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第20話

  この・・・に来てから数日後。そろそろ着ているものを洗濯したくなった良は、絹代の父、正吉の服を拝借し自分の服を洗った。もちろん洗濯板を使い、固形石鹸で洗うのである。それまで良は洗濯というものは洗濯機がやってくれるものだと思っていたので、いざ自分の手で洗うとなると全く勝手が分らなかった。そこで一から絹代に教えてもらうことになった。初めに衣服を濡らし、板にあてがい石鹸を擦りつけゴシゴシ洗う。一つ1つ丁寧に洗うのだ。昔の人は大変なことを普通にやっていたんだなぁ。と率直な感想を口にすると、絹代は普段通りの事をしているのにそんなに感心する良の方がおかしい、変だ。と言った。

  洗濯をしたことがないならお勝手仕事もしたことがないだろうと、絹代は面白がって食事の支度も教えようとした。ところがそれは母、正枝のひと言であえなく撃沈してしまった。台所に男を入れるとは何たること!というのである。そこで良は初めてお勝手=台所であることを知った。しかも台所は女の仕事場であり、男がみだりに立ち入ってはいけない場所だということも初めて知った。現代[良が言うところの]では、男が家事一切をやり、女が外で仕事をする。所謂いわゆる主夫も増えているのだ。その事を言うと、正枝は女の仕事放棄だ!と烈火の如く怒った。助けてくれぇ!とばかりに外に逃げると、プーンとなにやらクサイ臭いがする。正吉が木のバケツから何かをすくって畑に撒いていた。正枝に怒鳴られ逃げてきた事も忘れ、その中味の正体を聞くと“こえ”だと正吉が教えてくれた。

「こえ?こえって何ですか?それにクサイですね。何です?」

「本当にわからんのかね?一般的な言い方をすると、小便とフンだよ。こうやって畑に撒いて肥料にする。君の世界でもやっているだろう?」

「うわっ!こんなもん肥料にならないでしょう!!肥料は化学肥料ってオレの田舎でも昔から決まってる!!うわっ!くっさ!!」

小便とフンと聞いて良は3メートルくらい後ろに飛んでしまった。その足元に正吉はわざとフンをばら撒いた。

「うううううわ〜〜〜!!やめてくれ〜〜〜!冗談じゃないよぉ!!全く!」

尻尾を巻いて逃げ出す良の後ろからアハハハと高笑いする正吉の声が聞こえた。

  その笑い声がまるで合図だったかのように突然空襲警報が鳴った。慌てて防空頭巾を被り防空壕へ逃げ込む。正吉も持っていた長柄杓ながひしゃくを投げ捨てて壕へ飛び込んだ。すると間もなく米軍の飛行機が姿を現し、バリバリという爆音と共に砲弾が放たれた。文字通りアッという間の出来事だった。

  2時間後。空襲警報解除のサイレンが鳴り、壕から出た良はその惨状に体が凍りついた。逃げ遅れた島民が砲弾に当たりただの肉片と化していたのだ。この時代は一瞬の遅れが命取りになるのだ。ついさっきまでの長閑のどかさは何だったのだろうと、改めて戦争の恐ろしさを痛感する良だった。後は肉片となった者の肉親と思われる年寄りがそれ(・・)を胸に抱き締め大声で泣いていた。

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