付くまでかなりの時間を要した。

「村長・・・さん? 駐在さんも。どうして?」

恐る恐る訊ねる一子に2人は薄ら笑いを浮かべた。

「お前は狂ったのだよ一子。だからね、ここから出て行ってもらわにゃならん。いいね?」

「村長さん?私・狂ってなんかいません!勝一がいなくなってずっと捜してて、それで・・」

最後の言葉は涙で途切れた。

「勝一?おお!そうじゃな。で?見つかったのかな?」

そう言って一子を見下ろす上村の目に、一子は冷水を浴びせられた気がした。思わず首を横に振る。

「そうかそうか。それは心配じゃろうて。」

言葉もおざなりで感情が全くこもっていない。

「一子。お前はやはりまだ直っとらんようだな。少し気合を入れてやらんといけんのぉ。大島?」

上村が大島に声をかけるとそれまで黙っていた大島が突然竹刀を振り翳した。問答無用である。

「ヒー!!」

一子の声が土蔵の中に響く。だが大島は機械仕掛けの人形の如く黙々と竹刀を振り下ろした。

「どうして!どうしてなの?」

一子は痛みに耐えられず、ボロボロ涙を流しながら切れ切れに叫んだ。

「どうしてだと?フン!まぁいいわ。どうせ最後だ。教えてやろう。勝一はな、今のお前のようにこの大島に叩かれ骨を砕かれて死んだわ。」

その言葉に驚いたのは一子だけではなかった。上村は勝一の死の原因を作ったのは大島だと言い、悪行の全てを大島にひっかぶせてしまったのだ。大島にしてみれば村長という立場の人間から命令され取った行動が、最後の段階になってして全責任を負わされてしまった形になった。ああ!俺は何という馬鹿なことをしてしまったんだ!目の前が白くなって大島の巨体が柳の枝のように折れ曲がりそのまま倒れた。

「ええい!役立たずな男だ!」

上村は大島の手から竹刀をもぎ取り、その勢いのまま再度一子目がけて振り下ろした。ビシィ!!その音と共にグシャと鈍い音がして一子の身体が変形し崩れた。

「ふん!背骨が折れたか。やわな身体だ。オイ!大島。起きろ!起きてこのごみを捨てて来るんだ。全く身体ばかりでかくて使えん男だ。いずれお前も処分せにゃいかんな。オイ!起きろ!」

上村は足で大島の巨体を転がすと、薄っすら目を開けた大島に向かって命令した。

「どうせ用済みの娘だ。勝一と同じくお前が処分しろ。いいな!」

上村は大島の返事も待たず土蔵を出て行った。一子は背中の痛みに負けそうになりながらも、はっきりと上村が言った“勝一と同じく処分しろ”という言葉を聞いた。勝一は殺されたのだ。それを認識した途端、一子の意識が遠のいた。

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