表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/76

第14話

  『1945年 3月1日

 私は今日という日を生涯忘れないだろう。なぜなら、やっと自分の意思を自分の国の言葉で話せる相手を見つけたからだ。いや、見つけたという表現は間違いだ。キネヨが連れて来てくれた友人の1人が偶然にも英語を話せたのだ。それもカタコトではなく、流暢な英語だ。彼の名前は“RYO”と言った。彼の説明でこの島の名前が“TUZUMIJIMA”ということを知った。嬉しくなった私は早口でこれまでの経緯を話した。すると“RYO”は完全に理解したように見えた。だがあとの2人。(やはりキネヨが連れて来たのだが)姉弟は私をじっと睨み、今にも飛び掛りそうな形相をしていた。もっとも姉の方は私がケガを負っていると聞かされるとすぐ傷の具合をみてくれた。彼女の診立てでは間もなく快復するだろうとのことで、その後は好意的に接してくれた。看護婦になるのが夢だそうだが、彼女なら人種を問わない良い看護婦になるだろう。ところが、弟の方は終始私を睨み続け、結局ひと言も語らず帰って行った。キネヨには申し訳ないが、ケガの如何に関わらず、早目にここを引き払った方が良さそうだ。』

『1945年 3月5日

 これまで親身になって世話をしてくれた杵よに何も言わず出て来てしまった事に申し訳ない思いで一杯だが、彼等が来た翌日私はあの小屋を出た。身を潜めながら海岸に出ると、非常時の連絡方法である秘密の狼煙のろしを島民に見つからないように上げた。

 翌日になって小さな船が私の待つ砂浜近くにやって来た。乗っていたのはあの日甲板で私にぶつかった水兵と、もう1人は私の友人のアレックスだった。私達は抱き合って再会を喜び合った。もうダメだろうという者も中にはいたらしいが、彼等2人だけはビルは絶対に死なないと今日まで探し続けてくれていたのだ。

 急ぎその船に乗り母船に乗った。戻ってから2日後にこの日記を書いている。落ち着いてみるとやはりキネヨのことが思い出された。申し訳ないことをしたと後悔している。この埋め合わせは必ずしようと思う。』

『1945年 3月11日

 非常に悲しい事件だ。わが国にとっては小さな石が落ちたような事だが、これほどのことになろうとは!東京が我が軍の攻撃で火の海と化しているのだ。大勢の人達が死に、家は焼かれている事だろう。私のような者でさえ想像できるのだから、上層部の人達はより詳細に知っている事だろう。しかも私達はそれ以上のことをこれからやろうとしているのだ。』


  綾子はそこで一息ついた。というよりもその後は突然1945年8月6日。つまり広島に原爆投下された日になっていたからだった。“RYO”って一体誰?まさか、そんなはずないわ!心配になった綾子はすぐ携帯を取り出し良の短縮番号を押した。プルルル・・・ほーら、通じるじゃない。何かの事情で良ちゃんは帰宅しないだけなのよ。そうなのよ。自分に言い聞かせながら綾子は良の応答を待った。しかし結果は・・・『電源が入ってないか、かかりません。』機械的な声が空しく聞こえただけだった。何故?どうして?綾子は良を想って泣いた。泣きながら日記の続きを読んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ