オズが歩いた
翌朝、いくらかマシになった寝床から起き上がった三人は前日と同じように活動を始める。 排泄や入浴で若干の騒ぎはあったのも前日とは変わらず。
二人が温泉の下流に向かい食料の調達を行っている間に、オズはタカコの魔法で平面となった洞穴内で歩行訓練を続けていた。
三日目にもなると多少は慣れ始めてはいるが、満足には程遠い状態にある。
「つっかえ棒でもいいから義足を作るべきだな。……どうやって固定しよう。そのまま当てるときっと痛いから鞘みたいなのを腿につけてそれに差し込む感じか……。腿には紐かベルトで留めて……そのままだと上にずれるから最初から股関節固定? ……エイハブ船長の足ってどうなってんだよ!」
ぶつぶつと呟きながら杖を使い歩き続ける。時折足を止め体を伸ばして一休みするとまた歩き出す。
「つーか、姐さんの魔法で義足が作れんじゃねーのか? 帰ってきたら聞いてみよう……」
夕暮れ前に洞穴に戻ってきた二人は数匹の魚を捕まえており、今のところ食料の調達は順調と言って良いだろう。
洞穴の外でタカコの魔法で火を焚き火を熾し、鱗を剥がして内臓を抜いた魚に木の枝を刺して直火で炙る。調味料がないので素の魚の味であり、少々臭みはあるものの食べられないほどではない。
夜にはオズの懇願により木を魔法で加工し、右脚の切断面にポッカリと嵌め込めるラバーカップ(トイレの掃除用具)のような形に足底をつけた義足も作られた。嵌めただけでは歩くと取れてしまうので、蔓を加工したガーターベルトで腰から固定するようになっている。
膝や足首の関節はないため不恰好ではあるものの二足歩行が可能となった。
「ん、脚に意識を持っていくと……、おお、これだ!」
「何? どうしたのよ?」
洞穴内を歩き回っていたオズが発した突然の声にリカが反応した。
「できたよ! 俺の不思議パワー!」
「何があったの?」
「脚から出る!」
「……全然分からない」
「ちょっと見てて」
タカコの作った岩の寝台に腰掛けたオズが右脚を水平より少し上に伸ばしてベルトを外す。手を触れていないのに義足がゆっくりと回転を始めた。グルグル回る。
「……意味が分かんない」
「……」
呟くリカと無言のタカコ。
「見て分からないの?」
「その言い方、ムカつく」
「……」
得意気なオズとしかめ面のリカ。タカコは回転する義足をじっと見ている。
「右脚から出せるんだよ!」
「分かるように話して欲しいかな」
「だから右脚から出せるんだって!」
「分かんないわよ!」
「……リカさん、きみはじつにばかだな」
「殴るわよ」
「ごめんなさい」
「で?」
「俺の不思議パワーは右脚から出せる。で、出したものを義足に流し込んだ。流し込んだら動かせるようになった」
「……」
「関節があったら普通に歩けるようになるんじゃないかな。……姐さん、バージョンアップできる?」
「今日はもう疲れたし、材料もないから明日ね」
「むう、仕方ないか」
翌日には膝と足首の関節を取り入れた新しい義足が作られた。オズの要望により人の足を模した形になったが、膝は二重関節になっており、正座も可能となっている。膝も足首も一方向にしか動かないが、これまでのことを考えると十分以上に行動し易くなったと言える。
余った木材で二本指のマジックハンドのような義手を作製してみたところ、右脚と同様に右腕からも『不思議パワー』を出せ、物を掴む程度はできるようにもなった。
今はまだ意識しないと動かせないが、生身の手足と同様に無意識に動かせることを当面の目標にしている。
現時点での問題は出力のコントロールが難しく、ちょっとしたことで周辺の破壊をしてしまうことにあった。
また、木製の義手が岩壁に穴を開けたことから『不思議パワー』を浸透させたものは硬度が極端に向上することが確認された。
なお、穴の開いた箇所はタカコによって修復されている。
「俺、サイボーグじゃね?」
「漫画の出来の悪いロボットみたいよ」
リカの揶揄も気にならない。数日とはいえ一人では満足に排便もできなかったのが劇的に改善され、人並みの行動が可能になりつつあることに気持ちが舞い上がっている。
「姐さん、手首と五本指付きをお願い!」
「簡単に言うけどね、結構細かい作業だし疲れるのよ。それに、全く同じように動くなんて無理よ。どんな関節にしたら良いのか分からないもの」
「大体で良いから頼むよー」
「……分かったわよ。今度ね」
厚かましく要求するオズに苦笑しながら承諾するタカコ。リカも口では馬鹿にしながらもその光景を微笑ましく見ていた。