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第一異世界人

 ドン!


 大きな音と共に吹き飛び、勢い良く地面を転がるオズが立ち木に当たって止まった。


「オズ君!」


 タカコがオズに駆け寄る。

 大型の猪の突進をまともに受けて倒れたオズは、タカコの心配を他所にむくりと起き上がる。


「痛くはないけど目が回った」


 ズン!


 地響きを立てて猪モドキが倒れた。脇には右手を伸ばしたリカが立っている。


「ちょっと、大丈夫なの?」

「問題ない。……でも、硬いだけじゃダメだね。体重が足りないからまともに当たったらぶっ飛ばされちゃう。受け流しなんて分かんねーし」

「んー、それなら盾になるって考え方は止めた方が良さそうね。オズ君が無事でもそこからいなくなっちゃったら意味がなくなっちゃう」

「だね。できるだけ避けるようにするよ」



「……現地人発見が一度に三人で一人は明らかに怪我をしているって。そしてやっぱり手が四本。アシュラマン? いや、あれは手が六本か」

「ボケてる場合じゃないわよ。どうする?」

「放っておくのもねえ……」

「橇に乗せようか。戻ったらタカコさんの魔法の実験台になってもらおう。……後は言葉とか風習とか。聞きたいことは山ほどある。多分言葉が分からないけどなー」


 大きな木の根元に人が三人いた。二人は木にもたれて目を閉じ、一人は倒れ右肩に矢が刺さっている。三人とも薄汚れているが、それなりに上等な服を着ていると思われた。

 木にもたれているのが少年と三十歳前後と思われる女、倒れているのが中年の男だった。

 そして想像はしていたが、人の体に腕が四本あるのは違和感が凄い。

 橇の上の猪をずらし、三人を丁寧に乗せる。オズが引き、リカとタカコが押す。


「矢の刺さってるおっさん、鎧を着てるよ。やっぱりファンタジーか?」

「魔法が使えるくらいだからねー。定番よね」

「さて、どんなことがあれば人に矢を撃つ様な事態になるのかしらね。きっと面倒が待ってるわね」



 洞穴に戻り、タカコが新たに作った寝台に三人を寝かせ、治療を行う。タカコの魔法で肩周辺を麻痺させた上で矢を抜き、患部を修復した。

 残りの二人には目立つ外傷はないが一向に目を覚まさない。


「とりあえず、メシの準備をしよう」


 焚き火を熾し肉を焼く。洞穴内に香ばしい匂いが立ち込める。むしゃむしゃと食べていると寝台から呻き声が聞こえてきた。見ると少年が目を覚まし、こちらを見ている。


「おう、起きたか。……食うか?」


 声をかけたものの少年の目が肉に釘付けになっていることに気づき、苦笑して肉の刺さった枝を差し出すオズ。

 少年はキョトンとした顔で三人と肉を見比べる。


「あー、俺の言っていることが分かるか?」


 首を傾げる少年。何かを言っているのだがさっぱり分からない。


「予想通りっちゃ予想通りだな。言葉を覚えるところからってハードルが高すぎじゃね?」

「仕方がないでしょう。……お腹は空いてるみたいだし。食事しながらコミュニケーションかしらね」


 オズが手に持った肉をタカコが取り少年に近づいた瞬間、寝ていた中年男が飛び起きてタカコを羽交い絞めにした。手には小刀を持ち、タカコの首に突きつけている。

 早口に何かを言っているが、少年の言葉が分からなかったのが中年の言葉が分かる道理もない。


「……どうしよう?」


 さほど慌てた様子も見せないタカコが呟いた。


「何か要求しているんだろうけどさ、何言ってるのか分からないから交渉のしようがないのよね」

「俺なら隙間から狙い撃ちできるけど、やっちゃう?」

「うん、でも、殺しちゃダメよ」

「人殺しの覚悟はできてないよ」


 オズとリカは座ったまま言葉を交わす。視線だけは中年男から外さない。

 中年男が少年を庇うように前に出た。女もようやく目を覚まし、あたりを見回すと中年男の陰に隠れる。


「何か、エラい警戒されてますな」

「誘拐犯だと思われてたりして」

「ありそう。これで怪我させたら尚更かな」

「仕方ないんじゃない。タカコさんをあのままにもしておけないし」

「そうだよー。早く助けてくれないと魔法使っちゃうわよ。大惨事よ」

「はいはい。んじゃ、ちょっと目を閉じてね」


 ひょいと右手の人差し指を中年男に向けると指先が二回光り、男の持っていた小刀が落ちた。

 悲鳴を上げて倒れた男の右肩と右脚の腿からは煙が上がっている。

 男の手から抜け出したタカコが眉をひそめた。


「やり過ぎじゃない?」

「んー、殺されても文句は言えないと思うよ。助けた恩人に刃物を向けるなんてさ」

「その通りよ。余裕がなかったら殺したかも」


 倒れている中年男のそばから小刀をどけ、タカコが治療を行う。あっという間に塞がった傷口を見て目を丸くした少年と女は口々に何かを言うがやはり何を言っているのか分からない。


「危害を加えるつもりはない、って言っても分からないのよね……」

「何にしてもメシ。腹が減ってたら落ち着いて話すこともできないよ」

「そうね。食べてから自己紹介かしら」


 タカコは羽交い絞めにされても落とさなかった肉を少年に与え、更に二つ手に取り女と中年男に渡す。少年が肉と男の顔を何度も見比べると、暫く悩んだ男がまず口をつける。暫く咀嚼してから少年に頷くと少年がガツガツと食べ始めた。女も同様に食べ始める。

 オズ達三人も中断していた食事を再開した。

 食事が終わり、落ち着いたところで改めて客人に向き合う三人。それぞれを指差して名前を連呼することで簡易な自己紹介は何とか済み、少年がトカウ、中年男がヤージェ、女がリジュであることは分かった。

 年齢的に親子のようにも見えるが、男の少年や女に対する態度から、男は二人に仕える立場と思われた。

 さらに身振り手振りを駆使し、どうやら三人は追われているらしいということは理解できたが、なぜ、誰に追われているかまでは分からない。

 ちなみに、四本の腕を駆使しての身振り手振りはオズ達にとって斬新過ぎて、笑いを堪えるのが大変だった。


「予想通りの面倒事ね」

「かと言って見捨てるのも気分が悪いわ」

「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず。おっさんだけならともかく、女子供はちょっとね」

「まあ、当分この人達の面倒を見る代わりに色々教えてもらいましょう。言葉とか常識とか」

「そうね。さっきタカコさんの魔法でビックリしてたからそこらへんも聞いておかないと。案外魔法って一般的じゃないのかも」

「気軽に言うけどさ、喋れるようになるのってどれくらいかかるのさ」

「さあ?」

「日本語以外喋れるようになったことないもの。分からないわよ」

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